あの橋を渡るとき その8 | 辻村人生の人生ブログ

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THE SORRY ON PARADEのギターヒーロー、辻村邦久の非日常を綴るブログ。
夜露乳首!

辻村邦久です。
よがり声をつなぎ合わせた、よがっちゃんポートレイトで冷や酒をすすりタイムス。

ここが苗穂だなんて、最初はわからなかった。
まず、札幌に住み着いて22年、苗穂に足を踏み入れた事がないからだ。
札幌市内を流れる豊平川にはいくつか橋が架かっているが、俺は初めての橋を渡ったのだから。

まずここが苗穂だなんて、Googleマップ様様である。

街灯が点いている。
信号も光っている。
自動車もルールに従って走っている。
俺は、少しずつ復旧してるんだと希望を持った。
それか苗穂は被害が少なかったのだろう。

安堵からか、プリングルスをかじり、チーズをかじった。
すれ違う人たちも、心なしか軽めの装いだ。
さっきまでの絶対に目的地へ辿り着くんだという決意に、なにか勇み足だったんじゃないかと思わせるくらい、街並みは明るかった。

しかし、歩みを進めていくと、どんどん見慣れたブラックアウトに差し掛かる。
そりゃそうだ。
コンビニも閉まっている。

札幌駅と新千歳空港間を何度も通り過ぎた東苗穂駅。
外観を臨むのは初めてだ。
その東苗穂駅前から、何か音が聞こえる。

スケボーの音だ。
こんな日に、こんな暗闇で、スケボーをやってる奴がいる。
なんなんだよと、また俺の中の抑圧された闇が吹き出しそうになったが、音のする方向に佇むシルエットに驚愕した。

上半身裸の兄ちゃん二匹が、スケボーを嗜んでいるのである。
いわゆる腰パンかまして、ヘラヘラ笑ってやがる。
無音の街にスケボーのガタピシャこうるせえ音と、二匹の笑い声がけたたましく響いてやがる。

てめえら、ウチ入って黙ってマスかいてろ!
うるせえんだよ!
と、脳内でシャウトしたんだが、顔にも出てたんだろうな。
そのうちの一匹が歩いて近づいてきた。
え?なに?俺、金でも取られるの?
俺はゴブリンAを尻目に、早足で東苗穂駅前を通り過ぎようとした。
ウンコはまだ出ないぞ…なすれないぞ!

しかし、ゴブリンAはフェイントだった。
奥でただ立っていたはずのゴブリンBが、逆サイドからスケボーで俺との距離を詰めてきたのだ!
掘られる!
そう思った。
そう思ったけど、何も起きなかった。
奴らは何事もなく、また滑りに興じた。
俺に接触することなく。

九死に一生を得たような緊張感を俺の中に残しながら、後ろではスケボーのガタピシャがけたたましく響いていた。

途端に不安になった。
恋人は無事だろうか。
おかしな連中に絡まれてないだろうか。
今、この瞬間、絡まれていても、すぐ救助に向かえない。
実家に避難しているとは聞いていたけれど、帰り道はどうだろうか。

そんな事ばかり考えて、Googleマップを確認するのを怠ったのがいけなかった。
気付けば辺りは完全な暗闇だった。
住宅街とファイターズのロゴが入ったドームと踏切。
向かう方角に間違いはなく、線路を見るからに札幌駅が近いのはわかったが、全く土地勘のない地域だ。

急いでGoogleマップを確認すると、方角は合っている。
が、俺の進む道路は、先が袋小路になっていた。
車の免許がない自分を初めて悔やんだ。
他人の助手席にばかり腰を下ろして、サングラスをかけていた自分を!
バカヤロー!
めくらの貧乏デブが!

でも、そんなめくらの貧乏デブでも、進む道があるのだ。
あの超ダセー歌詞がリピートアフタミーだ。
君の征く道は果てしなく遠い。
だのに何故、歯を食いしばり。

うるせー!

LINEでは、友達がメッセージを送ってくれていた。
いわゆるいい奴、ビジネスゲイと言われることもしばしば、V氏だ。

V氏「クニ君、ウチ寄ってけばよかったのに」
俺「もう通り過ぎたからさ」
V氏「自転車貸してあげたのに」
俺「バカ言うなって、乗れないって」
V氏「こんな時は気合いで乗れるって!」
俺「笑わせんなって、乗れないって!」

そんなやりとりに少し笑ったのも束の間、袋小路のはずの道路の向こうから、一台の車がノロノロと徐行してきた。
ハイビーム焚きながら。

なんなんだよ、苗穂のクソ。
火曜サスペンスじゃねえんだぞ。

人生はスリリングな展開を迎える。

ブチャラティ!