放課後。


結局、陽汰との待ち合わせも無下には出来ず、麗翔は先に陽汰との待ち合わせに急いだ。

早いところ説明して、その後四天王の方に行こう・・・


まぁ、そんな考えは甘すぎるものだったと、この後早々に気付かされるのだが。


「ひ、陽汰・・・」


ホームルーム後、相当急いだにも関わらず、既に陽汰は待ち合わせ場所に来ていた。
その後、目立ってしまうから、と人影のない建物裏に移動する。


「・・・で?」


移動後、開口一番ニッコリ笑顔でそう問われれば、答えないわけにはいかなかった。


「・・・ごめんっ 実は・・・」


麗翔は勢いよく頭を下げると、これまでのいきさつをかいつまんで説明した。
(もちろん、キスとお仕置きのことは省いた。)
四天王の横を無視して横切ったら目をつけられたこと、
結果『自治会役員補佐』とかいうよくわからない役職を作られたこと、
それを有無を言わさず押しつけられたこと、
今日はその呼び出しがあって、それで一緒に帰れないこと・・・。


「だから今日は・・・ごめんっ」


ここまで話せば、納得してもらえる。
麗翔はそう考えていた。
というのも、百合乃曰く、

四天王の恐ろしさは異性であり彼らを憧れの対象として見ている者の多い女子部より、
かつて彼らが実際に在籍していた男子部での方がその威力が発揮される、とのことらしく、
陽汰だってこれを聞けば・・・そう考えていたのだった。
が、しかし、事態は思わぬ方向に発展した。


「そか。じゃー、俺も行く。」


「・・・は?」


「ちょっとその『四天王』さんたちに言っておきたいことあるからさ。
ってことでレイ、案内してっ」


「えっ、おい、ちょっと!!」


『案内して』なんて言っておきながら、

麗翔の腕をとって陽汰はずんずん行ってしまう。
何が何だか分からない麗翔は、ただついていくしかなかった。


そして、2人はあっという間に大学部自治会室の前にいた。
扉の前に立って、麗翔は不安げに陽汰を見る。


「・・・なぁ、陽汰。やっぱりこれはちょっと・・・」


まずいんじゃ・・・と止めようとしたときには、すでに遅かった。
陽汰が扉に手をかけて、ノックもせずに開けたのだ。


「ちょっ・・・陽汰!」


普段の陽汰からは想像つかないくらいの強引さに麗翔が呆気にとられているうちに、

事態はどんどん進んでしまう。


「なんだ。ノックも出来ない無礼者は誰かと思えば・・・」


中から聞こえてくる颯夜の声。
片方の扉しか開いていないので、

もう片方の扉の陰に隠れている麗翔は颯夜の姿は見えないし、

颯夜からも麗翔は見えていない。
しかし、颯夜の声のトーンから、初対面のマナー知らずにかける声とは少し違う・・・?と

麗翔が不思議に思っていた時だった。

陽汰から予想外の一言が発せられた。


「・・・久しぶり。そーやセンパイ。」


「えっ!?」


「おや。」


驚きから声を上げてしまった麗翔。

それを聞きつけて、中にいた鈴羽が麗翔の存在に気付く。


「何そこに突っ立ってんの。放課後すぐに来いって命令だったでしょ。早くこっち来なよ。」


「うっ・・・は、はい・・・」


鈴羽に言われ、麗翔が陽汰の横をすり抜けて部屋の中に入ろうとしたときだった。


バッ


「うわっ!?」

「「「「!?」」」」

「ちょっ・・・陽汰っ・・・」


瞬間、陽汰が麗翔を後ろから抱きしめる形で抱き寄せた。


「行かせない。」

「お、おい!」


強い力で抱きすくめられ、麗翔は身動きがとれない。
四天王の視線が痛い。

だが、振りほどこうと後ろから回される陽汰の腕を掴んだり

パシパシ叩いたりしてもびくともしない。
そんな麗翔の抵抗は気にもとめず、陽汰はいつもより幾分低い声で颯夜に告げた。


「センパイ・・・いい加減人のモノに手出すのやめてよね・・・」


「陽汰っ・・・」


「・・・どういう意味だ。」


眉一つ動かさず颯夜が尋ねる。


「こいつ・・・俺の女なんで。」

「陽汰!」

「・・・」
「!!」
「えーーーっ!!」
「うっそ、ホント!?」


衝撃の告白に、麗翔は焦り、颯夜以外の四天王は差はあれど驚きのリアクションを見せる。
が、颯夜は何も言わないしリアクションもない。


「・・・だから何だ。」


「だからー さっきから言ってるじゃん。」


先ほどから低めだった声をさらに低め、陽汰は颯夜をにらみつけて言った。


「人の女にちょっかい出すなよ。」


「ひな・・・た・・・」


初めて見る陽汰のこんな姿に、麗翔は呆気にとられる。
だが、颯夜はそれで怯むような柔な男ではないわけで。


「ククッ・・・ハハハッ 何かと思えば、

そんなことをわざわざ言いに女連れて乗り込んできたのかヒナ。」


「っ・・・」


「自分のモノ一時でも取り上げられたら我慢できないで駄々捏ねる・・・

相変わらずただのガキだな。」


「っ!」


挑発するように言葉を紡ぐ颯夜に、陽汰は更に険しい顔になる。
が、颯夜は涼しい顔で続ける。


「こいつに男がいることなんて想定内だ。

まぁ・・・それがヒナだったのは多少想定外だが・・・
そうだとしても俺たちはこの女を俺たちのものにする。」


「な、何を勝手に・・・」


勝手に決定事項、と言い放つ颯夜に麗翔が反論しようとするが、

そんな隙も与えられずに今度は涼聖が口を開く。

「そーそー、っていうかさ。麗翔チャンのガードが甘いのも問題だよねー
だから・・・ほら! こんなことされちゃうんだよ(ニコッ)」


ピッ


「なぁっ!!」
「!!!」


「涼聖・・・ここは撮れって言ってねぇだろ」

「えー、普通撮るでしょ? こんなおもしろい場面。」
「相変わらず趣味悪・・・」
「決定的瞬間だね♪」


涼聖がリモコン操作して、ドアに正対する正面のスクリーンに映し出されたのは、

颯夜が麗翔にキスしているその瞬間の写真だった。


「ち、違う、陽汰、これは・・・」

「へぇー・・・」


陽汰が更に怒った予感がして、麗翔は焦って弁明しようとするが今更である。

「まぁ、確かにレイちゃんのガードが甘いのは事実みたいだねー 

まぁ、その話は後でするとして。」


「う・・・」


「あんた・・・リョーセイさん? 俺にこれ見せてどーいうつもり?」


「・・・んー?」


「俺に、レイがセンパイのものになりかけてるって見せつけるため?
俺の心を傷つけて、それで俺にレイを諦めさせようとするため?・・・笑わせないでよ。」


「・・・え?」

「・・・」


「『あの程度のキス』でレイの気持ちを俺からセンパイに向けさせた、って思われるなんて

心外だよね。・・・クスッ」


「? ひなた?」


険しい目つきを一瞬ゆるめ、優しい恋人の顔で麗翔に笑いかける。
が、それは本当に一瞬で、次の瞬間にはまた険しい目つきに戻り、今度は颯夜を見つめる。


「ねぇ、センパイ。センパイ、俺のこと『相変わらずガキだ』って言ったよね。」


「事実だからな。・・・だからどうした。」


「そう、俺はガキだよ。負けず嫌いで、我慢できなくて・・・そーいうガキだからさ。」


そう言いながら、後ろから抱きしめていた麗翔の体を反転させ、
ちょうど四天王たちに自分と麗翔の横顔が見えるような位置に動いて

今度は向き合うようにして抱きしめる。
そしてその表情は先ほどまでの怖い陽汰の顔ではなく、

甘い時間を過ごしている時の恋人の・・・


「ひ、ひなた・・・? お前まさかっ・・・」


「やられたことはやり返したくなっちゃうんだよね♪」


「んっ!」


「「「「!!」」」」


麗翔は陽汰からキスをされていた。
そう、陽汰は颯夜と麗翔のキス(写真)を見せつけられたお返しに、

四天王たちに自分と麗翔のキスを見せつけたのだ。

ただ、決定的に違うのは・・・麗翔の反応だった。


「ん・・・んん・・・」


一方的にキスをする、というシチュエーションは同じながら、
瞬間的にキスしただけで颯夜を引っぱたいて引きはがした麗翔が、陽汰には全く抵抗しない。
それどころか・・・


(めっちゃ腰砕けてる・・・麗翔チャン)

「っ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・はぁっ・・・」


ようやく長い口づけが終わり、解放された麗翔だがとても1人では立てなくて、

結果自分から陽汰にすがりつくような体勢になる。
それも含めて、陽汰は颯夜たちに見せつけ、


「・・・そーいうわけだから。センパイ♪」

「うわっ ちょっ・・・陽汰っ・・・」


麗翔をお姫様抱っこすると、悠々と自治会室を後にしたのだった。






残された四天王はというと・・・


「・・・完全にケンカ売られたけど。」


クスクスと、またいつぞやのように可笑しそうに笑う鈴羽に、

颯夜の機嫌は最悪だ。


「・・・そうだな。」


「っていうか、あれ相当ラブラブだよねー

麗翔ちゃん、キスしてる時の顔、颯夜の時と比べものに・・・」


「黙れ涼聖。」


「ラブラブだったね♪」


「お前もうるさい。」


火に油を注ぐ二人に、颯夜の眉間の皺はさらに深くなる。


「あーあー、ひどい顔だよ。・・・それにしても、よりによって遥瀬の女だったなんてね。
もうここまで来たら運命なんじゃない?」

「運命だとしたら、呪いたくなるくらいうぜー運命だな。」


「それでそれで? どーすんの、颯夜?」


興味津々、といった目で見てくる涼聖に、颯夜は怒りを湛えた目で言った。


「当然。俺にケンカ売ったことを後悔させてやるさ。あの女は・・・俺たちのモンだ。」


「そうこなくっちゃ!」
「そうちゃん本気モード♪」


またいつぞやのように盛り上がる2人を尻目に、鈴羽が言う。


「全く・・・颯夜こそ、ガキっぽさでは人のこと言えないんじゃないの?」


「ククッ・・・ああ・・・そうかもな。」


颯夜は、茶化すように言った鈴羽の言葉に、噛みつくでもなくただ静かに冷たく笑ってそう答える。
・・・颯夜の頭の中は、次にどんな手を打つか、それだけでいっぱいなのだった。