『天瀬さん』

突然呼び止められる。

季節外れのサンタクロースのような大きなゴミ袋を手に

ビルの裏口にある重い扉を開けたときだった。


西日が眩しくて目を細める私…

逆光の中には

しゃがんでタバコを吸う坂本さんがいた。

私「坂本さん?こんなとこでなにしてるんですか?」

坂「サボってるに決まってんじゃん!笑」

私「不良ですね笑」

2人きりで話すことなんて今まであっただろうか?

そんなことを意識したとたん

急に言葉が思い浮かばなくなった。

坂本さんは私の気持ちなどおかまいなしで

何も言わず地面に目を落としてタバコを吸っている。

「ゴミ捨ててきますね!」

気まずさに耐えられずその場を離れようとしたとき

「天瀬さん、ソレとコレ交換しよっ!」

坂本さんはゆっくり立ち上がりながら

私の持つゴミ袋に手を伸ばし

反対の手で私に何かを差し出した。

坂本さんが

私の手のひらに乗せたものは

小さな四つ葉のクローバーだった。


えっ…

えっ…

かわいいんですけど…


5秒後に「ありがとう」と発した私の言葉は

ゴミ捨て場に向かう坂本さんの背中に届いただろうか…。


坂本さん

声をかけてくれて

ありがとう

ゴミ捨てに行ってくれて

ありがとう

四つ葉のクローバーくれて

ありがとう

そして

心からのありがとうを言わせてくれて

ありがとう


たぶんだけど

この日から

この気持ちは

ただの尊敬や憧れだけでなく

恋だと確信したんだ。