5月14日、フランスではパリのアンヴァリッド(廃兵院)の中庭に、海兵隊特殊部隊に担がれた棺が静かに入り、ボンバールの鋭く遠達性のある楽器が吹き鳴らされるなか、セドリック・ド・ピエールポンとアラン・ベルトンセロの国葬が厳粛に執り行われた。
この二人は先週ベナンとブルキナファソーの国境を挟んで行われたイスラム過激派のテログループにより人質となったフランス人の旅行者二人と数週間前から人質になっていたアメリカ人女性と韓国籍の女性の4人を救出する特殊作戦の最中命を落とした。作戦は成功裏に終わり人質4人は無事救出された。
ルーマニアに出張中だったマクロン大統領が作戦発動命令を下し即座に作戦は実行に移された。
テロリストとの銃撃戦により、現地人ガイド男性一人とユベール(Hubert )と呼ばれるフランス海軍特殊部隊のコマンド二人が共和国の為に命を捧げる結果となった。
セドリック・ド・ピエールポンはブルターニュ出身なので棺がアンヴァリッドの中庭に入った時、ブルターニュ地方の楽器、ボンバールが吹き鳴らされたのだった。亡くなった二人は27歳と32歳という非常に若い兵士だった。
マクロン大統領が述べた弔辞は厳粛で、二人の軍人の家族はじめ参列した軍属の感動を呼ぶものだった。「勇気」「名誉」「誇り」そして「自己犠牲」(abnegation )という言葉が発せられた。
めのおは高校生の頃に「きけわだつみの声」を読んで太平洋戦争末期、日本軍が行った神風特別攻撃の隊員となり祖国に命を捧げた若者たちが死の直前に書き残した手記を読んでそのあまりの悲しさに溢れ出る涙をこらえることが出来なかった。そして、この二人のフランス軍人の死に共通のものを感じると同時にそこには何か違ったものがあることを肯んじざるをえなかった。
「国のために自己の命を犠牲にする」。海外に居るフランス国籍の人=国民をたとえそれが観光旅行者であっても軍は国民を守る義務があるのだから兵士としての自分は身の危険を顧みずに人質救済作戦を遂行すべきである。そうしたフランス海兵隊の抱いていた使命感は「国民=国」を守るという意識だった。
神風特攻隊とのただ一つの違いは命を捧げる対象たる「国」が国民主権を是とする「共和国」か
天皇を頂点に頂く「国体」であったかの違いにある。
フランスはシラク大統領の治下に徴兵制を廃して今はすべて志願制となったが、歴史を遡れば、世界で「徴兵制」を最初に行ったのはフランスだった。大革命後の混乱期、周辺諸国の王党派、貴族たちが王政復活を狙って戦争を仕掛けた時に、権力を掌握したナポレオンが農民、町人すべての成年男子を兵役に就かせ国民皆兵を実施した。周辺諸侯は未だに傭兵による軍に頼っていたため、国民軍であるフランス軍は愛国心という根深く力強くミステイックでもあるパトスに支えられ金で雇われた傭兵を悉く打ち破り、お蔭でフランスは周辺国を支配下に置いた。
フランス国民が愛国心が格別強いのはこの辺に起原があると思う。ただ現在のフランスの政治経済は7分8裂、各人自己主張が過ぎてバラバラ、対立が激しく意見がまとまらないのが現状。
ただ、こと「国」を守るという点において、なにかことあれば見事に一致団結する。
その意味からするとイスラム原理派によりテロの標的にされたことはある意味でフランスというまとまり難い国民をひとつにするのに預かって力あったと言えるだろう。
ふたりの棺を担ぐのは仲間のユベール特殊部隊。彼らがみな覆面をしていることにご注目頂きたい。こうしたセレモニーでもひとりひとりが識別困難なよう配慮されている。
この日の葬儀は軍だけで行われ市民は会場には入れずアンヴァリッドの外の広場かその先の
アレクサンドルIII世橋の上で棺を拍手で見送った。
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