検査の結果、がんは左側の舌の付け根と顎の間にできているようだった。

新しく担当になった先生はとても優しく穏やかな先生でどこに癌ができているか紙に絵を描いて説明してくれた。

そしてどんな手術になるのかを淡々と説明してくれた。

私は耳を疑った。

舌を半分切除して太腿の筋肉を一部移植すると言うのだ。

それだけではなく左側奥歯を三本抜いて顎の骨も削ると言う。

足の筋肉が口に入るのか?

顎の骨を削って大丈夫なのか?

そんなことをして,私は話せるのか?

食べることや飲み込むことはできるのか?

咄嗟にそんなことを考えた。

「何かわからないことや質問ありますか」

と気づいたら先生が呆然としていた私に話しかけていた。

そんな手術したくない。

「はじめましての先生にこんな質問して、ややこしい患者だと思いますけど、手術しないと言ったらどうなりますか」

思わず出た質問だった。

自覚症状もなかったし本当に手術しないとだめなんだろうかと強く思ったのだ。

先生は

「そのまま放置したらがんが広がり周りの細胞を壊して口の中が腐る状況になります。高齢ならまだしもまだ若いんです。手術を勧めます」

やや強い口調で私に伝えた。

「わかりました」

と言うしかなかった。

四月の手術予定が全て埋まっているとのことで

五月の連休明けに手術をすることになった。

先生が手術の予約をパソコンで打ち込むのをぼんやり見ているしかなかった。

今までの手術の時も不安な時はセカンドオピニオンも受けて来た。

でも今回はそんな労力すらないくらい打ちのめされていた。

病院に対する信頼感もあったからセカンドオピニオンはどうでもよかったのかもしれない。

どうでもよかったほど意欲がなかったのかもしれない。

このまま手術しないでホスピスとかで最期を迎えてもいいのかもと考えたりした。

夫婦関係も子育ても仕事も常に余裕はなく一杯一杯だったし、手術するたびに感謝しなくてはと自分に言い聞かせていたのも疲れていた気がする。

生きてることに疲れていたのかもしれない。

とりあえず手術までは時間が一ヶ月はあったから断ることも選択肢に入れて考えることにした。


@辻井坂