そして、2人が家庭教師をはじめて2ヶ月。

10月末に行われる秋の模試まで1ヶ月をきった。


海保は、徐々に小テスト等で結果を残せるようになってきていた。
苦手だった数学も、森都のスパルタ指導のおかげで

なんとか平均点周辺をキープできるようになってきている。
文系科目は、葉月が教えていて海保にやる気があるのもあって、

特に社会科目はクラスの3分の1以上にまで躍進した。


・・・しかしそんな中、全く伸びない教科があった。英語である。
英語は、数学ほど悪いわけではなかったのに、

今では小テストの結果だけ見ると大差なくなってしまっている。


「う~~ん・・・俺の教え方が悪いのかな?(苦笑)」


と、海保に英語を教えている葉月は、

右上に大きく『4』と書かれた10点満点の小テスト答案を見て、苦笑いする。
もう少し取ってほしいのだが・・・。


「まさか。葉月はちゃんとやってますよ。」


「でもこの結果じゃあねぇ・・・」


「まぁ、海保も英語に関しては・・・

葉月が教えていますし、全くやってないわけではないんですから、
もう少しすればのびてくるでしょう。模試の結果次第ですね。」


森都はそう言うと、

「ちょっと委員会に顔を出さないといけないので」と先に教室を出て行った。






「これは・・・まずいよね。聞いてみるか。」


葉月は1人になると、

職員室に行き、海保の英語を受け持っている英語科教師に会いに行った。
小テストのことと、海保の様子を聞くためだ。

・・・すると、ある事実が発覚した。






「え? 波江君が小テストあまりできない理由?

・・・授業聞いてないからじゃないかしら。
私、小テストは授業内容と関係なく、

クラス配布してるテキストの範囲から出すんだけど、
その範囲の提示は授業中に口頭だから・・・。」


「授業・・・聞いてないんですか? 海保。」


「聞いてないも何も・・・見て。」


「・・・・・・・・・・・・・これ・・・なんですか?(汗)」


葉月は、目の前にドサッと出された漫画本やら漫画雑誌やらの山を見て顔を引きつらせる。


「ここ1ヶ月で波江君から没収した漫画類よ。
あの子、私の授業になるといつもきまって寝るか漫画読んでるかノートに落書きしてるか・・・
私の授業、嫌いみたいで(苦笑)。
そういえば、風丘君たちが波江君に勉強教えてあげてるんだったわね。

もっと早くに相談すれば良かったかしら・・・。
私、風丘君や霧山君のクラスは担当してないから、なかなか言う機会がなくて。
聞きに来てくれて良かったわ。」


英語教師は、少し苦笑い。


「すみません・・・海保にはちゃんと言っておきます。」


「風丘君が英語は教えてあげてるの?」


「はい・・・。ただ、共通の教科書やワークしか教えてなくて、

クラスによって違うテキストまでは把握できてなくて・・・」


「仕方ないわ、風丘君も受験生だもの。
でも・・・小テスト対策については、

波江君からクラスのテキストを見せてもらって、それを教えてあげてくれる? 

範囲は授業中に言うから、それをちゃんと聞くように、って言って。」


「はい、すみません。ありがとうございます。」


葉月は礼を言うと、職員室を出た。






「クラス別のテキスト、しかも授業とは関係ない範囲で・・・か。」


迂闊だった。
小テストの問題が授業とリンクしていたりしていなかったりまちまちだったので、
てっきり範囲は細かく提示されていないのだと思っていたら・・・。
クラス別に配布されているテキストの存在を忘れていた。


「それに・・・あの漫画(苦笑)。」


授業をほとんど聞いてないとなれば、注意しないわけにもいかない。

今日は火曜日、自分が担当の曜日だ。
火曜はいつも森都は遅れて後から来るから、森都が来る前に言っておこう、

そう思って、葉月は海保の家に向かった。






ピンポーン


「おじゃましま~~す」


「は~~~いっ」


海保の両親は駅前でパン屋をやっていて、この時間帯、家に海保は1人。
奥から、海保の元気な返事がした。


「いらっしゃい、はーくんっ」


「うん。海保。あのね・・・」


葉月が口を開くと、海保が思い出したようにハッとした顔になり、しゅんとして言う。


「あっ・・・小テスト・・・ごめんね・・・」


そんな海保に、葉月は優しい声で言う。


「いつも言ってるでしょう? 

別にテストの点が良くなかったことについて、俺に謝る必要はないって。
それより・・・別の話があるんだ。

それとも関係あるんだけど・・・部屋に行こう?」


「えっ・・・うん・・・。」


てっきりテストのことだと思っていた海保は、ポカンとした顔をしながら部屋に向かった。






部屋に入ると、海保がストンとベッドに座り、葉月もその横に座る。


「話ってなーに?」


海保が首をかしげて聞いてくる。

葉月は、徐に用件を切り出した。


「海保・・・英語の授業、聞いてないんだって?」


「えっ・・・(汗)」


そのとたん、海保の表情に焦りがあらわれる。完全に自覚有りの表情。


「今日ね、海保のクラス担当の英語の先生と話して・・・その時に聞いたんだよ。
授業中、寝るか漫画読むか落書きしてるか・・・
小テストも、授業中に口頭で範囲を言ってるから、

聞いてなくて、知らないんじゃないかって言われたよ?」


「えっ・・・あっ・・・うぅっ・・・ちがっ・・・」


言い訳しようと試みる海保だが、葉月に目をじーっと見つめられて、どもってしまう。
そして・・・


「・・・ごめんなさいぃっ!! 

だって・・・英語の先生の授業つまんないんだもんっ・・・」


「じゃあ・・・やっぱりほんとなんだ?」


教師によっては、たまにうつらうつらしているのを居眠りだといったり、

過剰に反応する人もいるので、
一応確認を取らなければ、と思っていたのだが、

この様子では英語教師の言ったとおりらしい。


「うん・・・つまんないから寝ちゃったり・・・

机の中で漫画読んだり・・・テスト用紙の裏とかノートに落書き・・・」


「つまんないからって授業放棄みたいなことしちゃだめでしょう? 

漫画もあんなに没収されて・・・
小学生じゃないんだから、落書きとかもしないの(苦笑)」


「ごめん・・・これからはちゃんと聞くようにする・・・あと小テストも頑張るっ・・・だから・・・」


「? 海保?」


拳をぎゅっと握ってちょっと震えて俯く海保に、どうしたのかと葉月が顔をのぞき込むと、

海保は涙目で葉月にすがってきた。


「だからお願いっっっっっ
もりりんには言わないでぇぇっ!!」


「へぇっ!?」


突然の海保のお願いに、葉月は目を丸くする。


「まだもりりん知らないんだよね!? だったら言わないで!! 

ばれたら俺お仕置きされちゃうよ!
はーくんっ お願いっっっ」


「そ、そう言われても・・・」


目をうるうるさせて懇願する海保に、葉月がたじろぐ。
葉月は海保の頼みに弱い。


「これから頑張るからっ お願い、もりりんには内緒にしてっっっ(>_<)
この前みたいにお説教だけじゃすまないよぉ(T_T)」


実は、前に一度生物の担当教師が森都に海保の居眠りを報告し、

そのことで海保はさんざんお説教されていた。
その現場に葉月もいたから知っている。

あのときは、1度の居眠りだけだったのだ。
しかし、今回はずーっと前からの授業態度の悪さ。

森都に言えば・・・海保の言うとおりになるのは目に見えている。


「でも隠しても・・・」


「おーねーがーいぃぃぃっ(ノ◇≦。) 」


ためらう葉月に、海保が必死にお願い、お願いとすがる。

そしてついに葉月が負けた。


「うっ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁ・・・もう・・・しょうがないなぁ・・・・」


「はー・・・くん・・・?」


海保が葉月の顔を不安げにのぞき込む。


「今回だけだよ? その代わり、これから英語はビシバシやるからね?」


「はーくん~~~っヾ(〃^∇^)ノ」


海保が飛び跳ねて喜んでいる。
その様子を見て、葉月は失敗したかな、と少し苦笑い。


「あぁ・・もう・・・」


「言わない? 言わないで内緒にしてくれる?」


しかし、うれしそうに笑顔で聞いてくる海保を見ると、

今更撤回するわけにもいかず、

葉月が


「分かった分かった、言わないよ。ないし・・・」


答えようとしたその時。


「2人で何を内緒話してるんです?」


「∑(゚□゚*川!」

「ヤバ・・・」


・・・・・・・絶妙(最悪?)のタイミングだった。