OHVIRA(obstructed hemivagina and ipsilateral renal anomaly)症候群
Herlyn – Werner – Wunderlich症候群

重複子宮、片側腟の閉鎖に、閉鎖した腟と同側の腎無形成を伴います。

胎生期初期の未分化な性腺であるWolff管(雄)の発生障害に伴うMüller管(雌)の癒合不全により生じます。

約200~20000人の女性に1人という稀な疾患の上、解放側の腟より規則的な月経を認めるため診断が困難とされています。

ミュラー管異常による思春期の稀な腹痛
Adolescent abdominal pain due to rare mullerian duct anomaly – ScienceDirect

 

12歳の女性で腎臓の先天性異常が知られていましたが、5日前から左側の腹痛があり、その後右下腹部痛に発展しました。彼女は2年前から月経が定期的にありました。超音波検査で子宮下部の液体貯留と子宮前方の複雑な嚢胞構造を認めました。MRIにより、右子宮角から伸びる子宮頸管/腟管の重度の拡張を伴う重複子宮であることが判明しました。手術室に運ばれ、腟中隔切除術が行われました。

OHVIRAは、異常の多くは右側で、初経から約4ヶ月後に右下腹部痛や骨盤痛を生じます。ほとんどは急性かつ重篤な症状が現れるまで来院しないため、救急外来で治療を受ける可能性が高くなります。

Herlyn-Werner-Wunderlich症候群の保存的治療:51例の解析と長期経過観察
Conservative treatment of Herlyn-Werner-Wunderlich syndrome: Analysis and long-term follow-up of 51 cases - European Journal of Obstetrics and Gynecology and Reproductive Biology (ejog.org)

 

2008年から2021年にかけて、51名のHWWS患者が手術を受けました。術後、妊娠を希望した85.71%が妊娠しました。自然流産は27%、早産は36%、正期産は36%でした。全体として良好な妊娠経過を示しました。

 

早期診断は迅速かつ適切な外科的治療を確立するために不可欠です。

先天性腎異常の診断後にミュラー管異常のスクリーニングを行うべきでしょうか?
Should we screen for Müllerian anomalies following diagnosis of a congenital renal anomaly? - Journal of Pediatric Urology (jpurol.com)

 

腎異常の診断を受けた12~35歳の女性326人のうち、125人(38.3%)がミュラー管異常を併発していることが判明しました。痛みのために骨盤評価を受けた患者の約3分の1がミュラー管異常を有していることが判明しました。

ミュラー管異常を有する患者の69.6%(87/125人)において、腎異常はミュラー管異常より先に診断されていました。腎異常診断時の平均年齢は6.4±8.8歳、ミュラー管異常診断時の平均年齢は16.4±6.9歳でした。48名(38.4%)の患者には閉塞性異常がありました。ミュラー管閉塞のうち、93.8%は緊急手術で治療され、残りはホルモン抑制を開始しました。

ミュラー管異常の有病率は腎異常の診断に依存していました。片腎の患者では、67.1%がミュラー管異常と診断されました。その他の腎異常では、ミュラー管異常の有病率は20-23%でした。片腎の患者では、重複子宮が最も一般的なミュラー管異常でした(52.1%)。片腎の患者の30%は閉塞性ミュラー管異常と診断されました。

OHVIRA症候群:年齢別の管理をする時期が来ましたか?
OHVIRA (obstructed hemivagina and ipsilateral renal anomaly or Herlyn-Werner-Wunderlich syndrome): Is it time for age-specific management? - Journal of Pediatric Surgery (jpedsurg.org)

 

OHVIRAは通常、初潮後の思春期に月経困難症の悪化で症状が始まります。初潮前の管理については議論のあるところです。

28名の患者が診断され(平均年齢11.9歳)、7名(25%)が初経前でした。初潮前に診断された7人のうち3人に症状がありました。初潮後に診断された患者はすべて症状を呈していました。26名が手術(一期的ドレナージ、腟中隔切除術、腟形成術)を受けました。初潮前の無症状の患者は、初潮が始まってから手術を受けるまで追跡調査されました。OHVIRA診断のためだけに初潮前に手術を受けた患者はいません。

 

初潮前のOHVIRA症例で症状がない場合は、初潮を迎えるまで定期的なフォローアップを受けるべきです。初潮後の患者や症状のある患者には手術を考慮する必要があります。術後は腎臓と婦人科の両面で長期的なフォローアップが必要です。

Herlyn-Werner-Wunderlich 症候群:若い女性の症例報告
Herlyn-Werner-Wunderlich syndrome: A case report in a young woman, with literature review | Elsevier Enhanced Reader

 

重複子宮

2つの子宮頚部

右腎臓無形成、左腎臓代償性肥大

腟前面に2つの嚢胞性病変

右子宮頸部と交通

血栓症を併発

未診断のOHVIRA症候群による月経困難症は自殺の原因になることもあります
Dysmenorrhea due to undiagnosed obstructed hemi-vagina and ipsilateral renal anomaly syndrome can become a cause of suicide (jst.go.jp)

 

20代前半の日本人女性が高さ25mの橋から湖に飛び込み自殺しました。月経困難症と全身倦怠感に毎月悩まされていました。

法医解剖の結果、重複子宮、片側腟閉塞、同側腎臓の先天異常が示唆され、OHVIRA症候群と診断されました。子宮の右側には黒い塊からなる閉鎖性の空洞が観察されました。組織学的所見では、子宮内膜は初期増殖期であり、死亡直前まで月経期であったことが示唆されました。閉塞した子宮腔の圧迫により、激しい下腹部痛に悩まされていた可能性があります。

未診断のOHVIRA症候群による月経困難症が自殺企図につながる可能性を示唆するものです。

まとめ

 

OHVIRA症候群は稀な疾患の上、激しい腹痛などの症状で突然に救急で受診することが多いようです。CTやMRIを有さない通常の婦人科、超音波検査機器を有さない小児科、婦人科疾患に不慣れな科では、診断が困難なことが多いと思われます。

また、初経前の女児に超音波検査を実施し、片腎であることを診断する機会は通常はありませんので、 OHVIRA 症候群と診断されている女児は非常に少ないと思われます。

思春期の女児の腹痛の原因の一つとして、 OHVIRA症候群を考慮することは大切です。 OHVIRA症候群を疑い超音波検査を実施すれば、診断は比較的容易と思います。