立て続けにニコラス・スパークの小説を3本読んだ。文章が易しいので英語が苦手な僕には大変あり難い。ニコラス・スパークスは、最初に出した「The Notebook」という純愛小説が全米で大ヒットのベスト・セラーとなり、それ以降の全作品がベスト・セラー入りする売れっ子作家だ。どうやら彼の恋愛小説がアメリカ女性のハートを完全に捉えてしまったようだ。


「The Notebok」は、青春時代のひと夏の初恋を忘れることの出来ない2人が、ある偶然から10数年後に再開し、一緒になるというお話し。ちょっと間違えると、ハーレー・クイーン・ロマンスになってしまいそうだが、話はそれで終わらない。70歳を過ぎて、妻はアルツハイマー症になり、全ての記憶を失う。夫は変わらぬ愛で妻を優しく包み込み、2人の出会い、再会を書き記したノートを毎日妻に読んで聞かせる。時として奇跡が起こり、妻は夫の記憶を取り戻すが、再びその記憶は深い闇に沈んでいく。何とも悲しくも心に響くお話で、この「永遠の無償の愛」が感動を呼ぶんだろう。


2冊目が「Message in a Bottle」。女性記者が休暇中の浜辺で手紙の入った空き瓶を拾うと、そこには亡き妻への思いを綴った手紙が入っていた。あまりにも素敵な文面に女性記者は、手紙の文面をコラムで紹介する。すると読者より「私は違う文面の手紙を拾った」との連絡があり、女性記者の興味は募り、ついには手紙の作者を探し始める。この恋や如何に。「浜辺で手紙の入った空き瓶」を拾うとのシチュエーション一つで一気に恋愛小説を書き上げてしまう作者の筆力には感心する。この本での恋敵は、亡くなった奥さんだ。亡くなった奥さんが恋敵ということで、三角関係が醜くならないのがいい。


3冊目の「True Believer」は、心霊現象を調査するために南部の田舎町に訪ずれたニューヨークのジャーナリストとその町の図書館員との愛を描いた作品。調査が終わればNYに帰らなければならない記者と田舎町や自分の仕事を愛するがゆえ束の間の愛に躊躇してしまう女性の葛藤が描かれている。仕事と恋を天秤にかけるストーリーは、まありにも現実的すぎるのか、読後の感動はなかった。あと、設定のわざとらしさが嫌なのだろう。


なお、小説の付録に付いているインタビュー記事が面白かった。アメリカの作家は、日本の作家と異なり、かなり映画化の権利を意識して小説を書いているようだ。「The Notebook」の映画化だけで数億円の収入を得たようで、生活の為に書かなくて良くなったのが一番の幸せとスパークすは語っている。しかしながら、最初のヒット作から、毎年毎年、ファンを「裏切らない」作品を書き続ける彼の商売人ぶりには感心させられる。これがプロの作家根性だろうか。それともアメリカ・マーケットの厳しさなのだろうか。


Nicholas Sparks
The Notebook
Nicholas Sparks
Message in a Bottle
Nicholas Sparks
True Believer.

基本的に「人は世界中どこへいっても一緒」ということを信条としていたが、アメリカに来て米国文学ばかりを読み始めてから何か違うという気がしてきた。国際化がこれだけ進展しても、思いのほか小説の世界は内向きで、日本人がアメリカの小説を読むことなんて殆どないし、まして、アメリカ人が日本の小説を読むことなんて全くないだろう。かくして、小説が描く世界も、日本とアメリカでは大きく異なり、両者が交わることは決してない。2つの国の国民の感性には大きな隔たりがあるという訳だ。


恋愛一つとっても、日本の大人の恋愛としてよく描かれる「不倫」は、どうしても「不倫」という言葉の持つニュアンス(何か後ろめたさのある秘め事)がどうしても強くなってしまうが、アメリカだと、なかなか「不倫」に該当する言葉が思い浮かばない。しいて言えば、アヴァンチュールやアフェアーといったところだろうが、そこには何も後ろめたさはなく、むしろアヴァンチュールは何かワクワクするような肯定的な意味合いを感じてしまうし、アフェアーは客観的な情事という言葉を当てはめるのが妥当だろうか?


かくして、20年以上前に日本でもヒットした「マジソン群の橋」は、大人の大恋愛のドラマだし、最近の本ではニコラス・スパークの「Notebook」(なかなかよかった)なんかは、激しく、かつ、息の長い純愛の物語だ。そこには愛し合う当事者以外の第3者は、脇役として登場する以外に役割は与えられていない。


スー・モンク・キッドの「The Secret Life of Bees」にも、日本の小説だけ読んでいただけでは出会うことのできない世界観が、そこには広がっている。舞台は1964年の公民権運動まっさかりの南部の田舎町。小さい時に母親を亡くした14歳の女の子Lillyが子守役の黒人の乳母と母親の思い出を求めて家を飛び出すお話し。不遇な環境で育てられたLillyが、黒人女性たちの優しく、強く、大きな愛に抱かれる姿には強く心を打たれた。抒情詩のような小説の世界から、当分、抜け出せそうにない。


「The Secret Life of Bees」は、全米で350万部のヒットを放った2001年発表の作品。日本でも、昨年、翻訳が出たようだ。しかし、5年もかかるのか・・・。英語と日本語の隔たりは大きい。


Sue Monk Kidd, Jenna Lamia
Secret Life of Bees

スー・モンク・キッド, 小川 高義
リリィ、はちみつ色の夏

アメリカの片田舎(アイオワ州)でトウモロコシの生育を15分おきに写真にとりWebに公開しているサイトがある。トウモロコシは生育が早く、7月の天気の良い日には、1日で6インチ位も成長してしまう。朝方、車でトウモロコシ畑を通り過ぎ、夕方、再び通ると景色が変わっているなんてことも珍しいことではない。どうも、アメリカの田舎出身の人には「トウモロコシ畑」というと特別な郷愁があるようで(Stand by Me みたいな感じだろうか?)、このトウモロコシ畑をWebに公開したいと思った人がいたのだ。


Webサイトを開いても何時何分のトウモロコシ畑といった感じに写真が出てくるだけである。忙しい人は、「何だトウモロコシか!」と思ってしまうのだが、生物の成長をながめるのは「心温まる」ことのようで、モスクワやパリや上海などからアクセスがあり、年間60万人以上が訪問するサイト(www.iowafarm.com )となってしまった(ちなみに今は冬なのでトウモロコシのライブはない)。


川上弘美の「センセイの鞄」は、上海の路地裏の薄暗い部屋からアイオワ州のトウモロコシ畑をのぞいて少しだけ感じる幸せのような、袖と袖が触れ合うだけで緊張して幸せを感じる、不器用で、でも温かい、静かな恋の物語。使い古した電池を「まだ生きているから捨てられない」といった感覚をもった人たちが、心に「やすらぎ」を与えてくれる読後感の爽やかな物語だ。


ふと、こういった良さを理解できるのは日本人だけじないかなと思ったものの、アイオワのトウモロコシを思い浮かべひとしきり反省した。


川上 弘美
センセイの鞄