いつ読んでもこの作者の本は面白い。

面白いというよりも
ストンと落ち着く。


これは恋の物語。
恋に落ちた女性の成り行きを見つめる物語。

なんで女性の恋に落ちる物語がストンと落ち着くのか。
それは未だにわからない。

姉が二人いて、
姉たちと遊ぶ事が多くて、
女性的なものを持ち合わせているのかもしれないな。
と、思うものの、
女心がわかったためしはない。

では、どうしてだろう。

そこに作者の力量があるのではないかと思う。

私はこの作品に、女性の産毛を想う。

現実的なそれではなくて、イメージの。

柔らかくて、白くて、ふわっとしている。

その想像上の産毛のような空気が
行間に詰まっている気がする。

それをゆったりとした時間と置き換える事も出来るかもしれない。

一秒がもっと長い一秒。
ゆったりと流れる一秒。

大きな川の流れは目で感じるよりも
ずっと早い。

けれど、その流れにゆとりを感じてしまう。
そういった時間の流れ方を感じる。


私は女性ではないから、
女性がこの物語を読んで
どんな風に感じるのかはわからない。

いつもどこかで彼女の書く人物たちは潔い。

竹の性質がどの人物にも少なからずとも入っている。

固くて、しなやかで、跳ね返りが強くて・・・。

そして、男性は幾分かしなやかさに欠ける。

傲慢で、子供っぽくて、阿保が付くくらい無邪気で。


暖かく見守れる時もあれば、
突き放してしまう時もある。

それでも、
『好きなんだろうな』
みたいな感覚で愛おしくなって、
より深く関わりあっていく。

一言でいえば慈愛に近いのかもしれない。


この物語のとても好きな部分は
後半のある瞬間に訪れる。

前半が目で見ている川の流れだとすれば、
後半は川の中に入った流れだと言える。

怒涛のようになんて大げさな事はないけれど、
彼女の一大事には違いない。
もちろん、全編を通して一大事の話なんだけれど、後半は腹が座る。

うらやましいほどの感情の高鳴りに
懐かしい部分を刺激され、
笑いを噛み殺しながら、読み進め、
噛み殺しきるのも馬鹿らしくなって、
上がりっぱなしの頬は緩み、鼻から笑いが漏れて、
物語は終わる。

読み終えた後は
一人にやにやしながら、
焼き鳥とビールが恋しくなる。

ちなみに、このタイトル
『好かれようとしない』
という言葉が出てくるタイミングが何よりも秀逸だったことを
追記しておく。

あーーーーーーー面白かった。


好かれようとしない (講談社文庫)/朝倉 かすみ

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