とある天才化学者。

彼には妻もなく子供なく、母親だけ。

彼の母親は百歳に届こうかと言うところで、ここの所寝てばかり。

地位も名誉も得たけれど、母親への恩返しは未だと思い、そこだけ理性が破綻する。

夜な夜な社会的な研究が終わると不老長寿を探し求める。紙に路上にフラスコに。

誰にも言わず誰にも気付かれず、母親のためだけに。

昼間の彼に言わせれば、出来るわけない。
深夜の彼は口を閉ざしたまま。

様々な結果を母親に飲ませ、腕に打ち、母親は回復した。

彼はそれでも喜ばなかった。確信がなかった。

求め続け、探し続けて、何時の間にか見つけていた。

けれど、彼は気付かない。

やがて、母親は歳をとらなくなり、彼は年老いて、床に伏せる。

母は、どうしてこの子が、と心を痛め、彼はどうして途中、でと心を痛める。

そして、彼は亡くなり、母は悲しみにくれる。

母親は老いた体のまま生き続ける。

自分よりも早く逝った子を思い。

けれど、この体、この不老は子供のたわいない我儘と知り、車に轢かれるまで笑顔で生きた。









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