前回、
リチャード・マシスンの短編集『運命のボタン』に、
「死の部屋のなかで」という、
人間消失モノの短編が入っているので、
読んだら、報告します、
と書きました。

で、短いものなので、
読み終えたのですが、
報告はひかえさせていただきます。
それでお察しいただければ幸いです……。

ただ、これをもとに、
「恐怖のレストラン」というテレビムービーが作られ、
さらにそれをリメイクした、
「ブレーキ・ダウン」という映画があって、
これは面白いらしいので、観たら、また書きます。

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さて、先に話が出たリチャード・マシスンの「蒸発」に関連して、
黒井千次の「遊園地から」という短編を思い出しました。

「蒸発」は、
自分の知っている人がどんどん消えて、
家まで消えてしまうわけですが、
「遊園地から」のほうは、
家への帰り方がわからなくなります。

純文学なので、オチはありませんし、
文庫本で数ページのお話ですが、
心に刻まれるイメージがあります。

父親が子供を連れて、近くの公園に遊びに行きます。
そして、なんだか不安になってきて、
帰ろうとするのですが、
そのとき、そばの男から急に話しかけられます。
「どこに?」
「帰ります」
「どこに帰るんです?」
「うちに帰るんです」
「帰れますか?」とその男は意外な質問をしてきます。
そして、さらにこう言います。
「帰っても、帰っても、何度ただいまと言っても、まだ帰っていないみたいな
ことはないですか?」
父親は、家への帰り道がわからなくなり、
目をつぶって、子供に手をひいてもらって、帰ろうとします。

「なんだそりゃ」という人もいるでしょうし、
すごく琴線にふれる人もいるでしょう。

出会いは高3のときで、
国語のテストの本文に、この短編の一部が使われていました。
一部だけだったのが、よけいによかったです。想像がふくらんで。

なぜそんなにひきつけられたかと言うと、
当時、私は家に帰ることの困難ということを感じていました。
それは道に迷うということではなく(笑)、
親と不仲とかそういうことでもありません。
意味不明かと思いますが、これは言葉で説明するのは難しいです。

だから当時、「帰ること」なんて題名の小説もどきを書いたりもしていました。
言葉にならない気持ちを表現するには物語にするのがいちばんですから。
男がいつものように妻の待つ家に帰ろうとするのですが、
ドアを開けて妻が出迎えてくれるところまではうまくいくのですが、
どうしてもそこで帰ることに失敗する。
それを何度も何度もくり返すというお話です。

そんなときに、「帰れますか?」というセリフを目にしたのですから、
ひきこまれるのも当然でした。

調べると、この短編は、
『失うべき日』黒井千次(集英社文庫)
に入っていました。

失うべき日 (1977年) (集英社文庫)/黒井 千次
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黒井千次の初期の作品で、
私は他にも「走る家族」など、初期の作品が好きです。

走る家族 (1978年) (集英社文庫)/黒井 千次
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こちらは、家族で車で走っているうちに、
いつまでも走りやめられなくなるというお話です。
私も、タクシーなどに乗ると、
いつの間にかまったく知らないところを走っていて、
いつまでもそのまま走り続けることになるのではないかという
不安のような陶酔なような気持ちによくなっていたので、
これも引き込まれました。

今回はちょっと自分の趣味に走りすぎて、
わけわからなかったかもしれませんね。
次回は、軌道修正して、
いよいよ「人間消失ミステリー」の元祖の話をしたいと思います。