元気いっぱいの母が、認知症の父と二人で暮らしていましたが、母が入院したため娘のわたしが実家に帰り父のお世話をしています。


父と二人で生活し始めて一週間ほど経った時、父が急に語り出しました。


祖父の兄弟のことらしく、どんな人だったとか、嫁さんの名前は何だったとか、子供の名前は何だったとか滔々と語るのです。


一度も聞いたことがない話だったし、父の兄弟の情報すら正確に知らないのに祖父の兄弟について知る由もなくその話が正しいのかどうかは全くわからないのでした。

しかし、聞きながら一応メモを取りました。


正しいか正しくないかは重要ではないのだけれど、正しい情報を返すと父はそれを思い出すことができて安心するのです。


祖父の兄弟の真偽はともかく、父の兄弟については正確な情報が知りたいと思っていました。

父が一年前に書いたらしいメモはあるのですが、一年前でもだいぶ認知症があったようなので正確かどうかわからない。


父の戸籍謄本でもあればなあ。

でも、父の戸籍謄本取っても兄弟の情報はわからないよね、とあきらめていました。


ところが。

一ヶ月半が過ぎて、せっせと実家の片付けをしていたところ。


何と。


出てきたんですよ。

祖父の戸籍謄本が。


祖父の戸籍謄本ですよ。

そんなもの出てくることある?


今みたいな印刷されているものじゃなくて、手書きですよ。手書き。


昭和29年発行の祖父の戸籍謄本。

三通もありました。

何かに使うかもと多く取っておいたのでしょうか。


祖父、祖母の名前はもちろん、曽祖父、曽祖母、祖父の兄弟、父の兄弟姉妹がわかりました。

また、配偶者や子供がわかる人もいました。


それをもとに家系図を書いてみたところ、以前父が突然語り出した内容がよく理解できました。

父は正確なことを語っていたのでした。


家系図が完成したので父に見せてみました。

多少の興味は示しましたが、あまりパッとした反応ではありませんでした。


しかし、夜中ふと目覚めた父が、

「あんた俺の親戚知ってる?」

と聞いてきたので、会ったことはないけど名前はわかるよと言って家系図を見せてみました。


すると父は「あんたよく知ってるねえ。俺より知ってるよ」と言いながら家系図を見て、落ち着きを取り戻しまた布団に戻りました。


よくやった、わたし。


正しい情報をフィードバックする以外にも、父を落ち着かせる方法も学ばなくては。