強化原爆は、コアの中に重水素とトリチウムのガスを入れることによって核分裂を効率よく行い、威力が増大したが、原子爆弾には威力に限界があった。
原子爆弾はコアを圧縮して臨界にするため、コアを臨界が発生しない質量にまで抑えなければならない。コアをいくつかに分割する方法も考案されたが、そうするとより強力な爆薬で圧縮しなければならず、重量の増大を招いた。
そのため、臨界というものが存在せず、核分裂反応より強力で、いくらでも威力が高められる核融合反応を利用した水爆の開発が進められた。
①経緯
そもそもなぜ原子爆弾よりも遥かに威力の高い水素爆弾の開発が進められたのかというと、原子爆弾では威力が不足していたからである。
広島に原爆が落とされたとき、爆心地から500m以内に生存者がいた。生存できたのは鉄筋コンクリート製の頑丈な建物の地下に居たので、爆発の衝撃破・熱線・放射線を避けることができたからである。
その後、核実験を繰り返すと、戦車・軍艦・地下の軍事施設や核シェルターに対しては威力が限定的であるのが判明した。
原子爆弾は、重くその威力のせいで、爆撃機から投下するためには、高い高度から落とさなければならない。低い高度だと爆撃機が退避できずに、核爆発に巻き込まれる。当然、命中率が下がり、目標に打撃を上手く与えられなかった。
また、1950年代後半から核弾道ミサイル(ICBMやIRBM)の開発が本格化する。当時の弾道ミサイルの命中精度は非常に悪く。1960年代では半径3kmに向かって10発撃ち込んでも円の中に5発しか着弾しなかった。
大都市には打撃を与えられる反面。敵の核ミサイルを収納した地下サイロを攻撃するには命中精度が悪すぎた。
こうした経緯から、水爆の開発が強く望まれた。1960年代では爆撃機でTNT換算10メガトン(初期原爆の500倍)・弾道ミサイルでTNT換算2メガトン(初期原爆の100倍)くらいの水爆が作られた。
現在では、命中精度が高まったので、水爆でも200キロトン(初期原爆の10倍)クラスの水爆を搭載する方向になっている。
②歴史
一番最初は、コアの内部に、核融合物質などを入れて試したが、部分的な核融合反応しか起きなかった。
そのため、原子爆弾の外部に核融合物質を置いて、何とか原子爆弾のエネルギーでローソン条件をクリアし起爆する研究が行われた。
だが計算上、原子爆弾が出す爆発力だけでは、核融合物質を圧縮してローソン条件に達することができず、あきらめかけていた。
突破口は、核爆発の衝撃波の前に光の速さで発生するX線と、その後に続く中性子線だった。原子爆弾をを重い元素で囲った容器の中に入れるとX線が反射し、核融合物質を加熱する。
これで核融合物質を加熱し、中性子線を投入させて、圧力をかけるとローソン条件を満たし、核融合反応が起こることが分かった
③湿式水爆と乾式水爆
水素爆弾に使われる核融合物質は、一番初めに液体重水素と液体トリチウムを使用していた。気体だと容積がかさばるうえ密度が低いので、ローソン条件に達せず核融合反応が起きないし、また起こったとしても少量しか反応しないからだある。
液体重水素と液体トリチウムを使う方式を湿式水爆と呼び、1952年にマイク実験として水爆実験(TNT換算で10メガトン程度)に成功し、水素爆弾Mark-16として実戦配備された。
だが、液体重水素と液体トリチウムは、マイナス250度まで冷やさなければならず、長期間保冷するシステムが必要で、嵩張るうえにメンテナンスが大変だった。またトリチウムを合成するためには、リチウムに原子炉で中性子を当てて製造するため、非常に高価で少量しか製造できない欠点があった。
このため、より使いやすい物質として、リチウムと重水素の化合物の重水素化リチウムを核融合物質に使った水爆が誕生した。これを乾式水爆と呼び、1954年にブラボー実験として水爆実験(TNT換算で15メガトン程度)に成功し、水素爆弾Mark-14として実戦配備された。
重水素化リチウムは、固体で冷却システムや保冷構造は必要としなかった。また核融合に使うトリチウムを、爆発時に生み出せる方式でもあった。
現在の水素爆弾は、全て乾式水爆で湿式は使われていないので、具体的な原理は、重水素化リチウムを使用した乾式水爆について述べる。
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④リチウムの核反応(図.5より)
リチウムは、中性子を衝突する核融合反応を起こせるが、リチウム6(陽子3個・中性子3個)とリチウム7(陽子3個・中性子4個)では、反応が違う。リチウム6の核反応では熱を発生させるがリチウム7では熱を奪う。核融合反応を促進させるためには、リチウム6の方が好ましい。
リチウム6はリチウムの7.5%で、リチウム7はリチウムの92.5%である。水爆の核融合物質には、リチウム6を濃縮して重水素と化合した重水素化リチウムが使われる。
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⑤構造(図.6より)
水素爆弾は、大きく分けてプライマリー(第一段階)とセカンダリー(第二段階)に分かれる。
プライマリー(第一段階)では、強化原爆が使用されている。原爆の威力で核融合反応を起こさせるためである。初期の水爆では、核融合をどのように起こさせるのかのノウハウが少なかったので、威力が200~300キロトンもある強化原爆を使用して核融合物質に点火していた。
セカンダリー(第二段階)は円筒形の構造で、内部に核融合物質の重水素化リチウムが入っており、中心にはプルトニウム239やウラン235が芯(スパークプラグ)として入っている。外側は圧力と閉じ込め時間を長くするためにダンパーが入っており、さらに周りを囲むように密度の低いスチレン重合体が充填されている。
また、外殻はウラン238を使用している。ウラン238はウラン235と違って、通常核分裂を起こさないが、核融合による高速中性子を当てると、核分裂を起こす。
この構造を、水爆開発者の名前を取って、テラー・ウラム方式という。
⑥水素爆弾の作動方法
・プライマリー(第一段階)の強化原爆が起爆し、コアが圧縮され超臨界が起こり、ウラン235かプルトニウム239が核分裂する。
・核分裂の連鎖反応で発生したX線が、外殻のウラン238から反射して、セカンダリー(第二段階)を加熱させる。
・X線がスチレン重合体を加熱膨張させ、セカンダリー(第二段階)を圧縮させる。
・圧縮されたセカンダリー(第二段階)の中心にあるウラン235やプルトニウム239の芯(スパークプラグ)が、圧力と熱で超臨界になり核分裂反応が起きる。
・核融合物質の重水素化リチウムが、外部と内部に挟まれ、加熱圧縮される。
・核分裂反応で起きた中性子が、重水素化リチウムのリチウム6をトリチウムとヘリウム4に変換する。
・トリチウムと重水素がローソン条件を満たし、核融合反応を起こす。(DT反応)
・核融合反応で発生した高速中性子が、外殻のウラン238を核分裂させる。
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⑥水素爆弾の反応方法(図7より)
・ウラン235かプルトニウム239が核分裂し中性子を発生。
・中性子が重水素化リチウムに含まれるリチウム6と反応し、トリチウムとヘリウム4を生成。
・トリチウムと重水素がローソン条件を満たし、核融合反応(DT反応)を起こして高速中性子を発生。
・高速中性子が、外殻のウラン238に衝突し、核分裂を起こす。これにより中性子エネルギーが熱に変換される。
⑦まとめと補足
水素爆弾は、核分裂→核融合→核分裂を起こして、威力を出している。これを3F爆弾という。
この3F爆弾は、TNT換算10メガトンクラスの物もあるが、威力のエネルギーは、重水素化リチウムの核融合が半分程度で、もう半分は外殻のウラン238の核分裂である。
なぜかと言うと、核融合のエネルギーの多くが高速中性子という粒子で放出するから、それをウラン238で核分裂させることで、熱に変換しているからである。
そのため、核分裂で起きた放射性物質も大量に発生し、周囲の環境を汚染する。
外殻をウラン238ではなくコバルトにすると、ガンマ線を出すコバルト60で辺りを核汚染させるコバルト爆弾になる。
外殻をウラン238ではなく中性子を透過する金属にし、核融合の中性子をそのまま放出するのが中性子爆弾になる。
中性子爆弾は、水爆の威力を抑えて、中性子を放出させる。すると、軍艦や戦車は無傷でも、中性子の透過能力で内部の乗員を殺すことができる。
外殻を核分裂させなければ、威力は下がるが、核分裂による放射性物質を少なくできる。
なお、プライマリー(第一段階)の強化原爆に使われるコア(ピット)は、ウラン235の方が水爆を起爆させるのに向いている。プルトニウム239でも構わないが、ウラン235の核分裂が、効率よく核融合を反応させる中性子を放出できる。
そのため、中国はウラン型原爆を最初に作り、僅か5年で水爆を保有することが出来た。
本の紹介・・・中国の21世紀に向けての戦略。要は、世の中全ての物が、今後の戦争に使われ、軍事や非軍事の境界線は無くなるという話。