「あ! レイ!!」


校門近くで百合乃が手を振る。
麗翔の「終わった」というメールを見て、校門で待っていたのだ。


「ちょっと、どうしたの、何されたのよ、顔やつれてるわよ!?」


麗翔の顔を見るなり、百合乃が驚いたように目を丸くして言う。


「え・・・あ、気、気のせいだよ、気のせい!
何もされてないよ、ちょっと話しただけ。」


「そうは見えないわよっ」


スタスタ歩き出す麗翔に、百合乃が食い下がる。


「何か言われてるの? 

レイ、この前自治会室に呼び出された時もあんまり話してくれなかったし!」


「あー・・・」


麗翔は頬を掻いて困ったような顔を見せる。
むーっと見てくる百合乃に何と返せばいいか・・・
少々思案の内、無難な言葉を選んで口を開く。


「どこまで話したらいいか分かんないんだよ。

正式に皆が知っていいことなら公式発表されるだろうし。
ユリの報道部だって情報掴むだろ?」


「それはそうだけど・・・」


「守秘義務・・・みたいなの? 

ユリだっていつも『特ダネはどこから漏れるか分からない』って言って
取材の内容教えてくれないじゃないか。おあいこだよ。」


百合乃はそう言われ、少し不満げながらも渋々納得する。


「それを言われちゃうと・・・

はぁ。しょーがないわね、でもやばそうなことされたら言うのよ?」


「あぁ。分かった分かった。」


「じゃあ、また明日ね!」


「あぁ。また明日!」


分かれ道で手を振って駆けていく百合乃の後ろ姿を見送りつつ、麗翔は溜息をついた。


「はぁ・・・ごまかすの辛い・・・
っていうかさっきされたことは『やばそうなこと』に該当するよな・・・

でも言えるわけないし・・・はぁ・・・」


麗翔は先ほどまでの出来事を思い返しては、溜息をつきっぱなしで家路についたのだった。





翌朝。

掲示板前には、いつぞやのデジャヴともいえる光景があった。


「麗翔様!」
「麗翔様、『学生自治会役員補佐』とは、どのようなお仕事なのですか!?」
「この前自治会役員の方々のお部屋に行かれたのは、このことについてですか!?」


「え、皆何で知って・・・」

「レイ、張り紙!」


一緒に登校した百合乃が指さした先には、一枚の張り紙が貼られていた。
そこには・・・


『3年A組 園宮 麗翔

 上記の者を 本日付で 聖空学園学生自治会役員補佐 に任命する

                      聖空学園大学 学生自治会 』


(うっわ、早速公表された・・・)


張り紙の文言を読んだ瞬間、麗翔は目眩がするのを感じた。


「レイ! ちょっと!」


またもや百合乃に腕を引かれ、人気のない校舎裏で問い詰められる。


「レイ! 何なの、この役職。仕事内容は? 任期は?」


「え? え、ええっと・・・仕事内容はそのままだろ、四天王の補佐・・・」


しどろもどろの麗翔に、百合乃は呆れた顔で怒鳴った。


「ばっか、違うわよ!!
聖空学園ではあらゆる役職に就く際には、

被任命者は仕事内容を詳細に記述した文書の提示を任命者に求めることが出来る、
だからそれを熟読し、熟考の上で誓約書にサインして任命者に提出する、常識でしょ!?」


「い、言われてみれば・・・」


「はぁ・・・その様子じゃ、言われるがままにサインしたわね?
『補佐』なんてどうとでもとれる都合の良い役職名つけられて・・・

あいつら、きっと体の良い雑用係にする気ね。」


「あ、アハハ・・・」


あながち外れていない(というかほぼ合ってる)ので、麗翔は苦笑いしかできない。


「しょうがないわね・・・いいわ、私の親友をあいつらに好き勝手されたくないし。
私が応戦してみる。」


「お、応戦って・・・」


「今日の昼の放送、担当は私なの。そして今日は第二金曜日。」


「第二金曜って・・・あ!」


「そ。自治会役員の定例会見の放送日よ!」





“お昼休みをお過ごしの聖空学園女子高等部の皆さん、こんにちは!
本日の昼の放送担当、美郷百合乃です。

本日は第二金曜日。自治会役員の方に定例会見を行っていただきます。
というわけで、本日は会長の、朝月颯夜さんにお越しいただきました。

よろしくお願いします。”


“よろしくお願いします。”


(うわぁ・・・始まった・・・)


教室に響き渡る放送。

大人気の颯夜がゲストだからか、皆静かにして耳を傾けている。
麗翔は百合乃が颯夜に対してどう思っているか

夜の裏の顔がどんなものかを知っているので気が気でない。


“・・・が、ここ二週間の主な活動内容でしょうか。”


颯夜がスラスラと自治会傘下の各委員会等の活動などを述べ終わると

次に百合乃の声が聞こえた。


“ありがとうございます。
それでは、あまり普段はとらない方式なのですが、放送時間もまだあることですし、
今度はこちらからの質問に答えていただく、という形式をお願いしたいのですが、

よろしいですか?”


“・・・・・・あぁ、どうぞ。”


数秒の間が空いて、颯夜が返事をする。
続いて、百合乃が皆が興味を持っているだろう1つの質問を投げた。


“それでは、伺わせていただきたいのは、

本日掲示板にて公示された、『自治会役員補佐』という役職に関してなのですが・・・
まず、これは具体的にどのような役職なのでしょうか?”


“・・・まずそもそも、この役職を設けた理由・目的からお話させていただきたい。
我が聖空学園は中高大とエスカレーター式の形をとっていますが、
部活動や委員会活動を共同で行う中高と異なり、大学部と中高の関わりはとても薄い。

れがもったいないことだと我々自治会役員は常々感じておりました。
自治会役員もほぼ全員が大学部の生徒です。
そこで、まず手始めに、我々自治会役員すなわち大学部と中高の架け橋となってもらう存在として

この役職を思いついたわけです。”


“それでは、具体的にどのような職務を担当する役職なのでしょうか?”


“具体的にとは難しいですね。

そもそも我々自治会役員の仕事も、はっきり明文化されたものはなく、
先代からの引き継ぎでやっているもの、

試行錯誤で新たに取り組んでいるもの等種々ありますから。
でもまぁ、自治会役員補佐、ですから自治会役員の仕事と重なるものが多くなるとは思います。
中高大一斉学園祭の運営、各部活動委員会活動の総括など。
現在、これらも、

たとえば学園祭は同一日の開催にしているだけでほとんど何の連携もとれていませんが、
この機会に何か連携できたらと考えています。”


“・・・そうですか。分かりました。

それでは・・・今回、この役職に3年の園宮麗翔さんが任命されたようですが、
その理由をお聞かせ願えますか。
特に選挙などがなされたといったことはないようですが。”


(うわぁ・・・ユリ、ぐいぐい行くなぁ・・・)


“園宮さんが女子中等部・高等部の生徒の皆さん全員から人気があり、
信頼を寄せられている方だというお噂をお聞きしたことが、

彼女にお願いしようと考えた1つのきっかけですね。
『補佐』といっても、女子中等部・高等部では唯一自治会と関わりのある人物として
その面ではトップと言って遜色のない存在ですから、
人望、人を引きつけるカリスマ性やリーダーシップ、

そのような点で彼女が相応しいと考えました。”


(よくもまぁ、つらつらと・・・)


よどみなく心にもないことを、と麗翔は心の中で悪態をつく。


“・・・なるほど、ありがとうございます。

・・・それでは、最後に個人的に気になったことについて1つ質問よろしいですか?”


“どうぞ。”


“今のお話ですと、

聖空学園全体での連携を深めていきたい、そのための今回の役職設置、

という理解でよろしいですか?”


“ええ。そうです。”


“でしたら・・・男子中等部・高等部からも補佐が一名、選出されるということですよね?”


(!!!)


思いがけない百合乃の質問に、麗翔も驚く。


(さ、さすがユリ・・・

今帝王が話した論理なら、男子部からも代表がいないとおかしくなるけど・・・)


だが、そんな者いるわけがない。

そもそも最初の役職設置の理由から嘘っぱちなのだから。
百合乃の頭の回転の早さに舌を巻く麗翔。


“・・・えぇ、もちろん。鋭意選出中です。”


“男子部の方はいつ頃具体的な公示をお考えでしょうか。”


“そうですね。男子部での定例会見が第三金曜ですから、その頃までには。”


“そうですか。男子部の代表がどんな方も興味深いですね。
この新たな試みで、

聖空学園がより一層一体感のある学園となることを期待させていただきます!
それでは、そろそろお時間です。

本日は聖空学園自治会会長の朝月颯夜さんにお話を伺いました。

ありがとうございました。”


“ありがとうございました。”





「ええっ!? 質問のくだりから全部アドリブだった!?」


放課後、百合乃との会話で衝撃の事実が発覚した。


「そうよー、打ち合わせ無しでふっかけたら本性出すかなって思ったのに、

あいつ全然ボロ出しやしないの。
話のうまさとかはさすがねー、なかなか太刀打ちできないわ。」


「あ、後で怒られなかったのか?」


「あー、イヤミ言われたわ。“さすが自治会役員キラーだな。”って。」


「そ、そうか・・・」


「あー、もう最悪!! 

全部うまくかわされるし、話引き延ばされたから全然聞けなかったし!!」


引き延ばされた?」


「馬鹿丁寧に答えている印象受けたでしょ? 

あれ、わざとよ。言葉数を多くして時間を稼いでたの。
聞いてる方には質問に丁寧に答えてるいい人って印象を与えられるし、

レポーターには質問数打たれるのを防げるしって感じ。」


「な、なるほど・・・」


「でもまぁ、男子部からも1人任命すること確約させられたのは収穫かなぁ」


「あ、あぁ、あれな・・・すごいな、絶対あいつら考えてなかったと思う・・・」


「まぁ、任命したヤツにちゃんと仕事振るかは怪しいもんだけどね。

それはそれで名ばかり役職だってつっこむ材料に出来るし。
全てがあいつらの思う通りに進むのはむかつくから。」


エッヘンと胸を張る百合乃に麗翔がプッと吹き出す。


「あぁ、そうだな。
あー・・・でも誰にするんだろ・・・あと一週間で決めるって・・・」


自分と同じような扱いになるとは考えにくいが、巻き込んでしまうのは申し訳ない。
すると、百合乃がポンッと手を打って言った。


「せっかくだし陽汰くんだったらいいのにねっ」


「はぁ!? ないない、それはない!! っていうか私が嫌だ!」



百合乃の発言に麗翔が手の平をぶんぶん振って否定する。

「ま、何にせよ、これからも逐一相談してよね、
報道部員の権限使いまくって、ちょっとは力になれるようにするから!」


「・・・あぁ。ありがとう。」


百合乃の笑顔を見て、

麗翔は絶対的な味方になってくれる親友の存在を再確認し、勇気づけられるのだった。