今年は全国的に猛暑の日が多いですね。
暑い夏がくると、
ある殺人事件を思い出します。

私は東京で何度か引っ越しをしているのですが、
以前に住んでいたところで、
窓から見えるくらい近い一軒家で、
殺人事件が起きました。
黄色いテープが貼られ、
ヘリコプターが飛んで、
騒然としました。

長年、
嫁姑のいさかいがあったのだそうですが、
嫁のほうが、ついに姑を殺し、
台所の床下収納に死体を隠して、
逃げてしまったのです。

隠して逃げたと行っても、
いつまでも見つからないようにと思ったわけでも、
逃げ切れると思ったわけでもないでしょう。
計画的な犯行ではなく、
まったくの衝動的な殺人で、
やってしまってから、困ってとりあえず床下に入れ、
逃げてしまったのでしょう。
すぐに逮捕されました。

長年もめていたのに、
なぜこのときついに我慢が限界にきてしまったのか?
もちろん、
コップに水がたまっていくように、
いつか最後の一滴であふれてしまうことはあります。
それがたまたまこのときだったのかもしれません。

でも、近所に住んでいた人たちは、
私も含め、
このタイミングだった理由がなんとなくわかるような気がしたものです。
その年も、大変な猛暑でした。
そして、その家の隣の家が、リフォームをしていました。
この工事の音が、それはそれはひどかったのです。
しかも、工事の人たちが大酒飲みぞろいなのか、
「ゲロが出そう」「いいから床下にやっちまえよ」
なんていう会話を毎日のようにしていて、
ゲロゲロと吐く音もよくしていました。

猛暑、工事の騒音、ゲロ……。
ひとつひとつは、もちろん耐えられないものではありませんが、
小さなストレスでも、積み重なると、
これは大きなストレスになります。

「本物の心理テスト」のサイトの
「マイナス心理診断」でも取り上げましたが、
「日常のごく小さなストレス」のことを【デイリーハッスル】と言います。
「ハッスル」というと、普通は「はりきる、てきぱきやる」というような意味
ですが、
それは hustle で、こちらのハッスルは hassle。
「わずらわしい」というような意味です。
日常の小さなストレスの積み重ねというのは、決して軽視できないのです。

もともと嫁姑問題で、
大きなストレスを抱えて、限界ぎりぎりのところにあったのに、
そこに、猛暑、工事の騒音、ゲロという【デイリーハッスル】が積み重なり、
ついに限界を越えてしまったのではないでしょうか。

裁判では、そうした日常の細々したことは、
情状酌量の対象とはならないでしょう。
「暑かったから」なんて言えば、
カミュの『異邦人』の主人公のようで、
かえって罪が重くなりそうです。

でも、たかが暑さと、
決して軽視はできません。

夏の猛暑の時期に、
何か腹が立ったり、
何かが限界に達してしまったら、
それはもしかすると、
暑さのせいかもしれません。
「そんなくだらない理由ではない!」と思うかもしれませんが、
少なくとも、涼しくなるまでは、
大きな決断や行動はとらないほうがいいと思います。

老婆心かもしれせんが、
暑い日が続くので、
昔の事件を思い出して、
ちょっと一言、お伝えしておきたくなりました。