ジャパニーズウイスキーの父、竹鶴政孝その妻リタの物語。

ここ最近、ウイスキーの事ばかり考えて、電車の中でも読めるものを探していたところ、ここに行き当たりました。

既に絶版となっているものの当代の人気作家だけあって、やはりあるところにはあるもんです。

電車の中で読むウイスキー関連の本で気をつけないといけないのは、「飲みたくなる事」。
まるでアル中、もしくは既にアル中みたいなセリフですが、気をつけているだけマシと、言い訳にならない事を書いているところを見るとアル中なのかもしれません。


この小説は伝記ではなく、事実を基にした、フィクションらしいです。

大方事実でしょうが、決定的に違うのが、竹鶴とリタが始めて引き取った養子サラの存在でしょう。

とある理由でサラはリタの元から出奔します。
その後の事が知りたくて調べて見たのですが、これといった記述を見つける事は出来ず、
なぜ、作者はこのサラと言う存在を登場させたのかという疑問だけが残りました。

リタは元々子供が出来ない体だったようです。
始めてできた子にお腹越しに注いだ愛情は、一人異国の地で暮らす彼女にとって完全なる安息だったことでしょう。

が、不幸にもその子は日の目を見ることはありませんでした。

やがて立ち直ったリタは孤児院で生まれたばかりのサラと出会います。

けれど、このサラはリタに反抗してばかり、反りがあいません。

が、リタは辛抱強く、サラと向き合いますが、それもサラにしてみれば反抗の理由にしかなりません。


家族の反対を押し切り、異国の地で骨を埋める覚悟し、子を失い、さらにまた子を失います。

竹鶴との愛は深く暖かなものですが、それ以上とも言えそうな辛い思いをリタは抱えます。

日本人よりも日本人らしくを心がけ、ぬか床も掻き回し、料理も上手だったようです。

けれど、第二次世界大戦が開戦すると、まわりからはスパイ容疑をかけられ、街歩けば石や罵声を浴び、

この目を黒く塗り、高い鼻を削りたいと思うまでになります。

と、ここで、
サラとはリタの生まれ変わりだったのではないかと思い当たりました。

とりわけリタが作中で描かれているサラの様に気難しい性格だった描写はありませんが、一度決めたら曲げない性格、悪意なき悪意、そして、母親との確執。
そのどれも、ちょっと無理して取り上げた程度の事柄ですが、リタの母親にしてみれば竹鶴がジャパニーズウイスキーの父と呼ばれ様が、優れた人物であろうが、二人が如何に愛し合っていようが、そんな事は、リタがいなくなるという事実に比べればどうでもいいことだったことでしょう。

そう思うと、小説、フィクションという形でしか語り得ないリタの心中は、計り知れず、また、人種の壁を乗り越えることの辛さは異国の地に住むものにしかわからず、その姿に作者は自身を重ねたのかもしれません。

しかし、最後にはちゃんと帳尻が合います。

偉人の妻にスポットを当て、見事までに旦那の苦悩や当時の日本でのウイスキー事情を描き、しかし、根本は一人の女性を見事な筆致で書き切った名作だと思います。

また、一つ余市が好きになる理由が増えました。笑。





iPhoneからの投稿