11年目の君の歌 -#渋谷凛「Reflective illumination night」感想- | 「月松橋」活動報告

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同人団体「月松橋」です。

●はじめに

 

 普段以上に個人の感想マシマシでお送りします

 

 

●導入:渋谷凛の「3曲目」

 

 

 2022年4月発売の「STARLIGHT MASTER R/LOCK ON! 04 堕ちる果実」に収録された、渋谷凛の3曲目のソロ曲が「Reflective illumination night」です。

凛のソロ曲は今までに2曲出ており、シンデレラガールズそのものにとって最初の楽曲となった「Never say never」が1曲目、TVアニメ版「シンデレラガールズ」の終了直後/リズムゲーム版「スターライトステージ」の稼働開始最初期に発売された「AnemoneStar」が2曲目です。前者は2012年4月リリース、後者は2016年4月リリースなので、「Never say never」から「Reflective illumination night」までがちょうど10年、「AnemoneStar」から「Reflective illumination night」までがちょうど6年となります。

 

 モバマス黎明期の初楽曲である「Never say never」と、TVアニメ版の物語を色濃く反映した「AnemoneStar」は、いずれも凛をある種の「ルーキー」として描いています。一方、「AnemoneStar」後の6年間で大きく成長を遂げているのが凛本人のキャラクター性です。アイドルとして「自分は今のままじゃだめだ」との成長願望を確固たるものにした2016年6月の[オーバー・マイセルフ(デレステ白フェス限SSR)]、シンデレラガールズそのものの既存概念の破壊を宣言した2018年の「ガールズ・イン・ザ・フロンティア」、アイドルの枠を超越した挑戦に挑む姿勢を示した2020年4月の「Great Journey」あたりでその成長は既に顕著でしたが、最大のターニングポイントとなったのは2020年5月の[アストラル・スカイ(デレステ期間限定②)]でしょう。「もう私が走り続ける姿は見なくていい」「私の歌声だけを記憶に焼き付けて欲しい」とさえ宣言したこの新境地をもって、凛は「まだ見えないけど走る」「何も分からないけど走る」と言う領域を  「ルーキー」と言う領域を完全に脱したのでしょう。

 

 

 

 

 

[アストラル・スカイ]以降の凛にとって「Never say never」と「AnemoneStar」は、今も噛み締めるべき過去であり越えていくべき昨日の自分ではあります。その文脈での魅力を最大限に解き放ってくれたのが、10thアニバツアーと言う節目にて披露された「愛知公演day2の『AnemoneStar』」であり「千秋楽の『Never say never』」でした。

 

 そして、これら2曲を継ぐ存在が、「Reflective illumination night」なのだと思います。これは渋谷凛のソロ曲としては史上初めて「渋谷凛の成長」を踏まえて作ることが可能になった存在なのだと思います。

「明日が見えない」「何も分からない」「それでもとにかく走り続けるんだ」  それをこのアイドルの世界で生きるよすがとして来たかつての凛とは違う凛が今確かに此処に居るのだと、そう示す最初の歌が「Reflective illumination night」なのだと思います。

 

●主論:楽曲感想

 

 改めてこの曲と向き合ってみましょう。この歌については発売前に福原綾香さんから「肩の力が抜けたオシャレな曲😌✨」とのコメントがありましたが、実際聴き手としてはどちらかと言えばリラックスして聴くべき枠組みに入るのかなと言う印象。「さよならアンドロメダ」とか「レッド・ソール」とかが近いと言えば近いかも?

 歌う側になった場合に「肩の力を抜ける」かどうかは個人的にはすごく疑問ですが。だいぶテクニカルなVo力を要求する歌だとは思います。一方、「AnemoneStar」「Drastic Melody」等で前面に押し出されていた「力強さに全振りした迫力」は今回そこまで駆使されておらず、落ち着いたメロディに載せて届けられるその歌声は「Never say never」の正統進化系とも言うべき立ち位置にあるものと感じられます。

 

 

 さて歌い出し。ものすごく詩的な言い回しですが、標準語で解釈すると「流れ星と自分を重ねてみたよ」「今ここで光っているよ」と言うことを言っているみたいです。

「まだ見えない明日へ」「あの場所へ走り出そう」と歌っていたソロ1曲目、「いつか見つけられるよねAnemoneStar」と歌っていたソロ2曲目に対して、「今ここ(=凛がいる場所)で星が光っているよ」と歌うこの3曲目の特異性はこの時点で明らかなのではないでしょうか。「かつて目指していたものがすぐそこにある場所に、今凛がいる」ことを示唆するこの歌詞はあまりに眩い。この時点で勝ち確と言ってもいい。

 

 1番Aメロ~Bメロ。「走り出した世界に独り置いてかれたような」と言うフレーズは、「Never say never」の「過ぎてゆく時間取り戻すように」と言うフレーズを想起させます。凛が「変わりたい」願望を自覚するようになるのはアイドルになってからのことですが、それ以前の段階でも「自分は変わろうとしていない」「だけど、世の中や周りのみんなは変わって行くもの」という認識は心のどこかにあり、それだけにPと出会った際には心揺らぐものがあったのだと思います。

「止まった時」とは「走り出した世界」と相反する要素ではありますが、実際に「(凛の主観的な)時間が止まった」と思える描写を私達(=プロデューサー達)はTVアニメ版で観たことがあります。そして、それに対応する描写を、モバマスやデレステで観たことも。

 

↑これはTVアニメ版

 

↑これはモバマス版(シンデレラガールズ劇場第326話)

 

↑これはデレステ版(シンデレラガールズ劇場わいど☆第256話)

 

 1番サビ。「輝く気持ちその瞳」とありますが、この「瞳」とは凛自身の瞳のことではない気がします。人は自身の瞳を通してモノを見る以上、自分の瞳を見ることはそうないのだから。人が誰かの瞳を見るのは、多くの場合、自身のことを見つめる他人のそれを見る時なのだから。

 故に、凛が「輝く気持ちその瞳」と歌うそれは、凛を見つめる誰かのそれなのではないでしょうか。それは時に自分を選びステージへと届けたプロデューサーのそれで、時に自分と共にステージに上がる仲間のアイドルのそれで、時に観客席から自分にエールを送るファンのそれなのではないかと。それは凛がアイドルとして活動する時「いつでもいつの時でも」目にしてきたものであり、「何度でも何度も」彼女の胸を高鳴らせてきたものなのだと思います。

 付言すると、このパートで「夢舞う」場所を(そら)と表現しているのもエモいですね。「星の宙(アストラル・スカイ)」を経て新たなステージに入った彼女が、「宇宙」そのものをモチーフとした公演の事実上のセンターを務め、あの宙で特に明るく輝く恒星の名を関した絆を紡いだ先で(そら)と歌うのはエモい。

 

↑これは宙にいた時の凛(のイメージ)※デレステ「星環世界」MV

 

 2番Aメロ~Bメロ。凛自身による最も美しい「Never say never」の再解釈であり、「ココカラミライヘ!」で示した「冷めたふりの背中」の真意であると思います。「振り返らず前を向いて/前だけを見据えてく」「走り出した私のストーリー」の始まりで覚えた「この胸の高鳴り」を「ずっと忘れないで進む」「続いてくその先へ」。それは「かつての原点とは異なる場所に今の私はいる」ことの証明であると同時に「原点に逆戻りはしないが、原点を忘れはしない」「そしてこれからも進み続ける」と言う決意表明。

 

 2番サビ前半。「溢れる想い伝えたい」「そうどこまでも走れるから」。「Great Joureny」と[アストラル・スカイ]を経た現在の渋谷凛を、最も端的に示すフレーズではないでしょうか。自分の個性を成していた要素である「どこまでも走る」ことをいち手段として、「感動と興奮を届けたい」と言う目標の達成を目指すに至った今の凛を示す最小単位が、この歌詞この歌声なのではないでしょうか。

 付言すると、「溢れる想い伝えたい」と言う言葉が「Trancing Pulse」(Triad Primusの代表曲)のサビ部分と限りなく近似していることには縁を感じます。これがもし意図的なものだとすれば、冒頭で凛が自分と重ねたのがただの「星」ではなく「流れ星」だったのもあのキセキ(new generations)をなぞろうとするが故か?

 

 2番サビ後半。「Never say never」では「君」への想いを、「AnemoneStar」では「あなた」がくれたものへの想いを歌っていた凛の口から「皆の夢」と言うフレーズが紡がれます。私の歌詞読解力が節穴でなければ、凛のソロ曲で明示的に一対多の関係が描かれるのは  一対一のみで完結しない関係が描かれるのは、今回が初な気がします。

 今このタイミングで「『渋谷凛』と『皆』の関係性」について思い返すと、ふーりんが愛知で触れていた「10年前の『反響』」を避けては通れない。渋谷凛が史上初めて声を発したあの日、ふーりんをアパートの自室で心底震えさせるほどの反響がCMを耳にした皆からあったことで、その後の未来が広がっていったのかも知れないと言うあの出来事を。

 

 

 

「Reflective illumination night」  「反射し得る光の夜」。「illumination(光)」が「アイドル」の比喩であり、「Reflect(反射)」がそのアイドルへ投げ返される「反響」の比喩なのであれば。この単語は、凛と、彼女に反響を返す全ての人によって紡がれる、誰を欠くことも出来ない輝きの夜、そのために作られた存在なのではないでしょうか。

 

 その夜は、今までも幾度となく繰り返されてきました。そして、これからも繰り返されるのでしょう。繰り返すことを、凛も、彼女の担当Pも、目指すのでしょう。感動と興奮を届けるために。この胸の高鳴りを一層感じさせるために。 

 

 凛の走ってきた道が「AnemoneStar」以降に限っても決して順風満帆ではなかったこと、皆様もよくご存じと思います。[オーバー・マイセルフ]「ガールズ・イン・ザ・フロンティア」「Great Journey」……そして何より「Drastic Melody」は、そんな凛を襲った困難の名でもあり、凛が時に立ち止まった場所を示す標識でもあります。

 そんな彼女が歌うDメロは刺さります。凛のソロ曲でそう簡単に快晴が望めないのはある種の様式美となっている部分がありますが(「薄もや」の「Never say never」、「灰色に曇った空」の「AnemoneStar」)、今「Reflective illumination night」で凛が歌う天気はあの日の豪雨ですらあるかも知れない。それでも「思い出して今日の空を」「明日は晴れるから」と歌えるのは彼女の強さ故か。たとえ二度と日が昇らないとしてもあの絆の星(Sirius)とその和音(Chord)はまた頭上に輝くことを知るが故か。 

 

↑あの日の豪雨(渋谷凛[Drastic Melody]特訓前/「Drastic Melody」イベコミュ)

 

 落ちサビ~アウトロ。ここまで駆り立てて来た想いと輝きをクライマックスに向けて一層高めていくパート。締めのフレーズは、この歌を最後まで聴いた全ての方に対する渋谷凛流の殺し文句ではないでしょうか?
「今宵」は今宵であって、凛が走り出したあの日ではない。だけど凛は、今宵のことも忘れない。走り出してから重ねて来た幾つもの「時」を今でも覚えているように、「皆」にこの歌を届けた「今宵」のことも忘れない。
 その「皆」の中には、貴方もきっと含まれているのです。ライブで「お願い! シンデレラ」を歌うたびにステージを端から端まで駆け抜け、ひとりでも多くの観客と時間を共有しようとする凛のことなのだから。皆と過ごしたこの夜のことを  あなたのことも含めて、きっと彼女は忘れない。
 
 だからどうか貴方もこの歌を聴いて欲しい。そして、聴いたその時のことを記憶に刻んで欲しい。そう思います。
 

●おわりに

 

 楽曲感想の項目だけで4000文字くらいの分量になってました。まだCD音源オンリーなのにこの破壊力。

 ライブで披露された日には、本当にどうなってしまうのでしょうか。凛が何よりも眩く輝き、彼女を見届ける人々が何処よりも熱く反響を返すあの場所に、「Reflective illumination night」の歌声が響くその日には。

 

 そう遠くないうちに、その日が来ることを祈ります。10年と言う節目を越え、11年目へと踏み出すに際して渋谷凛が生み出してくれたこのは、まずは「今」歌われて欲しいと思います。この「11年目」の年のうちに、歌い手と聴き手が空間を共有できる場所でぜひとも歌われて欲しいと思います。

 

 そしてその日、輝く気持ちその瞳を、私達から凛に届けられることを、祈りたいと思います。