天高く透明な群青

耳をつく蝉の狂奏

夏休みの学校

誰もいない昇降口

渡り廊下の先の異空間


熱気の籠るフロア

エアサロの匂い

キュキュッと鳴く床

いはばしる汗 荒ぶる呼吸

扉に触れた手から感じる蒼き混沌

最大出力の生命力の衝撃波


一個のボールを追いかけていた頃

結果なんてどうでも良かった

ワンプレーに全神経を研ぎ澄ます快感

できなかった事が容易くできる予感

ボールと自分だけの極小世界


立ち上がれないと思ってからのもう一歩

ボールが落ちるその先に伸ばす指先の先

届くかどうかは走った先の未来

思い出せ夏の残像



沸きあがる入道雲

忍び寄る夕立の足音

閉め忘れた窓

揺れるカーテン

離れの鉄扉の奥の異空間


活気が漲るフロア

床を蹴る音

ひたむきな眼差し

ほとばしる汗 荒ぶる鼓動

扉に触れた手から伝わる赤き情熱

最大熱量の息吹きのビッグバン


一球のプレーに集中していた頃

劣等感も恐怖も感じなかった

目にする景色がコマ送りになる感覚

次に起こるシーンが鮮やかに映る視覚

今この瞬間だけの平行世界


動く力が残っちゃなくても呼ぶもう一回

残された選択肢を凌駕する思考の先

費やし続けた時間の先のキセキ

思い出せ夏の残像



聳え立つ硝子の塔

地下に広がる反転都市

地上に瞬く人工の星々

かけ離れてしまった未来予想図


失って久しい情熱

朽ちた集中力

充実感のない日々

時に流され浪費する時間

明日から頑張ろうなんてありふれた決意

いつまで経っても来ない「明日」はいつ?


明日来週来年10年後

過去に縛られ、未来に怯える

足元の今を見失って呟く不平不満

衆人環視の中で立ちすくむ八方美人

自分が誰かも分からない娑婆世界


まだやれるはずなのに躊躇い続ける一生

何も生み出さない舌先だけの言い訳の先

口を吐く声はココロのエンジン音

甦れ夏の残像



立ち上がれないと思ってからのもう一歩

失ってしまった情熱と尽きた集中力

廃人の中の残滓を寄せ集めて

もう一度自分の核心に火を点せ


動く力が残っちゃなくても呼ぶもう一回

(しがらみ)と恐れを抱いたままの臆病者

ありったけの勇気の欠片をかき集めて

もう一度腹の底からの声を出せ


まだやれるはずなのに躊躇い続ける一生

心を奮い立たせる雄叫びを原動力に

這いつくばっているその泥沼から

もう一度自分の意思で立ち上がれ 


明日じゃない、今だ

限界はまだだ

全てを覆せ

思い出せ蒼き混沌

思い出せ赤き情熱

黄泉がえれ夏の残像


生きろ


赤ちゃんぴえん坪の石 文