1950年代の初期型の水爆は、プライマリー(第一段階)の威力がTNT換算100キロトン以上の強化原爆を点火源にしてセカンダリー(第二段階)の核融合燃料(重水素化リチウム)の核融合を起こしていた。
 これは水爆の技術が未熟で、高威力の原爆でないと上手く核融合燃料に点火できなかったからである。水爆実験の中には、核融合燃料の点火に失敗し、強化原爆並みの威力しか出なかったこともある。
 それでも、徐々にプライマリー(第一段階)は威力を低く小型化していった。現在はTNT換算1キロトン未満の強化原爆でも核融合燃料に点火できるようになった。
 水爆のプライマリーの威力の割合を小さくすれば、危険な放射性物質の割合も少なくなる。
 その後、水爆のプライマリーは系列化していった。つまり、まったく違う種類の核爆弾でもプライマリーを同じにし、セカンダリーの構造だけ変えることによって、さまざまな用途や威力に変えることができる。そして量産化しやすくなりコストを抑えられる。
 そんな水爆のプライマリーで1956年にSWAN(スワン)と呼ばれる形式が開発された。このSWAN(スワン)は特殊な構造をしていて最初は注目されなかったが、1980年代に最新のW88核弾頭に改良された形でプライマリーとして搭載される。
 現時点で分かっている最新鋭の水爆のプライマリーとなった。

①SWAN(スワン)の特色と構造
 構造は回転楕円体をしていて、両側から2点の信管を爆発させてコアを爆縮させ、臨界を起こす。一見すると核砲弾のリニア・インプロージョン方式とよく似ているが、細かな違いがある。
 それまでの爆縮レンズは、爆速が遅い爆薬をレンズとして使っていたが、エアレンズにして空気の衝撃波をレンズにして爆縮するように改良している。私の憶測だが、爆速の遅い爆薬だけでは爆発の方向を屈折する力が弱い(遅い爆薬でも5000m/sのスピードが出る)。速度差が大きいほどよく屈折し方向が変わるので、より遅い空気の衝撃波を活用したのだろう。多分、通常の空気では温度や湿度によって衝撃波のスピードが変わるので、変わりにくい気体(例えば希ガス類)が入っているのではないだろうか?
 また、プルトニウムコアが回転楕円体ではなく球形であり、その周りを球形の高性能爆薬がおおっていることである。この球形の高性能爆薬が均一に球形に爆縮することによって、リニア・インプロージョン方式の回転楕円体のコアを球形に成型するよりも、効率的な核反応を実現できている。SWAN(スワン)単体ではTNT換算15キロトン程度。
 リニア・インプロージョン方式の欠点だった、安全性に対しても改良されている。リニア・インプロージョン方式では、どちらか片方の信管が誤作動で点火すると、コアが超臨界になってしまう危険性があったが、SWAN(スワン)は片方の信管が爆発しても、コアが2分割され臨界が起こらない。

②W88核弾頭の特色と構造
 1980年代に完成したW88核弾頭は、それまであった弾道ミサイルの核弾頭よりもプライマリーを小さくセカンダリーを大きくでき、核出力をより高くし放射性物質を抑えることに成功した。
 一般的に弾道ミサイルの核弾頭は円錐形をしている。そのため先端部にプライマリーを入れることが出来ず底部に置いていた。必然的にセカンダリーは先端部になり、小さいスペースのため高い核融合による核出力が出なかった。
 W88核弾頭は、SWAN(スワン)の細長い回転楕円体のプライマリーすることで、先端部に置きことが出来た。そしてセカンダリーはスペースに余裕のある底部に置き、高い核融合による核出力を出せるようになった。

③なぜ、最新の水爆はひょうたん型をしているのか?
 W88核弾頭や北朝鮮で公開された水爆の模型がひょうたんの形をしているように、最新の水爆は円筒形ではなくひょうたんの形をしている。これについて私なりに考えてみた。
 1970年代に公開されたテラー・ウラム方式の前の水爆の想像図は、回転楕円体の形をしていた。
 これは、回転楕円体は2つの焦点で構成されているが、片方の焦点から光線を出すと、楕円状に反射してもう片方の焦点に収束するのである。恐らく当時の世間一般では、片方の焦点に原爆を置きそのX線の反射を収束させて核融合燃料に点火していたと考えたのだろう。
 この考えは、間違っていないのではないのだろうか。最新の水爆がひょうたん型なのは、プライマリーから発せられる強力なX線をセカンダリーに効率よく収束させるためだと思う。YAGレーザーや腎臓結石を衝撃波で破壊する装置も楕円を使って効率よくエネルギーを収束させているので、この原理を活用しているのではないかと思うかいかがだろうか?

本の紹介・・・各国の核兵器について種類と運用手段が載っている。2005年著作で少し古いが、一通りの原理については解説してある。