「その本は何?ちょっとその本を取って」

と父が言いました。

その本とは、ゴールデンカムイ 29巻です。

わたしが読もうと置いていたものです。

父に「マンガだよ」と言って、手渡しました。


手に取ってしげしげと眺めた父。

「地域センターで時々、図書館の古くなった蔵書を配ってることがあるんだよ。50冊くらいあった中から、この本を俺が選んでもらってきたんだ」


出た。

出ましたよ。

これが認知症の症状のひとつ、作話です。


もちろん、このゴールデンカムイ29巻は父が図書館からもらってきたものではありません。

しかし、父には嘘をついているつもりはありません。


「ふーん、そうなんだ。どんな内容だったの?教えてよ」

と聞いてみたところ、

「もう忘れちゃったよ」

と父。


「じゃあ、もう一回読んだら?」

と提案しましたが断られました。


ゴールデンカムイ29巻を自分のものと主張する父、91歳。


たぶん、父は見慣れないもの(特に本)が部屋にあると気になってしまい手に取りたくなるのです。


そして、手に取ると手に取った理由を何か考えないではいられないのだと思います。


母はあまり本を読まない人だから、この家に本があると「自分のものだ」と父は考えてしまうのかもしれません。