水素爆弾の実験が成功し、水爆が配備された1950年代では、アメリカもソ連も威力の高い水爆を量産することに全力を注いでいた。
1960年代に入ると、核攻撃の主力が核爆撃機から核弾道ミサイルに変わっていく。初期の核ミサイルはTNT換算2メガトンクラスの水爆が1つ搭載されていたが、爆撃機よりもミサイルには重量やスペースが限られているので、核兵器は威力を高くする方向からより効率的に敵国を破壊する方法に変わっていく。
そして、1960年代には核弾道ミサイル搭載の原子力潜水艦(SLBM)が開発され、核ミサイルサイロ・核シェルターが整備されていき、攻撃も防御も能力が向上した。これによりそれまで威力重視の核兵器の戦略が変わり始める。
①核戦略の転換
1960年代には、それまで主流だったカウンターバリュー(核兵器の標的は敵の大都市)からカウンターフォース(核兵器の標的は敵の核ミサイルや核爆撃機・地下サイロ)に転換していく。
カウンターバリューは1921年にイタリアのドゥーエ将軍が出した「制空論」が元になっている。すなわち「戦争になったら直ちに、高速爆撃機を敵の首都に送り込んで、都市の住民に毒ガス弾を投下すれば戦争はすぐ終わる」「それで都市の民間人は大量に死ぬが、継戦能力がなくなるのでお互いの犠牲は最小限で済む」という理屈である。
東京大空襲や広島・長崎の原爆投下は、この理論を元に実行された。戦略爆撃の理論になっている。
だが、核兵器の犠牲はあまりにも大きいので、方針を大都市から敵の核ミサイルサイロや核爆撃機の格納庫にし、自分たちの核攻撃を少しでも抑えようと考えた。
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②効率化の追求
特に敵の核ミサイルサイロを破壊するには、威力の大きい(TNT換算2メガトン)水爆を1発をサイロ1つに落とすより、威力の少ない(TNT換算200キロトン)水爆を5発にしてサイロ5つにそれぞれ落とした方がいい。
威力の総量は前者の1つの方が大きいが、核爆発の威力は立体的に広がるので、大型の水爆を1つよりも小型の水爆を複数投下した方が加害面積が広くなる。
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③MIRV(多弾頭核ミサイル)の開発
1970年代になると、1つのミサイルに核弾頭を複数のせるMIRV(多弾頭核ミサイル)が開発され、より効率化が追及される。
それまでは、1つのミサイルに1つの核弾頭だった。これは技術が未熟で核兵器が小型化できず1つしか載せられなかったのと、ミサイルの命中精度が悪く、目標のズレを威力でまかなおうとしたからである。
それがミサイルの命中精度が上がり、核兵器が小型化されて、MIRV(多弾頭核ミサイル)ができるようになった。MIRV(多弾頭核ミサイル)は発射されると、宇宙空間で複数の核弾頭が分裂し、それぞれの目標に命中する。
④放射性物質の削減
プルトニウム239やウラン235を核分裂させると、放射性ヨウ素や放射性セシウムなどの大量の放射性物質が発生する。核分裂でできる放射性物質は、長期間にわたり放射線を出すので、核爆発を受けた地域を汚染する。
これに対して重水素、トリチウム、リチウムを核融合させると、ヘリウムや中性子などが発生するが、核融合は核分裂に比べて圧倒的に少ない放射性物質しか出さない。核爆発を受けた地域をあまり汚染しないので、核攻撃の後で素早く軍隊を送って占領できるし、国際的な批判も少ない。
そのため、威力を弱めずなるべく放射性物質の少ない核爆弾(きれいな水爆)が開発されていく。
例えば、TNT換算100キロトンの強化原爆よりも、TNT1キロトンの強化原爆をプライマリーにしてセカンダリーで核融合を起こし、威力を100キロトンにした水爆の方が、放射性物質が少ない。
新しい核兵器は、水爆のプライマリー(第一段階)を可能な限り小さくして、そのエネルギーで核融合を起こせる水爆を開発することになった。
それまでの水爆(3F)の核分裂→核融合→核分裂を、核分裂→核融合にし、核分裂をできるだけ少なくして核融合を起こすのである。
もし、プライマリー(第一段階)を無くして、核分裂の力を借りずに核融合を起こせれば理想の水爆となる。この理想の水爆を純粋水爆といい、世界各国で開発が進められているが、未だに成功していない。
よく「全世界の核兵器は地球を何回も破壊できる威力がある」「全世界の核兵器保有量は減りつつある」「プルトニウム〇kgの保有で原爆〇個分の核兵器が作れる」という宣伝を見かけることがあるが、これらはあまり正しいとは言えない。
例えば威力の比較では、核兵器の威力を低下させても、数を増やすことにより加害面積は増加するし、命中率の向上で目標を正確に狙える。
プルトニウム239は、自発核分裂を起こす同位体のプルトニウム240の含有量が核兵器の質に大きく影響するので、プルトニウム〇kg保有しているからと言って原爆〇個が作れるとは限らない。
また、核兵器は進化するほど、少ない量のプルトニウムでも核爆発を起こせるように技術が進歩しているので、技術力が上がれば上がるほど少ないプルトニウムでより多くの威力の高い核兵器を製造できる。
性能向上と効率化を考えると、初期原爆と最新の水爆のカタログスペックをただ比較するのは危険である。50年前のミグ25戦闘機がマッハ3を出すが、最新鋭のF35戦闘機がマッハ1.6しか出ないからと言ってミグ25の方が優秀だとはならないだろう。
本の紹介・・・核融合の原理について分かりやすく書いてある。ただ、兵器よりは核融合発電の内容が多い。