「も、森都・・・」
とりあえず、葉月が場を取り繕おうと口を開く。
海保は、ベッドでうつむいてしまって話どころではない。
「あ、いや、別に内緒話とかそんなんじゃなくて・・・」
「それにしてはずいぶん楽しそうだったじゃないですか。
話に花が咲いていたようだったので、
なかなか部屋に入れなくて、立ち往生しちゃいましたよ。」
冷ややかに言う森都。
「・・・っ・・・いつから?(汗)」
「海保は英語の授業がつまらないそうで。」
それを聞いた瞬間、葉月はめまいを感じた。
「(終わった・・・)・・・ごめん・・・森都・・・」
こうなれば、謝るしかない。
森都は怒らせると、葉月にとっては仲間内で一番怖いのだ。
「全く・・・葉月まで何してるんですか。それに海保。」
呆れかえった様子の森都に名前を呼ばれ、
ビクゥゥッとわかりやすく体を震えさせる海保。
「お仕置きが嫌だ、なんて・・・
そんなこと言うなら授業ちゃんと受けなさい!
だいたい、葉月に話した時点で
僕じゃなくて葉月に叱られることは考えなかったんですか?」
「だって・・・はーくんは・・・お説教はする、けど・・・お仕置きまではしないって・・」
実際、葉月が海保やら魅雪やら、仲間内のお仕置きをしていたのは
ほとんど中学時代までで、
高校生になってからはお説教はあってもお仕置きは滅多に登場しなくなった。
だからこそ、葉月もこの受験勉強でいきなり森都が
日常的に『お仕置き』をすることを復活させたのに当初は驚き、戸惑ったのだ。
「・・・ほら、葉月。なめられてるじゃないですか。いつも甘やかすからですよ。」
「・・・おっしゃるとおりです・・・。(-_-;)」
返す言葉ない葉月。
そんな2人のやりとりを見て、海保が声をあげる。
「べ、別に僕はーくんなめてなんか・・・っ」
「でも僕にばれるとお仕置きされて、葉月だったらされないって思ったんでしょう?
僕より葉月の方が甘いだろうと考えてる証拠です。」
「うっ・・・そ、それは・・・」
反論の余地のない海保が黙り込むと、森都はため息をついて言った。
「全く・・・仕方がないですね。
葉月、仕上げは僕がやるとして・・・海保のお仕置き、まずはあなたがしてください。」
「・・・はい?」
「え・・・・」
まさかの森都の言葉に言葉を失う2人。
「あの・・・今なんて?」
「だから、海保のお仕置き、最初は葉月にお任せします、と言ったんです。
これまでだってやっていたんですから、別に問題はないでしょう?」
「いや、問題あるんじゃないかな・・・(汗)」
「いつも僕が嫌われ役をやってるんですから、たまには葉月も協力してください。」
「・・・・・・・・。ハァ・・・分かったよ・・・。」
「!!」
有無を言わさない森都の口調に、葉月が渋々承諾し、決意を固める。
すると、海保の顔色がサッと変わった。
「ちょ、ちょっと待って、はーくん・・・っ」
「海保が悪かったのは事実だからね。
あんまりしたくないけど・・・ 仕方がないよ。はい、おいで。」
葉月はそう言うと、ベッドに座っていた海保の隣に自分も腰掛け、膝を叩いた。
「え・・・膝の上・・・」
「道具は使わないしね。ほら、おいで。」
「うぅっ・・・」
いくら海保が他の4人と比べて子供っぽく精神年齢が低いといっても、
高校生になって同級生の膝の上に横たわってお尻を叩かれるなんて、
普通には受け入れられないこと。
海保は葉月の膝と目をかわるがわるに見つめる。
「・・・そんな目しても、今日は折れてあげられないよ。
ほら、早くしないと無理矢理やるよ?」
普段は海保の甘え&許してオーラに弱い葉月だが、
一度やると決めてしまえばその決心が揺らぐことはない。
海保の潤んだ瞳と目があっても、いつものように狼狽えたりはしなかった。
渋っていたとは思えない変わり身の早さだ。
「・・・うぅっ・・・分かったよぉ・・・」
海保が泣きそうになりながら葉月の膝の上に乗った。
すると、葉月は慣れた手つきでズボンと下着に手をかける。
「えっ!? はーくんっ・・・」
森都はいつも服の上だったから、突然のことに焦る海保。
「何? 悪い子のお仕置きはこうでしょ?」
「そ、そうかもしれないけどっ・・・今俺高校・・・」
「高校生がノートに落書きして授業放棄したり、
授業中に漫画読んだりしていいの?」
「それはっ・・・・・・ダメ・・・?」
「でしょ?」
葉月は涼しい顔ですべて下ろしてしまうと、早々と一発目を振り下ろした。
バシィィンッ
「いったぁぁぃっ」
やっぱり直に受ける痛みは違う・・・と海保はもう泣きそうになった。
平手でも、服の上からの定規と同レベル・・・いや、それ以上の痛みを感じる。
バシィィンッ バシィンッ バシィィンッ バシィィンッ
「やぁっ・・・いたぁぃっ・・・はーくんぅんっ・・・やぁぁっ・・・」
「海保、何をしたからお仕置きされてるの?」
バシィンッ バシィンッ バシィンッ
「やぁっ・・・英語のじゅぎょ・・・っ・・・聞いてなっ・・・」
バシィィィンッ
「あぁぁぁんっ!!」
早々に泣き出した。お仕置きが痛いのと、
今までずっと優しかった葉月のお仕置きが予想以上に厳しくて怖いのだった。
「授業聞かないで何してたの?」
バシィンッ バシィンッ バシィンッ
「いたぁぃぃぃっ・・・・・ね、寝て・・・」
バッシィィンッ
「うぇぇぇんっ・・・いたぁぃぃっ・・・」
「授業中に寝ちゃったら授業休んだのと同じでしょ?
いくら俺たちが教えてあげても、授業聞いてなかったら意味無いんだよ。」
バシィィンッ
「うぇぇぇっ・・・」
「それから?」
「漫画と・・・落書きっ・・・」
バシィィィンッ バシィィィンッ
「ふぇぇぇぇっ・・・」
「そんな小学生みたいなことしないの。
授業わかんなくなっちゃって困るのは誰?」
バシィィィンッ
「ふぁぁんっ・・・俺ぇっ」
「でしょ? だから、もうしないんだよ? 分かった?」
バシィィィンッ
「ふぇぇぇぇんっ! 分かった、分かったからぁぁっ」
だからもう許して、と膝から逃げようとする海保を、葉月はがっしりと押さえ込む。
「こら、まだダメ。
それから小テスト。ちゃんと範囲聞いて、今度から俺に言うこと。
そこをポイントに教えてあげるから。分かった?」
バシィィィンッ
「あぁぁっ・・・わかったぁぁっ」
「はい、じゃあごめんなさいは?」
バシィィィンッ
「やぁぁぁっ・・・ごめんなさぃぃっ!!」
「はい、よくできました。(ニッコリ)」
海保が謝罪の言葉を言うと、葉月は海保を抱き起こし、ニッコリ笑った。
・・・が、しかし。
「はい、じゃあ葉月、交代してください。」
「え・・・?・・・・あ。」
一瞬の間をおいて、葉月は思い出した。
森都は言っていた。「仕上げは僕がやる」と。
「まぁ、英語の授業に関してのお仕置きは葉月がしましたから、
僕に隠そうとした分だけ僕がやります。」
「えっ・・・やぁっ・・・俺、もう無理ぃっ(>_<)」
また葉月にしがみついてしまう海保。
「無理でも我慢するんです。葉月、海保をこちらに。」
「えっ・・・でも・・・」
海保のお尻は言うまでもなく真っ赤だ。
・・・自分がしたのだが、これをさらに叩かれる海保のことを思うと、
なかなかしがみついている海保を引きはがせない。
すると、
「葉月。」
「っ・・・」
ギロリと森都に睨まれる。
「何度も言ってるはずです。貴方は海保に甘すぎます。」
「・・・・・・」
今回、自分も怒られる側の立場にある。そうずっと逆らうことはできない・・・。
葉月は諦めて、海保の肩に手を置いて、自分から離した。
「やぁ・・・はーくんっっ」
「もうちょっとの我慢だから。ね?」
葉月はそう言い聞かせ、森都に海保を引き渡した。
森都はあっさりと海保を膝に引き倒す。
「いつもは定規ですが、今日は特別に平手にしてあげます。
ごまかそうとした分、10発。いきますよ。」
そう言って、手を振り上げるやいなや
ピシィンッ ピシィンッ ピシィンッ ピシィンッ ピシィンッ
ピシィンッ ピシィンッ ピシィンッ ピシィンッ ピシィィンッ
「ふぇぇぇぇぇぇぇんっ!!」
スナップのきいた、鋭い音の平手が10発、
すべて同じ、海保のお尻の右側の真ん中に集中して振り下ろされた。
「・・・はい、終わりです。」
森都はそう言うと、海保を自分の膝から下ろし、そのままベッドにうつぶせに寝かせた。
海保はと言えば、痛い、痛いと泣きじゃくっている。
葉月は台所でタオルを冷やして持ってきた。
・・・いつものことだが、今回はあまりにも痛そうだ。
「全く・・・今日は勉強やめてあげますから、これからはちゃんとやってくださいね?」
森都が柔らかくなった声で海保に言う。
「うん・・・」
海保はお尻にタオルをのせられ、泣きやんで落ち着くと、トロンとした声で返事をする。
「・・・眠そうだね。泣き疲れ?」
「わかんない・・・でも・・・ふわぁぁっ・・・」
「それじゃあ、このまま眠るといいですよ。今日はもう僕たちは帰りますから。」
「うん・・・わかったぁ・・・」
森都はお尻を出したままの海保の体に毛布を掛けると、
「それじゃあ、お暇しますね。」
「またね、海保。」
葉月と一緒に海保の家を後にした。
・・・が、これで終わるはずがないことを、葉月は予測していた。
そして案の定・・・
「葉月。」
「・・・はい?(汗)」
帰りの道中、おもむろに葉月を呼ぶ森都。そして・・・
「そんなこんなで予定も空きましたし・・・
ちょっとお話ししたいので家に寄ってくれませんか?」
「・・・(^_^;)」
・・・拒否権はなさそうだ。