冒頭から悲壮感漂う女性の物語だと
確信した。

が、

そうでもなかった。

ケロリと言うほど、
簡潔でなく、
ドロリとするほど、
粘らない。


自分の両親に結婚の挨拶をした翌日、
婚約者が自分の前から消えて、
それを追って行って、
会社が潰れて、
若い恋人が出来て、
それでも、昔の彼氏に連絡をとり、
ホテルに行って・・・。

いたたまれない心理描写に
自分をいつの間にか重ねていると、
自分が女性なのではないかと
思ってしまう。

泣くほどの事じゃない。
それに、顔に出すほどの事じゃない。
辛いけれど、
言葉にする程じゃない。

そんな日常の瑣末と言える事柄を
その都度消化できずに、
悶々とした気持ちだけが残って、
それを別の形で発散している。
けれど、発散は出来ていない。

ただそういった澱みたいなものが
動くたびに
考えるたびに
心の底だか、
体の奥底にだか
溜まっていって、
だるく疲れた体を引きずるように
次へを行動していく。

主人公に感情移入をするものの、
どこか周りの評価とちぐはぐな印象を
読者として持ち、
時には妹だったり、
時には昔の彼氏サイドから
主人公の心の闇みたいなもの、

闇と書くと凄く深そうだけれど、
化粧の下に隠れた素顔程度のものだろう、

を覗き込む。

良いか悪いか、
面白いか面白くないか、
と言うよりも
ある女性の生態を知ったと言うのが
正直な感想だろう。

だからこの読後感は納まりが良くない。

割り切りのいい人間の人生なんて、
小説の中だけでいいじゃないか。

と言ってしまってもいいような気がする。

これは小説。
けれど、この女性は実在する。
だから、割り切れない。
けれど、小説。
だから、割り切れていない事に
戸惑いを感じる。
けれど、
彼女はああやってこの先も進み続けるんだろう。



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