「か~い~ほぉ~?」
「ア、アハハ・・・」
海保の目の前には目が笑ってない笑顔の葉月。
手には・・・冬休み前の2学期期末テストの成績表。
「この点数は何かなぁ~?」
「あ・・・うぅ・・・」
海保は黙り込んでしまう。
申し開きのしようのない点数ばかりが並んでいるのだ。何も言えない。
「もう・・・最近模試の点数も上がってきて、C判定にまでなってきたのに・・・
学校の定期テストサボられちゃねぇ・・・」
別に海保は推薦をとるわけではないのでそこまで成績は関係ないのだが、
あまりに悪くて赤点を取られたり呼び出しをくらったら時間をとられて面倒なのだ。
「うぅ・・・ お願い、もりりんには・・・」
お願い攻撃を仕掛ける海保だが、葉月はぴしゃりと撥ね付けた。
「言うよ。隠しててもどうせばれるでしょう?」
「むぅ~・・・はーくん、あの日からもりりんみたいに冷たくなったぁっ」
「むくれたってダメ。ほら、行くよ。」
葉月が海保の腕を取って、歩き出す。
行く先は・・・もちろん海保の家。
時間に律儀な森都は、きっともう海保の家に向かってる。
「あの日から」。
「あの日」とは、
葉月が森都に言われ海保をお仕置きした
(その後葉月も森都にされたのは海保には内緒)日のこと。
その日以来、葉月も海保に対して、容赦がなくなった。
それでも森都に言わせれば優しい方らしいのだが、
少なくとも海保の甘えたお願い攻撃は効かなくなった。
「・・・で? 何ですか、これ・・・。」
「うぅ・・・」
冷たい森都の目に射貫かれ、海保は体をちぢこませる。
「全く・・・ようやく少しはましな成績取るようになったと思ってたらこれですからね・・・」
「ごめん・・・」
「ふぅ・・・」
森都はため息をつくと、言った。
「とにかく、今週はこのテストで間違えた問題をやります。
それから、冬休みは大晦日と元日以外は毎日補習。
僕と葉月が交代で見ます。」
「ええええええええっ!?!?」
「こんな成績取ってくるから悪いんです。」
「うぅ・・・テストのお仕置きも・・・するの・・・?」
昔流行ったCMの子犬のような目で森都を見つめる海保。
そんな海保に森都はまたため息をつきつつ、
「・・・冬休み中の態度によりますね。
それまで保留にしてあげます。あくまで『保留』ですからね。」
と言った。
すると海保は
「ほんとぉ!? 良かったぁ!!」
と笑顔。
「海保、調子に乗ってると危ないよ?」
葉月に苦笑して注意されながら。
しかし、元来勉強嫌いの海保が、
休み中ずっと補習なんてマジメに耐え抜けるはずがなかった・・・。
《森都編》
「ほら、海保。始めますよ。」
「うぅ・・・そんなきっかり5分前行動しなくてもぉ・・・」
冬休みに入って3日の12月26日。
世間は昨日までのクリスマスムードが嘘のように、
今度は年末に向けてまっしぐらなこの時期。
日替わり家庭教師、今日は森都の日だった。
勉強開始時刻は朝10時から。
センター試験を控えた受験生にしてみれば普通なのだが、
勉強嫌いの海保にしてみれば午前中から机に向かうこと自体が希有なことだ。
そして、森都はいつも必ず5分前の9時55分に現れる。
「ほら、やることはたくさんあるんですから。
とっととやらないと・・・」
「やーっ!! やるやるっやりますうっ」
手に息を吹きかける仕草をする森都を見て、海保は慌てて部屋にとんでいく。
・・・が、森都が苦笑しながら海保の後を追って部屋に入ると、
椅子に座らず、呆然と立ちつくしている海保の後ろ姿が見えた。
「海保? どうかしました?」
「な、ななな、何でもないよっ あ、えとっ・・・そのっ・・・」
森都が声をかけると、海保は慌てて取り繕う。
・・・が、これで、もう森都にはお見通しだった。
「ハァ・・・海保。膝にいらっしゃい。」
「な、なんで!! 何にもないってばぁ・・・」
腕をつかまれ、半泣きになって声を上げる海保。
しかし、森都には通用しない。
「なら、宿題見せてみなさい。」
すると、わかりやすく海保が顔をゆがめた。
必死で反論する。
「うっ・・・・・・・・・・わ、忘れちゃったんだよっ ついっ・・・
わざとじゃなくてぇっ・・・」
が、こんな言い訳で許してもらえるはずもなく。
「やってないなら一緒です。次から絶対忘れないようにしてあげますよ。」
「やーっ、いいですいいです、もう忘れないからぁっ」
抵抗むなしく、膝に乗せられる海保。
ズボンも下着もおろされて、腰を押さえられれば、もう逃げ場はない。
「忘れた分と、隠そうとした分で20発。
かばったりしたら追加しますからね。」
バシィィィンッ
「いったぁぁぁぃっ」
1発目から大きな悲鳴をあげる海保。
しかし、森都はもう慣れたもので怯むことなくお仕置きを続ける。
バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ
「ああんっ・・・いたいぃぃっ・・・もりりん~~っ・・・」
「泣いてもダメです。20発終わるまで放しませんよ。」
バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ
「ひぁんっ・・・やぁぁっ・・・もう忘れないからぁっ・・・」
「本当にね。ならしっかり反省してください。」
バシィィンッ バシィィンッ バシィィンッ
「ぇぇふぇっ・・・もうしたからぁっ もういいよぉっ・・・」
「あと7発です。」
しれっと答える森都に、海保は高3にはとても思えないぐらいに泣きじゃくる。
バシィィンッ バシィィンッ
「いたいぃっ・・・ やぁぁ・・・」
バシィィンッ バシィィンッ
「やぁっ・・・ぅぇぇっ・・・」
「最後。3発です。」
そして、森都がそう宣告した後。
とびきり痛い3発が、海保のすでに赤くなったお尻に降ってきた。
バッシィィンッ バッシィィンッ バッシィィィィィンッ
「いたぁぁぁ~~~~ぃぃっ!!!(涙)(涙)(涙)」
海保の体が3回跳ねたその後、海保は火がついたように泣き出した。
森都は苦笑しながら、大泣きの海保に聞く。
「それで? 反省したらなんて言うんですか?」
「ふぇぇっ・・・えぇっ・・・」
しかし、甘えているのか何なのか、
海保は泣いてベッドにしがみついているだけで、何も言わない。
森都はため息をつくと、
「・・・言えないなら、言えるようになるまでここを抓ってましょうか?」
そう言って、赤く腫れた海保のお尻を軽くつつく。
すると、海保は弾かれたように慌てて大声で叫んだ。
「ごめんなさぃぃっ」
「ふぅ・・・はい、いいですよ。タオル持ってきてあげますから、膝からどいてください。」
「・・・・・・」
「ちょっと。海保?」
いくら声をかけてもひしっと膝から動こうとしない海保に、森都が訝しげに声をかける。
「どいてください。動けないじゃないですか。」
「・・・む~・・・もりりん、俺がこんなに泣いたのに放ってくのぉ・・・」
「あのですねぇ・・・
その泣いた貴方の手当をするために私は動きたいんですが。」
およそ高校生が言うと思えないようなことを言われ、
森都は頭に手をやってため息をつきながら言う。
が、海保も負けない。
「慰めてよぉ・・・」
「いったいいくつですか、貴方は・・・」
「んっ・・・」
森都は呆れながらも、ポンポンッと優しく海保の頭を叩いて、撫でる。
「ほら、すぐ戻ってきますからとりあえずどいてください。
それとも・・・『もっと叩いてください』っていう合図ですか?」
「やっ・・・」
それを聞いたとたん、海保が森都の膝から飛び降りる。
そんな海保を見てクスッと笑う森都に、海保が頬をふくらませる。
「もりりんのドS! 意地悪っ・・・」
「はいはい、好きなだけ言ってください。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・クスッ ちゃんと覚えておきますから。」
「え」
最後に少し声を低くして言ってやると、
ピキッという音が聞こえるかというぐらい見事に海保が固まる。
その様子を横目で見つつ部屋を出た森都は
(まったく、手のかかる大きい赤ちゃんですね・・・)
と台所に向かいつつ苦笑しながらそう思ったのだった。