薄暗く、細い廊下を抜けるとLDKと襖が取っ払われた和室があった。

リビングにはソファに男性が、和室では布団にくるまって女性が眠っていた。
「○○さんですか…?」恐る恐る伺うと
女性は、起き上がるのさえ面倒なのか、目を瞑ったまま首を大きく横に振った。

「あれ?伺うはずの部屋を間違えてる?」
慌ててお部屋を飛び出し、玄関の表札をみると「403号室」の表記

そして手元のスマホでは「503号室」となっていることに気づく。
「しまった!この部屋じゃないっ!」

入室してしまったお部屋の方に申し訳ない気持ちと、通報されるんじゃないかという気持ちで、心臓の鼓動が速くなる。
焦りとともに、ふと冷静な自分が現れて

「どうしてチャイムを押した時に気づかなかったんだ。」と問いかける。

確かにおかしい…もしかして…と我に帰ろうとした瞬間。

 

目が覚めて、ベッドにいる自分に気づいた。
「夢だ…。」あまりにもリアルで、そしてそんな間違えて入室した経験はないからこそ

そんな夢を見たことに驚いて、しばらく放心状態になった。

 


「経験したことはない。」と言ったばかりだけど、懺悔しよう

今年に入ってお部屋を初めて間違えたことがあった。

いつも念入りにマンションに着いてから、該当のフロアに着いてからと

少なくとも2度は部屋番号を確認するのだけど、その日はマンションを間違えていた。

閑静な住宅街に隣接する2つのマンション。名前も「1号館、2号館」とかではなく

マンションのカタカナ名が3文字違うだけの非常に紛らわしい状態だったのだ。

当然、自分が伺うマンションの隣にそんな別のマンションがあるとは知らず

マップアプリ通りに辿り着いた先には、今回間違えることになる別のマンションがあった。

マンションやアパートは目的地設定しても、必ず玄関が目的地になっているわけではないので、近しいところまで到着したらマンション名を確認するようにしている。

ただその日は駅からも少し距離があり、到着したことでもう安心しきっており、マンション名の確認を怠っていた。

エレベータで上がった先のフロアは薄暗く、歴史を感じるつくりになっていたが
リノベーションした住まいに伺うつもりで来ていたこともあり、不安はなかった。

ただ部屋の前に到着して、唯一の違和感を感じる。

「苗字が違う・・・?」

でも事前にやりとりしていたのは奥様だったこともあり、ご主人の名前だからかと勝手に解釈してインターホンを鳴らした。

少し間があったが、インターホンからの声が聞こえる前に、目の前のドアが開いた。

「はぁい。」家主の声が耳に届くより先に視覚が反応した。

「違う、この部屋じゃないっ!」
勝手に間違えておきながら大変失礼な話だが、出てきたのは中年の男性で、ちらっと見えた奥の部屋は青白く光っており、闇に吸い込まれそうな感覚を受けた。(間違えたのは自分なのに…重ねてお詫び)
即座に「失礼しました、間違えました!」と頭を下げて、そそくさとエレベーターからエントランスまで戻る。

改めてマップを見て、ようやく隣とのマンションの間にピンが立っていることに気づいた。

ここでようやくマンション名を確認して、違っていたことにも気づく。

「やってしまった。」それまで感じていた不安が安心感に変わるとともに
恐怖は間違えてしまった方に申し訳ない気持ちへと変わっていった。
(見知らぬ男が急にドアの前に現れるなんて、男女関わらず怖いに違いない…。)
「おっちゃんごめん!」と心の中で謝罪をいれて、取材先へ。

 

もう間違えるはずはないと思いつつ、インターホンを鳴らす。

「はーい!」ドアから顔を出したのは確かに事前のオンライン顔合わせで見た方だった。
いつも通りのスタートなのに、いつも以上にホッとして、まるで我が家のような安心感に包まれた。
改めて自分の教訓に「マンション名と部屋番号は指差し確認!」を加えようと思う。
この(住まいもまた自分の)部屋じゃないわけだけど、少し落ち着いてからはじめようといつもよりゆっくり目で機材の入ったバッグを開いた。