門前仲町である。ぼくは、ノラ猫のいる街を探して、猫路地散歩をしているのだが、昔と違って東京の街にはだんだんとノラ猫が少なくなってきている。保健所で駆除したり猫好きボランティアが保護しているのだろう、ぼくがまだ子供だった昭和40年代の頃、東京下町にはまだ、ノラ猫は沢山いた、ノラ犬もぎらついた目をしてゆさゆさと歩いていた、流石にノラ犬は子供心に少し怖かった記憶がある。

 さて、門前仲町では目的のノラ猫と出会う事が出来るのだろうか、東京都江東区の中心的な街である門前仲町。東京メトロ東西線と都営地下鉄大江戸線が交差する地下鉄の駅である。階段を上がると、プーンと鰹出汁の良い匂いが程よく鼻に感じる。地下鉄の駅の階段を上がると、そこには朝から営業をしている「ちかてつそば」がある。
 「ソーセージ蕎麦」が有名なとてもチープな蕎麦である。このチープさが何とも嬉しいのだが、いきなりここで食べてしまうと、ひょっとしたら門前仲町の美味しい有名な食べ物屋さんと、出会えるかも分からないので、ここは我慢であるのだ。しかしぼくは何度も「ちかてつそば」を振り返りながら、ぼくは木場方面に向かって永代通りを歩き出したのであった。

 永代通りをしばらく歩くと食料品店「えちのぶ」がある。この店のおばちゃんが漬けたであろう美味しそうな、ぬかずけ、ぬか床が店先にどーんと、どうどうと自動車の排気ガスや土誇りなんてなんのこそと言わんばかりに、置いてある。店の中はかなり古く一升益での豆の量り売りや古い商人道具が所狭しと並べられているのだ。店番のおばちゃんも無言で、どうどうと大きなそろばんを持って誇らしげに立っていたのだ。
 確かおばちゃんのヘアースタイルはパンチパーマをあててから、約2ヶ月経し、少し伸びたような感じだったと、強く記憶している。
 さてさて、向かっているのはノラ猫がいる場所である。その場所は、確か深川不動尊を通り過ぎ、富岡八幡宮の裏にある八幡堀遊歩道だったと思う。数年前に自転車で通った時に、そこにはノラ猫が20匹ぐらい居て、もの凄く驚いたことを思い出したのだ。再び会えるのが楽しみである。ここで、あわてちゃいけない、散歩なのだ、ゆっくり歩こう。

 深川不動尊の参道の入り口には甘み所で知られる「伊勢屋」がある。ここでは今すぐ食べたくなるような、あんこがパック入りで売られているのである。しかし、ここで、あんこパックを食べてしまうとお腹が一杯になりそうなのでグッと我慢したのだ。

 深川不動尊には帰りに寄ろうと思い、軽く門前で頭をたれふらふらと歩き出したのである。平日の午後2時、歩いているのは、おじいさんやおばあちゃん達、その日は天気も良く散歩にはなかなか良い日だったのだ。家に閉じこもって時代劇の再放送など見ている場合ではないのである。門前仲町はおばあちゃんのミニ原宿みたいなのでありる。

 そうこうしていると富岡八幡宮の鳥居が見えてきたのである。手前の八百屋さん野菜か屋があったので、立ち止まって店の中を覗いてみた。そっけない店内、段ボール箱からそのまま野菜を取り出し袋につめる方式の売り方でなかなか威勢が良く心地よい、そして野菜が安い。タマネギ1袋(3個入り)80円は安い!のである。東京のスーパーマーケットの野菜の半値ぐらいかと、嬉しくなる。

 ノラ猫の居る八幡堀遊歩道に向かって、富岡八幡宮の参道に入った、すると透かさず目についた売店があるではないか、何だろうと近寄って見ると看板には「もんじゃまん」の文字、もんじゃは月島の名物、肉まんの中にもんじゃを入れた不思議な食べ物なのだ。たまたま本日、定休日だったので食べる事が出来なかったが今度、散歩で訪れた時には必ず食べてみようとぼくは思ったのだ。
 つらつらと参道を歩いていると「馬神」の銅像がある。「馬神」がいったいなんなのか説明板(?)も見ずにぼくは、足はやに数年ぶりに再会するノラ猫達のもとえ急ぐのである。
 しばらく歩くと、あった!八幡堀遊歩道の猫路地。
ノラ猫達と涙の再会をしてハグハグしようと期待していたのだ。恐る恐る一歩一歩、遊歩道の奥に期待おをこめて足を進めたのであるが。
 居ないのである。何がって?。期待のノラ猫が20匹が居ないのである。八幡堀遊歩道はかっての猫路地から変わってしまっているのである。近所の方に経緯を聞きたかったがそれらしき人も居ず、残念な気持ちで歩いていると一匹のノラ猫が居るではないか、それも公園内の垣根をかまくらのようにして、すっぽり収まるっているのである。近所の猫好きの人が雨よけに作ったのか、自分で作ったのか、とても微笑ましい姿でノラ猫を発見したのだ。

 三毛猫である。にゃ~にゃ~と逃げる様子がまったく無い。相当に沢山のいろいろな人達から可愛がられていることが想像できるのである。幸せなノラ猫であるのだ。八幡堀遊歩道の猫路地をさらに奥に進むと国の重要文化財に指定されている赤い大きな橋の八幡橋が見えてきた、明治11年に架橋された文明開化のシンボル的存在の鉄橋であったそうで、とても偉い橋なのであった。
 なるほどね、と何気なく橋の下を見たら汚れた傘やビニールや毛布、皿、缶詰、などがあったのである。誰かが住んでるのかなと思いながらよーく見ると白いノラ猫が居るではないか、そうなのである、どなたかが、猫の為に傘などを置いてあげているのであるのだ。ノラ猫嫌いにはとてつもなく迷惑だろうがノラ猫好きにはとても心が温まる微笑ましい現場なのである。ぼくの個人的意見は都会でも、なるべく動植物との共存共栄がの望ましいしそういう人生にしたいのであるのだ。と偉そうに書いておこう。
 ノラ猫を探す目的がたっせいした、不動尊前の参道を歩く。うなぎの佃煮を売っているお店や「深川かすていら」を売っているお店、あげまんじゅう屋さんなど甘い食べ物が好きな人にはたまらないことだろう。

 不思議な仏具屋さんもある、店先で洋書を売ってる。店の中に入ると店主が出てきたがカメラをパチパチ撮影しているぼくを見て「客じゃないな」と一瞥して奥に消えたのである。オートバレースが趣味らしくお店にはバイクが飾られている。仏具の他にもアイデア満載のローソクもある、「10分ロウソク」「5分ロウソク」など、ちびっこいロウソクがたくさん売られている、これはきっと消し忘れてもすぐにローソクの灯が消えるためだろうしとてもエコなロウソクであると勝手に感じるのである。
 結局何も食べないまま、ぼくは隅田川を見たくなり永代橋に向かって永代通りを歩き出したのであった。

 しばらく歩くと居酒屋さんが仕込みをしていたり、竹加護に野菜を入れた料理屋のお兄さんや明らかに釣り銭用の硬貨が沢山入っているであろう銀行帰りの麻の手提げ鞄を腕に安全対策のために紐をぐるぐると巻いたお兄さん。とすれ違ったり、床屋の看板があったりで、看板を見ると婦人カット千円だったり、パンチパーマ五千円の表示に驚いたりしたのだ。八百屋さん野菜か屋のおばちゃんはきっとここであてているのだろう。流石、門前仲町なのだ。

 永代橋ももうすぐの所、「ふくしまばし」のたもとに昭和の香りぷんぷんの昔ながらの、らーめん屋さんがありその一軒家が木造で小ぶりでいい感じだったのである。 スチームアイロンの匂いが香ばしい(コーヒーじゃないんだから、、、。)「クリーニング屋さん」では中でおばちゃん職人が脇目もふらずに「カケハギ」をしていた、きっと見事な腕前なんだろう。しばらく見ていても、おばちゃんは意地なのか、ぼくには目もくれず、もくもくと仕事をしているのである。
 永代橋に着いたのである。橋の上から月島・東京湾方面を見ると月島の高層ビル群がまるで摩天楼のように素晴らしい開放感とロケーションが広がって見える感動的な景観なのである。ふっと後ろの両国方面を見ると、東京スカイツリーが見えるではないか、ぼくも始めて見る風景である。思わずカメラバッチッと撮影したのだ。

 永代橋を渡り、真っすぐ行くと証券の待ち、茅場町や日本橋なのだがぼくはそろそろ疲れてきたので門前仲町へ戻ろうと駅に向かい歩いたのだ。

 途中、門前仲町交差点手前の雑貨屋、猫の動く人形のおもちゃ、「ダンシング猫」が(1050円)売ってたが、高いんだか安いんだか…ノラ猫が見つからない時はこういう猫グッズでもいいのかなぁと、なんだか脱力しながら思ったのである。ぼくは門前仲町交差点にある昭和の香りがする喫茶店「たちばな店」に入りアイスコーヒーを飲みながら、今日の猫路地散歩の反省や写真やパンフレットを眺めながら、日が暮れていく静かな、ゆっくりとした時間を心地よく過ごしたのだ。



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