肥満および多嚢胞性卵巣症候群の女性におけるリラグルチド 3mgの体重、体組成、ホルモンおよび代謝パラメーターへの影響
食事をとると小腸から分泌され、インスリンの分泌を促進する働きをもつホルモンをインクレチンといい、GIP (グルコース依存性インスリン分泌刺激ポリペプチド) とGLP-1 (グルカゴン様ペプチド-1) があります。2型糖尿病に対する治療薬として注目されるのがGLP-1です。
GLP-1は、食事をとって血糖値が上がると、小腸にあるL細胞から分泌され、すい臓のβ細胞表面にあるGLP-1の鍵穴 (受容体) にくっつき、β細胞内からインスリンを分泌させます。GLP-1は、血糖値が高い場合にのみインスリンを分泌させる特徴があります。
多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、生殖年齢にある女性の最大18%が罹患する、最も一般的な内分泌疾患です。
体脂肪が過剰に蓄積した状態である肥満は、PCOSと密接な関係があるようです。
インスリン抵抗性を改善し、高アンドロゲン血症を軽減し、PCOSの臨床的重症度を緩和するために、減量は肥満とPCOSを有する女性の管理の基本です。
PCOS治療の第一選択薬は、食事療法や運動療法などのライフスタイルの改善ですが、体重減少やPCOS関連症状の治療にはほとんど効果がないことが報告されています。
減量効果を高めるために、生活習慣の改善策に補助的に薬物療法が用いられることが多くなっています。
リラグルチド(LIRA)は、グルカゴン様ペプチド受容体作動薬GLP-1RAであり、肥満症、糖尿病前症、2型糖尿病の患者において、腹部脂肪減少とともに、持続的な体重減少を促進することができます。
LIRA3mg 1日1回投与は、生活習慣改善の補助として、体重が5%以上10%未満減少する肥満症治療薬として承認されました。
肥満症とPCOSを有する女性の治療におけるGLP-1RA療法の利用可能な研究は、エキセナチドとLIRAが単独療法またはメトホルミンとの併用療法で体重減少に有効であることを実証しています。
少人数のPCOS女性において、高用量LIRA 3mgの投与は、低用量LIRAとメトホルミンの併用と比較して、BMIおよびウエスト周囲径(WC)の減少において優れていることが示されました。
治療前後
パラメータ LIRA3mg前 LIRA3mg後 プラセボ-LIRA3mg前 プラセボ-LIRA3mg後
体重 kg 111 104.7 119 117.9
BMI kg/m2 41.6 39.1 43.9 43.4
ウエスト cm 111 101 116 110
遊離アンドロゲン指数 6.9 5.98 5.6 6.4
年間の月経回数 4.5 8.65 4.8 4.8
空腹時血糖 mg/dL 96 90.2 95 94.3
平均血糖 mg/dL 129 109 127 126
HOMA-IR 4.8 4.1 5.1 5.2
中性脂肪 mg/dL 131 109 117 114
開始から試験終了までの体重の変化
LIRA 3mg プラセボ-LIRA 3mg
平均体重減少率 5.7% 1.4%
≥5%の体重減少の頻度 57% 22%
≥10%の体重減少の頻度 29.5% 8.7%
2020 年7月9日
GLP-1 受容体作動薬適応外使用に関する日本糖尿病学会の見解
jds_statement_GLP-1.pdf (kyorin.co.jp)
一般社団法人 日本糖尿病学会
今般、一部のクリニック等において、2型糖尿病治療薬である GLP-1 受容体作動薬を、 適応外使用である美容・痩身・ダイエット等を目的として自由診療での処方を宣伝する医療広告が散見されます。我が国において 2020 年 7 月時点で、一部の GLP-1 受容体作動薬については、健康障害リスクの高い肥満症患者に対する臨床試験が実施されていますが、その結果はまだ出ていません。したがって、2型糖尿病治療以外を適応症として承認された GLP1 受容体作動薬は存在せず、美容・痩身・ダイエット等を目的とする適応外使用に関して、 2型糖尿病を有さない日本人における安全性と有効性は確認されていません。 医師とくに本学会員においては、不適切な薬物療法によって患者さんの健康を脅かす危険を常に念頭に置き、誤解を招きかねない不適切な広告表示を厳に戒め、国内承認状況を踏まえた薬剤の適正な処方を行ってください。また、特に本学会専門医による不適切な薬剤使用の推奨は、糖尿病専門医に対する国民の信頼を毀損するもので本学会として認められるものでないことを警告します。 以上