子宮内膜刺激胚移植法(SEET法)

 

反復着床不全での使用

はじめに

 

・凍結保存していた胚培養液を子宮腔内に注入した2~3日後に、融解した胚盤胞を移植します。

・体外受精・顕微授精の反復不成功症例や良好胚盤胞での移植で、妊娠率が向上したという報告があります。

・培養中に胚から染み出してくる 「何らかの因子」 が、胚と子宮内膜とのクロストーク(助け合い)を早期に開始させ、「着床の窓」を開くことを助けるなど、妊娠率を向上させていることが推測されます。注入による 「何らかの因子」 の増量により、着床率や妊娠率が向上しているのかも知れません。

方法

1)通常のように採卵を行い、受精卵を胚盤胞まで培養します。この初期胚から胚盤胞まで培養した培養液を凍結保存します。

2)翌々月経周期の黄体期2~3日目に、凍結していた培養液を融解して子宮腔内に注入します。

3)黄体期5日目(培養液注入後2~3日)頃に、融解した胚盤胞を移植します。

反復着床不全にSEET法は有効か?
SEET法は不妊治療に有効か? (反復着床不全に限らない場合)

 

1.反復着床不全において無治療群と比較してSEET法が臨床的妊娠率を改善させるか否かは現時点では不明である。しかし、SEET法により臨床的妊娠率の改善を認めた報告も散見されるため治療オプションの1つとして考慮される。(C)

2.反復着床不全において無治療群と比較をしても流産・早産・多胎・異所性妊娠・胎児奇形(染色体異常、形態異常、解剖学的異常)などの有害事象の発生には差を認めない。(B)

3.反復着床不全に限らない場合においてもSEET法が臨床的妊娠率を改善するか否かは不明である。しかし、SEET法の有効性を示唆する報告もあるため、治療オプションの1つとして考慮される。(C)

 

推奨レベル(B);実施すること等が勧められる

       (C);実施すること等が考慮される

生殖補助医療における不妊女性への胚培養液の子宮内注入 - Siristatidis, CS - 2020 | Cochrane Library(日本語訳原文)

 

・ レビューの論点

 コクラン共同研究の研究者らは、生殖補助医療を受けている女性の胚移植前に胚培養液の上清(上澄み)を子宮内に注入することの有効性と安全性に関するエビデンスをレビューした。

 

・背景

 生殖補助医療(ART)とは、不妊治療に用いられる技術のことで、体外受精(IVF)や細胞質内精子注入法(ICSI)が最も一般的である。臨床および研究室における努力とこれらの治療成績の改善がなされてきたにもかかわらず、妊娠率は比較的低いままである。IVFでは、女性の卵巣から卵子を取り出し、パートナーやドナーからの精子とともに、胚培養液と呼ばれる液体を入れたお皿(シャーレ)に入れる。ICSI((訳者注:日本では、顕微授精と呼ばれることが多い)では、女性の卵子に1個の精子細胞を注入し、その卵子を培養液に入れる。

 様々な因子が胚と母体組織とのコミュニケーションを可能にしている。これらは、子宮内膜の受容性に影響を与える可能性がある。研究者らは、胚移植前に胚培養液の上清を子宮内に注入すると、子宮内膜が刺激され、胚が子宮に着床しやすくなるのではないかと提案している。これにより、出生率や他のARTにおけるアウトカムが向上する可能性がある。

 胚移植前の注入は心強い技術に思えるが、その有効性と安全性については、アウトカムに関する利用可能なエビデンスがあまりないため、現在も論争の的となっている。今回のコクランレビューでは、関連するエビデンスをまとめた。私たちは、結論を可能な限り強固なものにし、エビデンスの限界を明らかにすることも目指した。

・ 研究の特性
 コクラン婦人科・不妊グループ情報の専門家と相談し、標準的な医療データベースの包括的な文献検索を行った。検索期間は、各データベースの最も早い記録から2019年12月までとした。胚移植前に、IVFまたはICSIを行った周期中の胚培養上清の子宮内膜注入の有効性を、他の介入または介入なし(通常のケア)と比較検討したすべてのランダム化比較試験(RCT:無作為な方法で参加者を治療群に割り付けた研究)を検索した。IVFとICSIは、ARTにおける主要な技術である。言語や研究が実施された国に関係なく研究を検索した。2人のレビュー執筆者が独立して研究を選択・評価し、データを抽出し、データが不足している場合は研究の著者に連絡を試みた。526人の女性が含まれる5件の研究が、我々のレビューの包含基準を満たしていた。進行中の試験はなかった。

 

・主要な結果

 胚移植前に胚培養上清の子宮内膜注入をルーチンとして行うことが、通常のケアと比較して、出生率・妊娠継続率の改善や流産率に対し、ARTを受ける女性にとってポジティブな効果があるかどうかは不明である。通常のケアでは出生率や妊娠継続率は42%であったのに対し、上清を注入した場合は35~55%とばらつきがあることが分かった。流産のリスクは通常のケアでは9%、注入群では4~15%であった。臨床妊娠率、多胎妊娠率、異所性妊娠率に対しても、早産や胎児の異常と同様、同じような結論が得られた。我々のレビューに含まれたRCTでは、その使用による明確な有益性を示したアウトカム指標は1つもなかった。また、胚移植前に培養液を子宮内に注入するのと比較して、胚を培養した培養液の上清を子宮内膜に注入する方法をルーチンで実施することを支持するエビデンスも不十分であった。

 

・エビデンスの質

 ほぼすべての結果について、エビデンスの質は低いか、極めて低かった。胎児異常に関するエビデンスの質は低かった。含まれたRCTの主な限界となる事項は、報告された研究方法が不十分であること、含まれた研究の特徴に大きなばらつきがあること、研究数が少なく、報告されたイベント数が少ないために統計学的に不正確であることであった。

最後に

培養液は通常は廃棄するものですので、SEET法をご希望の方は、採卵日までにお申し付けください。培養液を凍結保存します。