《葉月編》





「もうやだぁっ こんなの覚えらんないっっ」





「こーら、海保。英語は単語の意味覚えなきゃ先へ進めないよ?」





海保は基本的に暗記が苦手だ。

じゃあ何で文系を選んだんだ、と言いたいところだが・・・

英語や古典は単語の意味を覚えられず、日本史は話にならない。

覚えることが少ない数学や、


その場で文章を読めばいいことが多い現代文は何とかなっていたが・・・





そしてその暗記系科目を一手に引き受けている葉月は頭を悩ませていた。

元々ほぼ0の状態から始めていたので、


基本的事項を教えるだけで比較的伸びてきていた点数も、

ある程度まで積み重なるとそう簡単に伸びなくなる。


英語や古典はいくら基本的文法事項が分かるようになっても、

単語の意味が分からなければ設問が読めないし、英語は英作もできない。

海保の場合、英語にしろ古典にしろ文法はなぜか得意らしく、正しくできているのだが、

単語ができないのでなかなか点数にその力が現れてこない。

日本史に至っては中学生でも聞いたことがあるような事項しかまだ覚えられていない・・・。





海保の暗記嫌いは、集中力のなさが大きな一因だ。


おまけに元来飽きっぽいので、暗記のような単純な反復作業を嫌がる。





仕方ない・・・

葉月は、強硬手段に出ることにした。





「海保。」





鉛筆を投げ出してしまった海保に、声をかける。





「何? 休憩!?」





「違うよ。(苦笑)」





「え~~~」





まだ始めてから30分も経っていないのに、


すでに飽きてしまっている海保に苦笑いしつつ、

葉月は単語帳を指し示してこう言った。





「今から10分。どんな方法でもいいから、単語帳の№30まで30個、覚えてごらん。」





「えぇ!? そんなこと言われたって・・・」





「いいから。ちゃんと覚えないと・・・後が大変だよ?(ニッコリ)」





「え゛っ?」





葉月のこれ以上ないニッコリ笑顔に、少し恐怖を感じた海保。

しかし、葉月はそれ以上何も言わず、またベッドに座って参考書を読み始めてしまった。

取り残された海保は、仕方なく言われた単語を見てみるが、


数個知っているのはあっても、半分以上知らない単語。

「集中力」なんて言葉と縁遠い海保は、すぐに飽きて上半身を机にべったりとつけて脱力。

だが、いつもならここで『ダメじゃない』とか何とかやんわり注意してくる葉月が、


今日は何にも言わない。

チラッと一度そちらを見たが、そのまま参考書に目を戻してしまう。





「はーくん・・・?」





「ん? あと5分ね。」





「あ・・・うん・・・」





何だか不信感を持ちつつ、海保はそのままぽけーっと単語帳を覚える気もなく眺め、


そのまま時間になった。





「さて・・・海保、ちょっとこっち来て。」





葉月はパタンと参考書を閉じると、海保を呼んだ。





「な、なに・・・?」





海保が恐る恐る近寄ると、葉月はその腕を掴んで海保を膝に乗せた。





「う゛ぇっ!? ちょ、ちょっとはーくんっ・・・俺、今日何もしてなっ・・・」





「うん、ちゃんと『覚えてれば』何もしないから大丈夫。」





「えっ?(汗)」





だんだん葉月がやろうとしていることが見えてきて、途端に焦り出す海保。

が、葉月はお構いなく開始してしまった。





「はい、じゃあ1問目。『difficult』の意味。」





「え・・・えと・・・『難しい』。」





「はい、正解。次ね。『発展途上国』を英語で。」





「え゛っ!? えと・・・んと・・・・・・・」





「10,9,8、・・・」





「やぁっ 待っ、待って・・・んと・・・えと・・・」





「2,1,0。 はい、残念。正解は『developing country』。」





「あっ、そうか・・・」





「はい、じゃあ・・・」





と、葉月がおもむろに海保のズボンに手をかける。





「ちょ、ちょっとはーくん・・・っ」





下着は残してくれたが、容赦なくズボンは下ろしてしまう。

そして、





「5回ね。いくよ。」





有無を言わさず、回数宣告。そして、





バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ





「い~~~っ!!」





容赦ない平手が振り下ろされた。


下着の上からとはいえ、痛いものは痛い。

海保が痛みにうめいていると、


葉月は何事もなかったかのように次の問題を出していた。





「次。『decide』の意味。」





「ちょ、ちょっと待っ・・・」





「10,9,8・・・」





「っっ・・・ん・・・『決意する』!」





「正解。次ね。『人権』を英語で。」





「えーっ、そんなのわかんなっ・・・」





「10,9,8・・・・・・・2,1,0。正解は『human right』。」





「あ、なんかそんなのあった気が・・・」





バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ





「ったぁぁぃっ!!」





「次・・・」

















そんなこんなで30個確認が終わった頃には・・・





「ふぇっ・・・いたぁぃっ・・・はーくんの鬼ぃっ・・・」





海保はベッドの上にうつぶせになり、


真っ赤なお尻に濡れタオルをのせて泣くはめになっていた。





「はいはい。だから言ったでしょ? 覚えないと後が大変だよって。」





「だからってこんなっ・・・」





「でも、いつもより覚える効率が良かったでしょう? 


特に、間違えてお尻ペンペンされた単語はしばらく忘れないね。」





「そうかもしれないけどっ・・・」





あの後、一通り確認し終わっても、それで終わりではなく、


間違えた単語だけで2週目に突入し、

全問正解するまで続けられ、3週目でやっと終わったのだ。

回数にして、70回叩かれた。下着の上からとはいえ、これは辛い。


まぁ、それで海保は必死になり、


結果的に普段と比べるとかなりのハイスピードで確認ができたわけだが。





「これから英単語と古文単語、それから日本史の用語確認はこの方法でやるからね。」





「えぇぇぇぇぇぇぇぇっ!? 


やだよ、毎日痛い思いしなきゃいけないじゃない!!!」





盛大に文句を言う海保。が・・・





「覚えればいい話でしょう? この英単語帳も、古文単語帳も、日本史の用語集も

もう1回さらってあるやつなんだから。」





「うっ・・・」





そう言われてしまえば言い返しようがない。

















結局、この『お仕置き付きテスト』は葉月の日の恒例テストになり、

そのたびに海保は半泣きorぼろ泣きになりながら


範囲を完璧に覚えさせられるはめになった。





・・・そして、そのおかげで海保の文系科目の成績は飛躍的に伸びたのだった。