数年前、地方で連続した撮影の終盤。
お父さんが席を外して、自分も機材の調整で少しだけ離れていた場所で
ふっと耳に流れ込んできたお母さんの一言に、はっと自分の身体が止まった。
「あたし、このソファ座りにくいのよね。」

お部屋のインテリアはお父さんが中心に考えられていて
リビングに置かれたそのソファは座り心地が良いと
お気に入りのインテリアとして挙げられていたものだったからだ。

ふと脳裏に浮かんだのが「魔女の宅急便」での有名なフレーズ。
「あたし、このパイきらいなのよね」
老婦人が想いを込めてつくり、決死の思い出運んだパイが
受け取りての女の子から感謝の言葉も無しに、冷たく扱われてしまう。

「子どもの頃はひどい!なんてやつだ!」と見る度に思っていたが
大人になってみると実に難しい。
自分が好きなものが、相手も好きだとは限らないし
良かれと思ったことが、必ずしも相手にとって良いとは限らない。
映画でのシーンの背景には
「感謝されるのが当たり前なんて思ってはいけない。」という
思いが込められているというインタビュー記事を目にしたことがある。

少し脱線してしまったが、お父さんには優れたデザインに触れることで
子どもたちにいつか繋がる良い影響を願っていたして、家族のことを思ってのインテリア選択だったことを添えておきたい。

とどのつまり、家族だって背景はそれぞれ違う個性の集まり。
違いの良さは受け入れ、尊重しつつ
お部屋という空間は家族みんなにとって良い空間であって欲しいと願いながらシャッターを切った。