絵本 「夢」その①
「雪の朝」
「うわっ! すごい! どか雪だ!」
みのるは窓を開けて外を見た。白銀の世界がまぶしく眼を射る。
冷たい空気がさっと吹き込んだ。まっ白な雪景色をもっと見たくってみのるは窓を開け放ち半身を乗り出した。
隣家との間にあるモミの大木はぶ厚い雪のマントをまとって重みに耐えている。モミの森はどの枝もずっしりと雪に覆われ重たそうに垂れ下がっている。
みのるは家の裏側の山々を見ようと身を精一杯乗り出して少しひねったがダメだった。屋根と廂に積もった雪が垂れ下がって視界を遮っている。垂れ下がった雪は搗(つ)き立てののし餅みたいにも綿のぎっしり詰まった厚い掛布団のようにも見えるのだが、いまにも滑り落ちてきそうで怖くなりみのるは身体を部屋の中に入れ窓を閉めた。
今日は下の町の市役所に顔を出して書類を受け取って来なければならない。でもこの大雪。道はまだ除雪されていないので車で下るのは無理だ。時間は掛かかるけど雪景色を楽しみながら歩いて行こう。いますぐ発てば午後いちばんには市役所に着けるだろう。
みのるはブーツを履き襟に毛皮がついた分厚いアノラックを着て首にマフラーを巻いて外へ出た。振り向くと青空にくっきりと山々が聳え立つのが見え山陰の斜面が青く輝いていた。
道に積もった雪は深く歩を進めるたび脚が膝まで潜った。空は抜けるように青く真っ白な雪原は眩しかった。
しばらく行くと前を行く少年に追いついた。少年はオレンジの野球帽をかぶりピンクのマフラーを巻いていた。
「ずいぶん積もったね。このぶんだと雪解けのときがたいへんだね」
みのるが言うと少年はたいしたことないというふうな素振りを返した。
「下はもう春がきてますよ。これから釣り堀にマス釣りに行くんです。今日から解禁なので」
「へえ~。マス釣りね。釣り堀なんてあったっけ」
そう言いながらもみのるは釣りという言葉に興味をそそられ、よく釣りに行った子供の頃を思い出した。
「竿とか釣り道具持ってないけど借りるのかい?」
みのるが訊くと少年は「なにも持って行かなくてもぜんぶ借りられるよ」と言った。
「このぶんだと早く着きすぎそうだし、市庁舎には夕方までに行けばいいんだから、僕もちょっとだけ釣りして行こうかな」
みのるは独り言のようにつぶやくと少年に歩調を合わせた。
久しぶりに竿を振る感覚やリールを巻く音が甦り早くも心臓が昂るのだった。
(つづく)
