「ひなたっ ひなた、
いい加減下ろして、もう一人で立てるからっ・・・っていうかどこ行くんだよっ」
麗翔をお姫様抱っこしたまま、陽汰は歩き続けている。
麗翔はお前までそんなことするのか、とか
誰かに見られたらとかと気が気じゃないが、陽汰はそんなのお構いなしだ。
「屋上。」
「屋上・・・? そんなとこ行って何する・・・」
「人のいないとこで話したくて。・・・さっきのこと。」
「う・・・」
それを言われてしまうと何も反論できなくて、麗翔は黙って連れていかれるしかなかった。
「・・・着いた。」
「あぁ・・・ってうわっ ちょっ、ひなた!!」
屋上に繋がるドアを開けて、ようやく陽汰は麗翔を下ろした・・・が、
それもつかの間、下ろした麗翔を再び背後から抱きしめる。
「ねぇ・・・何で黙ってたの。役員のこと。」
「っ・・・だっ・・・だって・・・」
耳元で囁かれる声に、麗翔はビクッとした。
「・・・なんで??」
「言ったら・・・余計な心配かけるだろ・・・巻き込みたくなかったし・・・
さっきので分かったと思うけど、あいつらろくな奴らじゃないし・・・」
胸がドキドキと高鳴るのを感じながら、麗翔は言葉を紡ぐ。
「そう。ろくな奴じゃない。特にセンパイは。だから・・・」
「あっ・・・ちょっ!」
ダンッ
陽汰は麗翔を壁際まで追いやり、両手を麗翔の顔の横につけて縫い止める。
「そんな奴らばっかりのところに、黙って一人で乗り込むとか、
そんな危ないことしちゃったレイちゃんを俺は許せない。」
「ごめっ・・・」
「しかもキスまでされちゃうとかさ。」
「あ、あれは無理矢理っ・・・」
「当然。自分からしてたら、俺こんな冷静に優しくしてあげてないよ。」
陽汰の瞳に一瞬宿る鋭い光に、麗翔はビクッとして慌てて謝罪の言葉を口にする。
「ごめんって・・・」
「ダーメ。許さない。」
「んっ・・・」
再び深く施される口付け。逃げようともがいても、すぐに追ってきて塞がれる。
酸素が足りなくて、意識が朦朧とした頃にようやく解放されるも・・・
「俺の気が済むまで消毒させてもらうから。」
「あっ・・・ちょっ・・・んっ・・・」
間髪入れずにまた口を塞がれ、
麗翔は唇が腫れ上がるんじゃないんかと思われるくらい
何回も、何回も陽汰の口付けを受けたのだった。
「ハァハァ・・・・」
「んー、まぁ、こんくらいかなぁ・・・」
「ひなた・・・もう許して・・・」
数え切れないくらいの深い口付けに、もうぐったりの麗翔が陽汰に懇願する。
そんな麗翔に陽汰はにっこりと笑いかけた。
「じゃあごめんなさいは?」
「・・・ごめん・・・なさい・・・」
「ん。いいよ。許してあげる。」
素直に謝った麗翔に、陽汰は微笑んで麗翔の髪を撫でた。
ようやく許された安堵感に、麗翔は脱力して座り込む。
そしてしばらくして落ち着くと、麗翔は疑問に思っていたことを口にした。
「はぁ・・・それにしても陽汰、帝王と知り合いだったのか?
なんか・・・雰囲気がさ。」
「帝王・・・? あー、颯夜センパイ・・・」
隣に座っていた陽汰は少し渋い顔をした。
「あの人・・・バスケ部のOBだから。俺の直属のセンパイ・・・みたいな?
まー、いろいろあってね。」
少し歯切れ悪い陽汰の答え。
しかし、これ以上踏み込んで欲しくないという陽汰のメッセージを感じ取って、
麗翔も追求しなかった。
(まぁ、あんなんじゃ後輩から恨み買ってても不思議じゃないしな・・・)
「まぁ何にせよ・・・センパイにレイのこと渡したりしないから。
役員はもう止められないだろうけど・・・ それだけは絶対譲らない。」
「・・・あぁ。私は陽汰以外の誰のモノにもならないよ。」
また抱きしめてくる嫉妬深く心配性な陽汰に苦笑しながら答えつつ、
麗翔は内心
(お尻叩かれたことバレたら・・・って考えたくもないな・・・)
とまだ残る隠し事に冷や汗をかくのだった。
そして翌日。
今日は朝から連絡が入ることもなく、暢気に昼休みを過ごしていた麗翔だったが・・・
「ちょっとレイ!!
何でこんな大事なこと私に黙ってたのよ、予想的中じゃない!!」
「・・・は?」
すごい剣幕の百合乃に腕を引っ張られ、連れて行かれたはおなじみ掲示板前。
そこには・・・
「は・・・はぁぁぁぁぁぁっ!?」
同時間。男子高等部掲示板前。
「ひなた、お前こんなんやるの?」
「部活もあんのに・・・大変だなー・・・」
「あ、でも園宮さんもやってんだっけ?」
周りで騒ぐ友人の声は、陽汰には聞こえていなかった。
「・・・やってくれんじゃん・・・」
『3年1組 遥瀬 陽汰
上記の者を 本日付で 聖空学園学生自治会役員補佐 に任命する
聖空学園大学 学生自治会 』