バイアスロンの世界チャンピオン、マルタン・フルカッドが昨日引退を表明した。
いまTVはフィンランドのKontiolahti レース場で行われているW杯、男子10km スプリントのレースを放映中。スプリントは独りずつ等間隔にスタートするタイムレース。
今日が選手生活最後の競技となるマルタン・フルカッド。現32歳、ピレネー山脈のフランス側 Céret 出身、カタルニアの人。16歳からこの競技を始めた。
マルタンの凄さは記録に現れている。オリンピック出場回数が5回。金5、銀2を獲得している。世界選手権では5つの金、W杯では5度の総合優勝を飾った。フランスを代表する選手。ピヨンチャン冬期オリンピックでは開会式に旗手として三色旗を持ちフランスチームの先頭に立った。
今日(3月14日)がマルタンの選手生活最後のレースとなる。競技種目はパシュート。マルタンはパシュートの出発順位を決めるスプリントではレース後半の滑りで頑張り、フランス若手のホープ、エミリアン・ジャクラン(Emilien Jacquelin ) を押さえて2位に入った。今日のパシュートはトップのヨハネスに21秒遅れてスタートした。
マルタンが引退を決意したのは先々週のチェコで行われたW杯で念願の男子リレーで優勝を達成出来た時。もうこれで思い残すことはない、心おきなく引退できると感じたと夕べの特別番組で語った。昨シーズンは散々の成績で、やはり年齢には勝てない、そろそろ引退の時期かとだれもが感じた。が、それを覆す復活を今シーズン見せてくれファンを驚かせた。本人自身もここまで頑張れるとは自身驚いたと語った。華々しい活躍を見せたスポーツ選手が凋落し負けが目立ち引退するほか無いと誰からも思われて姿を消すのは寂しく悲しい。最後までよくやった。まだやれそうなのにと誰からも惜しまれて辞めるのが華なのだろう。マルタンは今年は辞めると一人決めて、最後のシーズンを勝利で飾って辞めようと固く決意し、夏の間もトレーニングを欠かさず、そのとおり今シーズン見事にフランスチームを返り咲かせた。だれにも出来ることではない。悔いを残さず人々から惜しまれ祝福されての引退はスポーツ選手にとって最高の人生だと思う。
昨日の引退声明に応じてツイッターにファンから沢山投稿があったが、同感したのは「バイアスロンの面白さを教えてくれてありがとう」というものだった。
先々週の男子リレーは、これだけが優勝できていなかった19年来フランスチーム、そしてマルタン宿願のレース。これに勝利した時のフランスチームの喜びようは尋常ではなかった。マルタンはレース後のインタビューで感極まって言葉がでなくなり、横を向いて泣いてしまった。若いジャクランがインテヴューアーに応えてその場を救ったのだったが、この時、引退を決意したのだろう。もう思い残すことはない、と。
今日のフィンランドでの最後のレースをマルタンは見事優勝で飾った。マルタンの後を継ぎ今後フランスチームを引っ張ってゆくカンタンとジャクランは最後の滑りで2位に迫っていたヨハネスを追い抜き、なんと首位から3位までフランス勢で表彰台を独占する力を見せた。その後の女子パシュートでもジュリア・シモン優勝というフランスの頑張り様をみせてくれた。
マルタン・フルカッドは、ノルウエーのオーレ・アイナル・ビヨルンダーレン(Ole Einar Bjorndalen, 2018年引退) が樹立した前人未踏の記録、優勝回数95に次ぐ優勝83回という驚異的記録をもって引退する。この二人は永く歴史に残るだろう。
バイアスロンはまだ馴染が薄くご存じない方が多いと思う。以下はそんな方々向けに簡単にご紹介するために書きますのでご存じの向きはスキップしてください。
バイアスロンはウインタースポーツの一つでノルデイックスキーと射撃を組み合わせたもの。ノルウエーとスウェーデンで対抗試合を始めたのが起原と言われている。銃を使うため一般の社会人からは稀にしか選手は排出しない。日本では大抵自衛隊員か警官の方が多い。フランスチームには税官吏が多い。公務員だと安心して練習と競技に打ち込める。銃は競技用カービン銃で重量5㎏と聞いた。この銃を背負って7~10kmのコースを滑り、射撃レーンで50m先の標的を撃つ。伏せ撃ちと立ち撃ちのふたつを組み合わせ多くて4回少なくて2回の射撃とクロスカントリースキーの総合タイムを競う。
11月から3月にかけ、ノルウエー、スエーデン、ポーランド、ドイツ、イタリア、フランス、チェコなど
雪の多い国々を巡回し、レース用コースでチャンピオンシップ(世界選手権)、W杯を競う。
野外競技なので自然の要素が大きく影響する。風と雪質。前回チェコの最後のレース(マス・スタート)ではフランスは技術陣がワックスの調合を間違えてスキーが滑らず悲惨な結果だった。マルタンは淡々としていたが、若いカンタンの怒り様は激しかった。まあ、勝敗は抜きにして、樅ノ木の合間を縫って作られたコースを滑る選手の姿には詩情がある。
スキーのクロスカントリー(ノルデイックスキー)は猛烈に体力を要求するスポーツ。30代の初めに試みたことがあったけど1km も走らないうちに息切れがして体力が続かないと感じる。カミサンなど熱を出して寝込んでしまった。
2kmを滑った直後、射撃レーンで銃を撃つ。伏撃ちは両肘と胸、頬とで銃を固定できるので的が小さい。黒い標的の内側にある径5センチの的に50mの距離から当てなければならない。心拍が上がり呼吸で肩や胸が上下するのを一瞬停めて、精神を統一して狙いすまさねば当たらない。そのうえ気まぐれな風のがどの方向に吹くか、瞬時瞬時変わる。一回の射撃は5発が標準で外したら即座にペナルテイとなる場合とピオッシュと呼んで予備弾を3発撃てる場合が、種目によって異なる。ペナルテイは平均150mのペナルテイループを回る場合が殆どで、ただ個人レース(individuel )だけが1発外すと即座に1分加算される。
このように「動」と「静」という対極が強制される競技なのだ。人間の体力と精神力とが極端に試される競技といってよいと思う。それだけに観ていてハラハラ、ドキドキ、感動するのだ。どんなに先を滑っていても最後の射撃で勝利を意識しすぎて外すことが多く、勝敗は最後まで判らないのがバイアスロンの難しさであり面白さ。こんな競技の勝者には国の区別なく惜しみなく拍手を贈りたくなる。
国別で言うと、ノルウエーが圧倒的に強い。フランスはノルウエーからバイアスロンを学んだと聞いたが、大抵の種目でノルウエーとフランスが競り合う場面になる。ノルウエーのヨハネス・ブーとタラエ・ブー兄弟が1位2位を占める場面が多い。
ノルウエー、フランスと並んで、いつも上位を占める国は、ドイツ、イタリア、スエーデン、ロシア、ウクライナ、スイス、オーストリア、スロヴァキア、ベラルーシなど。今シーズン初めて女子競技でUSAが銀メダルを獲得したのは新しい出来事だった。最近日の丸が現れる機会が増えて来て将来が楽しみになってきた。だけどまだまだ、10位、15位以内に入るのは難しい。中国、韓国も強い選手が現れ始めた。
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