昨夜、いつも通り父の入れ歯を洗浄しました。


綺麗にした入れ歯をタオルに乗せて、父に

「入れ歯を綺麗にしましたよ」

と見せてこたつの上に置きました。


父は「あっりがとー」と軽やかに御礼を言いましたが、すぐには入れ歯を装着しませんでした。


そして数十分が経過しました。


父が突然、言いました。

「その辺に鏡なかったかな。鏡ちょうだい」


鏡を手渡すと、父は口の中を見て、

「あらー。かわいそう。下の歯がかわいそう」

と言いました。


「明日、歯医者に行かないと」

何で歯医者に行くの?


「歯がないから、入れ歯を作ってもらわないと」


お父さん、入れ歯ならここにありますよ。

わたしがお預かりして綺麗にしましたよ。


と、説明しましたが、しばらく歯医者に行くのだという話が続いてしまいました。


入れ歯があることに気づいた時は、驚きと感動がありました。入れ歯の存在が、頭から完全に消えていたようです。