顆粒球コロニー刺激因子
G-CSF
granulocyte colony stimulating factor
「子宮内膜菲薄」と「着床障害」への
取り組み
子宮内膜菲薄症例や、原因不明着床障害症例に対して、G-CSFを 胚移植前の子宮内に注入すると有効なことがあります。
胚移植前の子宮内膜厚
7mm以下であると着床率が低下するとされています。
子宮内膜菲薄の原因と対応
原因
子宮内膜掻爬術や流産・中絶手術などによる、子宮内腔の癒着や変形
子宮奇形
子宮の血流不足
その他
対応
癒着剥離
新鮮胚移植、自然周期での凍結融解胚移植、ホルモン補充周期での凍結融解胚移植法など、移植方法の検討
エストロゲン(卵胞ホルモン)補充
低用量アスピリン
ビタミンE
L-アルギニン
シルデナフィルの経腟使用
遠赤外線温熱治療(サンビーマー)
漢方薬
その他(G-CSFなど)
子宮内膜菲薄に対するG-CSF療法の有効性の一報告
Efficacy of intrauterine perfusion of granulocyte colony‐stimulating factor (G‐CSF) for Infertile women with thin endometrium: A systematic review and meta‐analysis - Xie - 2017 - American Journal of Reproductive Immunology - Wiley Online Library
本メタアナリシスは,子宮内膜が薄い不妊女性に対するG-CSFの子宮内注入の効果を検討することを目的としました。
子宮内膜の厚さ、(子宮内膜が薄いための)治療キャンセル率、臨床的妊娠率、着床率に関するデータをそれぞれ抽出し、分析しました。
683人の患者を対象とした11の研究がこのメタ分析に含まれました。
対照群と比較して、G-CSF使用は、子宮内膜厚(平均差[MD]=1.79、95%信頼区間(CI):0.92-2.67)、臨床的妊娠率(リスク比[RR]=2.52、95%CI:1.39-4.55)、着床率(RR=2.35、95%CI:1.20-4.60)を有意に改善し、一方で、治療キャンセル率(RR=0.38、95%CI:0.25-0.58)を低下させることができました。
今回のデータは、G-CSFの子宮内注入は、子宮内膜が薄い女性において、子宮内膜の厚さ、臨床的妊娠率、胚の着床率を改善し、治療キャンセル率を低下させることを示しています。(一部省略、変更)
反復着床不全に対するG-CSF療法の有効性の一報告
Treatment with granulocyte colony-stimulating factor in patients with repetitive implantation failures and/or recurrent spontaneous abortions - ScienceDirect
着床失敗を繰り返す患者および自然流産を繰り返す患者に対するG-CSF療法
G-CSFが、卵子と精子の成熟、子宮内膜の受容性、着床、胚と胎児の発育における重要なプロセスを制御している、あるいは制御する役割を果たしていると考えられています。(一部省略、変更)
G-CSFについて
顆粒膜細胞で産生
子宮内膜、卵管液・卵胞液中に存在
働き
卵胞発育
排卵
胚盤胞への発育
子宮内膜間質細胞の脱落膜化
栄養芽細胞の母体組織への浸潤
胎盤形成
その他
子宮内膜の菲薄化が原因不明の際には、G-CSFの作用が不十分ということも考えられます。
特に、年齢が上昇すると卵巣機能が低下し、エストロゲンの減少による子宮内膜の萎縮が生じます。エストロゲン減少期間が長期化した例では、G-CSFが有効なことがあります。
子宮内膜非薄に対するエストロゲン補充、低用量アスピリン、ビタミンE、L-アルギニン、シルデナフィルの経腟使用、遠赤外線温熱治療(サンビーマー)、漢方薬などを行っても、胚移植前の子宮内膜厚が7mm以上に改善しない患者さんにG-CSF療法を検討します。
G-CSFの使用時期と使用方法
使用時期(例)
新鮮胚移植では、hCG使用日、胚移植の1時間前、採卵中などが考えられます。しかし、G-CSFの使用時期による効果の差があるとはされていません。
新鮮胚移植や自然周期での凍結融解胚移植ではhCG使用日にG-CSFも使用し、ホルモン補充周期での凍結融解胚移植では、胚移植決定日にG-CSFを使用するような方法もあります。
使用方法(例)
G-CSFの使用量:
フィルグラスチム 100~300μg
量の多寡による効果の差は認められていません。
G-CSFの使用方法:腟を通して、子宮内に注入します。
まとめ
子宮内膜の非薄、および、反復着床不全に対するG-CSF療法の効果は明らかではなく、十分な科学的根拠はありません。
G-CSFの作用機序は不明で、適応や使用量・期間・方法などは定まっていません。
しかし、G-CSFは薄い子宮内膜を厚くするだけでなく、子宮内膜が薄くても着床できるように内膜を変化させるという研究もありますので、他の治療で効果のない子宮内膜非薄、反復着床不全に対する治療の可能性の一つとして、G-CSF療法を検討することができます。