アルポート(Alport)症候群

アルポート症候群(指定難病218) 難病情報センター (nanbyou.or.jp)

小児腎領域の難病 (jpn.org)

1.「アルポート症候群」とはどのような病気ですか

 

慢性腎炎、難聴、眼合併症を呈する症候群で、しばしば末期腎不全へと進行します。しかし、難聴や眼の病気を合併しないこともあります。

慢性腎炎とは、無症状だが血尿や蛋白尿が持続的にみられ、少しずつ腎臓の機能が悪くなっていく状態です。

末期腎不全とは、腎臓の機能が悪くなり元に戻らない状態で、透析や腎移植が必要になります。

 

2.この病気の患者さんはどれくらいいるのですか

 

欧米からは5,000-10,000人に1人の割合で発症すると報告されています。日本では、1,200人程の患者さんがいるのではないかと推測されています。

多くは健診の検尿で血尿を指摘されて発見されます。家族に同じ病気の人がいる場合は、検尿で発見される場合もあります。最も頻度の高いCOL4A5 遺伝子の変異によるX連鎖型アルポート症候群では、男の子は生まれた時から血尿を認めることが多いので、血尿の程度が強い場合はオムツの色が赤っぽいことでみつかることもあります。

3.この病気はどのような人に多いのですか

 

遺伝性の疾患であり、ほとんどの場合、ご家族に腎炎の患者さんがいらっしゃいます。

約20%の患者さんでは家族歴がなく、遺伝子の突然変異により発症します。

 

4.この病気の原因はわかっているのですか

 

腎臓の糸球体を構成するのに重要な蛋白である4型コラーゲンのα3鎖、α4鎖またはα5鎖をコードしている遺伝子COL4A3、COL4A4、COL4A5遺伝子のいずれかに異常がある場合発症します。

これらの蛋白は内耳や眼にも存在するため、難聴や眼症状を合併します。

ほとんどの場合、腎臓の組織を直接採取して調べる腎生検や、皮膚の組織を採取して調べる皮膚生検で確定診断することが可能です。遺伝子を調べることにより確定診断およびその遺伝形式に関して調べることができます。

5.この病気は遺伝するのですか

 

遺伝子の疾患であるため遺伝します。

最も頻度の高いのはCOL4A5遺伝子の異常によるX染色体連鎖型アルポート症候群で、この場合、男性患者さんでは女性患者さんに比べて明らかに重症の症状を呈します。

比較的まれですが、COL4A3遺伝子やCOL4A4遺伝子の異常でも常染色体優性型や常染色体劣性型の遺伝をします。

それぞれの特徴は表の通りです。

どの病型においても非典型的に重症の患者さんや軽症の患者さんがいることに注意が必要です。

 

遺伝形式    原因遺伝子       頻度 末期腎不全到達年齢

X染色体連鎖型 COL4A5        80%  男性 平均25歳
                        女性 40歳で12%

常染色体劣性型 COL4A3またはCOL4A4 15%   平均21歳(男女同じ)

常染色体優性型 COL4A3またはCOL4A4 5%   平均60歳前後(男女同じ)

X連鎖型

常染色体劣性型

常染色体優性型

 

小児腎領域の難病 (jpn.org)

6.この病気ではどのような症状がおきますか 小児腎領域の難病 (jpn.org)

 

1)慢性腎炎:典型例では幼少期から血尿を認めます。見た目では尿に血液が混じっていることは分からず、尿検査で初めて血尿を指摘されます。風邪を引いた際に肉眼的血尿と呼ばれる赤またはコーラ色の尿が出ることがあります。年齢とともに蛋白尿を認めはじめ、非常にゆっくりした経過で末期腎不全へと進行することがあります。最も頻度の高いCOL4A5遺伝子の異常に伴うX染色体連鎖型アルポート症候群では、男性では40歳までに約90%の患者さんが末期腎不全に進行します。女性では40歳までに約10%の患者さんが末期腎不全へと進行します。末期腎不全へと進行した際は、透析や腎臓移植など、腎代替療法と呼ばれる治療が必要です。

2)難聴:生下時や幼少期に認めることはありません。しかし、最も頻度の高いCOL4A5遺伝子の異常に伴うX染色体連鎖型アルポート症候群では、男性ではほとんどの場合10歳以降に発症し、最終的には80%の患者さんで難聴を認めます。女性では20%の患者さんに認めます。

3)眼合併症:白内障や円錐水晶体などを認めることがあります。最も頻度の高いCOL4A5遺伝子の異常に伴うX染色体連鎖型アルポート症候群では、男性では約3分の1の患者に認めると報告されています。女性においては非常にまれと考えられています。

4)びまん性平滑筋腫:非常にまれな合併症で、良性腫瘍を発症します。食道に最もよく見られ、その他、女性生殖器、気管にも見られることがあります。

7.この病気にはどのような治療法がありますか

 

根治的治療法はありません。治療方針としてはいかに末期腎不全への進行を抑えるかに焦点が当てられています。

具体的にはアンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の内服による腎保護効果による治療を行います。

治療開始は血尿に加え、蛋白尿を認めはじめた時期とすることがほとんどですが、海外からは男性患者においては診断がつき次第すぐに加療開始をすすめる報告もあります。

 

8.この病気はどういう経過をたどるのですか 小児腎領域の難病 (jpn.org)

 

男性患者さんでは高頻度に末期腎不全へと進行します。

男性患者さんの末期腎不全到達平均年齢は25歳くらいと報告されており、その後、血液透析や腎移植などの腎代替療法が必要となります。

難聴により補聴器を必要とすることもあります。

9.この病気は日常生活でどのような注意が必要ですか

 

腎機能障害を認めない時期においては、原則的に通常の日常生活を送ることができ、生活上の制限は必要ありません。運動制限や食事制限も不要です。尿に蛋白が漏れるからといって、蛋白を制限したり過剰に摂取したりする必要はありません。ただし、尿潜血に加え尿蛋白を認める患者さんでは、アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬の内服加療を行うことがすすめられています。これらの薬には脱水になりやすいという副作用があり、内服中は脱水に注意が必要です。腎機能が正常な時期でも、尿に大量に蛋白が漏れるとむくみがみられる場合がありその場合は運動量の調節が必要です。また、経過中に高血圧がみられたら、塩分制限を考慮することもあります。腎機能が低下しはじめると、その程度により運動制限や食事制限が必要にな ることもありますが、過剰な制限はよくありません。特にお子さんで成長期にある時期には発育の問題がありますので、原則的に蛋白制限などの食事制限はしません。

 

10.妊娠はできますか?

 

X 連鎖型アルポート症候群の女性患者さんにおいては、多くは妊娠可能な時期に腎不全はありませんので妊娠・出産は通常どおり可能です。ただし、X 連鎖型でも重症例や常染色体劣性型の場合、腎機能に応じた対応が必要であり、容易とは言えない場合もあります。

アンジオテンシン変換酵素阻害薬やアンジオテンシン受容体拮抗薬には催奇形性があり、挙児を希望する場合にはこれらの薬を中止する必要があります。