「・・・では、以上で今週の定例会を終わります。」

「「「「「ありがとうございました。」」」」」



4月。新学期が始まって最初の木曜日。

この日は、惣一たちの学年が3年生に上がり、初めてのクラス委員会議の日。
クラス委員会議とは、
各クラスの委員長・副委員長が集まり、学年イベントの企画や、報告、反省等を行う会議のこと。

風丘のクラス、5組の委員長は宮倉 歩夢(みやくら あゆむ)で、
各クラスが前後期や学年が変わるごとに委員が変わることが多い中、また5組の副委員長は変わる中、
ただ一人1年の頃から5期連続で委員長を務める生徒だった。
派手にリーダーシップをとるわけではないが、性格は穏やかで真面目。
誰にでも分け隔て無く優しく接する彼は、クラスメイトからの信頼も厚い。
余りにも「委員長」が板につきすぎて、
クラスメイトからは(イヤミでなく)「委員長」と呼ばれている。


「あー、今日も定例会長かったー お疲れー 歩夢。」

「うん、お疲れ様。」

夕日も沈みかけている窓の外の景色を見ながら帰り支度をしていると、
4組委員長の木坂に話しかけられ、微笑んで返す歩夢。

「今日は今度の新入生歓迎会の企画と仕事分担があったからね。」

「なー。俺たち三年だもんなぁ・・・」

そんな会話の中に、3組委員長の原田も加わる。

「っていうかそれ。新入生歓迎会! 
めんどくさいよねー。絶対学活だけじゃ準備終わらないよ。
さっき各クラス分担決めたけど、分担っつったって元々の仕事量が多すぎてさ。
俺去年前期も委員長だったけど、二年生ほとんどコミットしてなかったじゃん。
もっと仕事振りすりゃいいのに。」

企画書を机にバンバンと軽くたたき付けながらハァと溜息をつく原田に、
歩夢は苦笑してたしなめる。

「まぁ、二年生は全員参加の合唱と有志のダンスがあるから。
どっちも春休み中にも練習してもらってるし、あまり無理は言えないんじゃない?」

「春休み中の合唱練習なんて、あって2回程度だし、ダンスは有志じゃん。
もー、終わったら生徒会に提案しようかな。」

ぶー、と文句を言う原田に、歩夢はそうだねぇと優しく返す。

「来年からもうちょっとバランス取ってもいいかもね。
でもとりあえず、俺たちの代は頑張ろうよ。」

「だよねぇ・・・今さら変えられないし。」

歩夢に励まされ、頑張るかぁとつぶやく原田に、木坂もそうだよなぁと同調するも、
でも・・・と原田の手にあった企画書を取り上げる。

「確かに仕事量多いよなぁ。
1組は学校の1年紹介のコーナー小道具も含めて全部担当、
2組学校組織紹介のコーナー同じく、
3組部活動紹介のコーナー同じく、
4組ゲームコーナー同じく更に当日の司会進行担当、
で、5組垂れ幕くす玉花アーチ他体育館の装飾全部・・・」

企画書の分担一覧を改めて読み上げて、ゲッソリする木坂と原田。

「どー考えたって本番までクラス全員、
毎日居残りしないと準備終わらないレベルでしょ。
放課後拘束するなんてこっちだって好きでやってるわけないのに、嫌な顔されるしさ。」

ハァとまた溜息をつく原田が、あ、でも・・・と思い立った様子で歩夢に言う。

「宮倉の5組が一番大変でしょ。
装飾全部って。アーチに使う紙の花だけでも200個は必要なんだよ?」

「え、そうかな?」

原田に言われるも、歩夢はピンと来ない様子で首をかしげる。
その様子を見て、そういえば・・・と木坂が言った。

「俺もこれが一番めんどくさいと思ったけど、
歩夢、分担決める時自分からこれに手挙げたよな。」

何でだよ?と聞かれ、歩夢は少し困ったように笑って言う。

「うちのクラス、企画を1から練り上げる、とかが得意な子があんまりいないんだよね。
だったら、やることがほとんど決まってるものを黙々とこなす方を担当した方が、
作業効率が良いと思って。」

「確かに・・・
装飾系はほぼ毎年同じ形式の物を作ってるから、企画する仕事はないけど
それにしたって・・・作らなきゃいけない物の物理的な量は圧倒的に多いぜ?」

木坂が企画書を捲り、装飾担当のマニュアルページを開いて指差すと、
歩夢はあー、と苦笑して答えた。

「まぁそこは・・・皆と協力して、放課後とか駆使して頑張るよ。」

「マジかよ・・・」

「もー居残りはしょうがないでしょ。
でも宮倉のクラス5人・・・いや、4人か。ハンデもあるよね。大変だー」

やっぱり残るのかぁ・・・とまだ乗り気でない木坂に、原田が諦めよう、と言葉を続ける。
その原田の最後の言葉が引っかかったのか、歩夢が尋ねた。

「ハンデ?」

すると、木坂がこともなげに言った。

「惣一たちのことだろ。
洲矢はまだしも、惣一・夜須斗・つばめ・・・あと転入生の・・・柳宮寺、だっけ?
その4人は学活の時間だって真面目にやるかあやしーだろ。」

木坂の言葉にうんうん、と原田が頷く。

「ましてや放課後とか絶対残んないでしょ。」

しかし、歩夢はこの意見にさらっと反論した。

「そんなことないよ。あいつらだってちゃんとやるって。
・・・まぁ、お願いしてやってもらうっていう感じにはなるだろうけど(苦笑)。」

そんな歩夢の反論に、原田がそうかなぁと返す。

「確かに、柳宮寺のことはよく知らないけど。
他の3人は先生たちから問題児扱いされてるわりには良い奴だけど、
でもこーいう学校行事は・・・ねぇ?」

原田に同意を求められ、木坂も頷く。

「まぁなぁ・・・あ、でも・・・」

木坂が思い出したように言った。

「そういや去年の後期の三年生を送る会の準備は、
1・2・3組と4・5組で2グループに分かれての分担だったけど・・・
あん時も2、3日放課後残って準備したけど、5人とも真面目に全部来てたような・・・」

「えっ うそ!?」

木坂と、それを聞いて信じられないという目の原田に見つめられた歩夢は
でしょ?と笑って答えた。

「むしろ、俺のクラスの奴らが何人かサボってたわ(汗)」

恐縮する木坂を、原田が援護する。

「っていうかそれが普通でしょ。放課後居残りの活動なんて。」

しかし、木坂はいや・・・と言った。

「・・・歩夢のクラスは全日全出席(汗)」

「え゛っ!? うっそぉ!?」

先ほどよりも大声をあげて歩夢を見る原田に、
歩夢は大地(原田の名前)声大きすぎ・・・と苦笑してたしなめる。

「そんなびっくりしなくても。」

でもよ、と木坂が継ぐ。

「小学校の時からの付き合いの惣一たちはまだしも、柳宮寺まで手懐けてるってことだろ? 
すげーなマジで。柳宮寺なんて、ぜってぇ俺らの言うこととか耳も貸さなそうなタイプじゃん。」

「そうだよねぇ。すごいよ宮倉。猛獣使い?(笑)」

木坂と原田の「手懐ける」「猛獣使い」の発言に、歩夢は苦笑してから、優しく笑って言った。

「2人ともあいつらのこと警戒し過ぎだよ。
惣一たちにしても、仁絵にしても、皆良い奴だよ。
まぁ他の皆よりはちょっと・・・やんちゃというか、手がかかるけどね(苦笑)
さぁ、暗くなっちゃう。帰ろうよ。」

さらっと言って荷物を持って立ち上がった歩夢の後を追って、木坂と原田も立ち上がる。

「いや、そのちょっとが俺たちにとってはちょっとじゃねぇんだって(汗)」

「さっすが5組委員長をずーっと続けてるだけあるね。
あのクラスで笑って委員長やってられるの宮倉だけじゃない?」

「皆大げさすぎだよー 俺がずっと委員長なのはたまたまだって。」

「でも宮倉、先生たちの評価も高いよー?」

「そうそう、うちの担任だって、その3送会の準備の時のお前の仕切り見て、
『さすが、手慣れてるなぁ宮倉は』って感心してたぜ?」

「もー、2人とも何? お世辞言ってくれても何にも出せないよー?」

「ほんとだってばー」

こうして3人は笑い合いながら、帰路についた。



そんな3人の後ろ姿を・・・

「何が・・・たまたまだ・・・」

睨み付ける一人の人物の存在があったことに、3人が気付くことはなかった。