【2020/10/9時点】無念の鳥取県条例改正案可決。軽視されてしまったネットの権利 | 「月松橋」活動報告

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同人団体「月松橋」です。

■はじめに

 

先日のブログでもその問題点を取り上げた鳥取県青少年健全育成条例改正案は、10/8、鳥取県議会本会議にて全会一致で可決されました。

 

 

この改正案に対しては、県の内外から、一定数の疑問の声が出続けておりました。疑問の声を上げていた者のうちには、鳥取県議会議員に自ら連絡を取り、その意見を伝えた者もおります。

にも関わらず、それらの疑問の声は、委員会採決・本会議採決の場で一切代弁されることなく、この改正案の可決にいたりました。

 

 

 

 

 

 

今回の鳥取県青少年健全育成条例改正案に、反対の意見を表明した者がいることは歴然たる事実です。

その意見が、結果として軽視され、鳥取県議会の採択の場で全く反映されなかったこと、極めて遺憾です。

 

この「インターネットにおける(『有害図書』等の)販売を規制する」改正案については、その可決に際してはもちろんのこと、その過程においても、インターネットの事業者及びその利用者の存在や権利を、軽視していると解釈せざるを得ない出来事がございました。この出来事についての記録は、せめて残しておきたいと思います。この教訓を残しておくことが、多少なりとも、第二第三の鳥取県が産まれることを防ぐ一助となることを期待します。

 

■鳥取県は、ネット書店をろくに見たことがない?

 

9/29の鳥取県議会一般質問では、鳥取県の平井知事から「全国の『有害図書』の指定状況を販売業者はおそらく分かっている」「対応の実務もできているはず」との発言がありました。この発言内容は鳥取県議会の議事録にも残ると考えられ、また、この改正案に疑問を持つ県民からの問い合わせに対しても、鳥取県行政が同様の回答を行ったことも確認されています。

この内容は、鳥取県行政らの、ネット書店の実態に対する理解の不足を強く示唆していると考えます

 

 

 

 

鳥取県の「有害図書」指定には、「個別指定」「包括指定」「団体指定」の3種類があります。このうち、鳥取県知事の発言が明らかに実態に沿っていないことを特に強く示す証拠となるのは、「個別指定」の販売に関する事実です。

鳥取県知事の発言直後、なんじょうさん(表現規制反対運動を長年熱心に行われている方のひとり。特に、東京都の「不健全図書(≒有害図書)」の指定を行う審議会の実態を追い続けて来た記録「おいでよ傍聴!」シリーズは必見)が鳥取県の直近の「個別指定」分の「有害図書」をAmazonで検索したところ、その大半がアダルト商品扱いなしで売られていたことが判明しました。

 

 

 

これがもし、たとえば「10冊中、9冊がアダルト商品扱いでした」のような状態であったならば、「ネット書店は頑張って『有害図書(個別指定)』を把握し対応している(けれどまだ漏れがあるので徹底させたい)」といった発言がなされたとしても、まだ一定の理解はできたかもしれません。しかし、「個別指定」分の「有害図書」の半数どころか大半について対応がないのが実態である以上、その実態をもし見たことがあるのならば、「対応している」と評価することは流石にできないのではないでしょうか。こうなってくると、「鳥取県知事以下鳥取県行政は、はたして実態確認を行っているのか?」「せめて『個別指定』分だけでも、自分でAmazonを使って検索してみようとは思わなかったのか?」という点に、相当な疑問を覚えざるを得ません。

 

 

鳥取県知事は、最初に8月の記者会見でこの条例改正方針を発表した際にも、例えばアマゾン等のサイトという言い方でAmazonを名指ししております。にもかかわらず、そのAmazonについてすら実態を正しく確認し把握したかどうか極めて疑わしいことは、如何なものでしょうか。

 

■鳥取県は、HP閲覧者のことを考えていない?

 

9/29の鳥取県知事発言の約1週間後、10/5にまた別の大問題も発覚しました。これは、鳥取県の「有害図書」のうち、「団体指定」に関わる問題です。

 

鳥取県の青少年健全育成条例では、特定の業界団体が指定するビデオ、DVD、家庭用ゲーム機のゲームソフト等を「有害図書」に含めることが定められています。これが「団体指定」です。具体的にどの出版物が該当するかについては鳥取県のHPに記載があり、「この表示が付いていたらその出版物は鳥取県の『有害図書』です」という一覧が公表されています

 

2020年10月9日現在、この一覧に掲載されている表示は「18才未満お断り」「18才以上のみ対象」「成人指定」のいずれかの内容に該当するものだけです。ところが、この一覧には過去に、「R-15指定」の表示が含まれていた時期があります。

 

10月5日、なんじょうさんが「以前は一覧に載っていたはずの『R-15指定』表示が消えている」ことに偶然気が付きました。これについて鳥取県行政の担当者に問い合わせたところ、「R-15は鳥取県条例の規制対象ではない」「R-15表示は本来『団体指定』の一覧に載せなくてもよかったものであり、(間違って載っていたので)消した」との回答が得られたとのことです。

 

 

 

 

 

 

「R-15商品を鳥取県の『有害図書』に含める」と告知することは、業界団体側が「15歳、16歳、17歳の青少年にも売るつもりはある」として売り出した商品に対して、鳥取県の行政が、一方的に「この商品は鳥取県の青少年には売ってはならない(売った場合は罰則の対象)」と宣告する、ということの告知です。この告知を誤って行ったのだとすれば、あまりに大問題です。

ところがなんじょうさんによれば、鳥取県行政の担当者は「HPに誤情報を掲載していた時期がある」ことは認めながらも、「それによる影響はない」「以前誤情報を見て、今も誤解している人はいない」と考えている旨の返答をしたとのことです。これは、「鳥取県のHPを見て、その内容を元に判断を行う人」の存在を、著しく軽視した発言としか言えません。HP閲覧者のことを、そこまで無視するようなことをして、本当に良いのでしょうか?

 

■他都道府県民も、今から動き出すことが大事では?

 

以上、鳥取県が、インターネットの事業者及びその利用者の存在や権利を、軽視していると解釈せざるを得ない出来事についてご紹介いたしました。

鳥取県に対して何もインターネットの事業者及びその利用者から声が上がっていないのであればまだしもですが、今回改正案を審議した鳥取県議に対してはもちろん、改正案を提出した鳥取県行政に対しても、「これはおかしいのではないか」という声は上がっているのが事実です。にもかかわらず、鳥取県議も、鳥取県行政も、この声に向き合っているとは言い難いです。

 


今回、事実として受け止めざるを得ないことはいくつかあります。「鳥取県の規制方針は、2ヶ月では、覆すことはおろか、その反対意見を聞いてもらうことすら難しかった」ということはそのひとつでしょう。では、もしもっと早かったら?何らかの方法で、8月の鳥取県知事記者会見以前にこの規制方針を察知し、それに対する意見を早期に述べることができていたら?あるいは、以前の選挙の際に、「表現の自由やインターネットの自由は守って欲しいです」と伝える動きを起こせていたら?

見ず知らずの人から突然話しかけられても取り合えないことは、政治家も人間である以上、あるかも知れません(あまり政治家としていいことだとは思いませんが…)。しかし、もし、見ず知らずではない人が相手だったら?ある程度のご縁がある相手を軽視した対応を取れる政治家が、果たして何人いるでしょうか?ひとりやふたりならまだあしらえる政治家でも、5人、10人、あるいはもっと大勢来たらどうでしょうか?

それでもなお、絶対に話を聞いてくれない政治家がいることも、ない訳ではないでしょう。しかし、日本全国津々浦々にいる全ての政治家が「絶対に話を聞いてくれない」とは、私は思いません。

 

今回の鳥取県については、今となっては、残念だったとしか言えません。限られた時間の中で、残念ながら鳥取県議には振り向いてもらうことができなかった、それは事実です。しかし、この限られた時間の中でも、「いや、あの改正案はおかしい」と声を上げてくれる議員は、鳥取県以外であれば、少なくない数いました。この数は、もっと時間をかければ、まだ増やせるはずです。地方議員・地方首長はどうしても他自治体の動向を自分一人では追いきれないことがままありますが、誰かに教えてもらえれば「これはおかしい」と言ってくれる政治家は、いるはずです。

 

 

 

 

 

 

鳥取県だけが特別ひどいのか、それとも鳥取県以外にもひどい自治体がある(けれどまだ規制条例案が出ていないので気が付かれていないだけ)のかは分かりません。ですが、いずれにしても「条例案がオモテに出て来るよりも前から動き始められるならそれに越したことはない」のは間違いないと思います。

鳥取県に追従して「私達もネット販売を規制します」と言い出す自治体が現れる前に、どこまで動けるかがこれからの最初の勝負になるかも知れません。今のうちから「鳥取県に追従しないでくれ」と頼みはじめるのと、条例案の検討がある程度進んでしまってから「鳥取県に追従しないでくれ」と頼みはじめるのとでは、恐らく、大違いです。

 

東京都ではちょうど、「青少年健全育成条例」の運用を検討する一大イベントが、10/12(月)の審議会に迫っています。

まずはこちらにご注目頂ければとても嬉しいです。もしお近くの方で外出が可能であれば、当該の審議会の傍聴もご検討ください。

 

 

(卵)