「・・・で。さっきメールくれた夜須斗君の話と、
佐土原の話を総合すると。」
つい先ほど6時間目が終わり、
夜須斗から風丘にメールが届いた。
そこには、先ほどの一悶着の一部始終が書かれていた。
それに加えて風丘は洲矢と仁絵に事情を聞き(仁絵は一言も話さなかったが)
ようやくあらかたの事情がつかめたのだった。
「さっきの誘拐の件がらみかな?
理由はあとでちゃんと聞くけど、とりあえず二人がケンカして、
佐土原が柳宮寺のほっぺた叩いて
そのまま教室を飛び出して授業エスケープ・・・」
風丘は事実を並べるだけなのだが、改めて言われるとくるものがある。
洲矢は何とも言えない表情をする。
「う・・・」
「で、柳宮寺と勝輝が歩いてるの見つけて、
後をついてきたらその話してて、証言してくれたって感じか。」
「ごめんなさい・・・」
しゅんとする洲矢に、風丘は困ったように笑って言う。
「うーん・・・俺にごめんなさいするのはちょっと違うかなぁ・・・
佐土原がケンカしたのは柳宮寺でしょ?
ほっぺたぶつなんて、佐土原らしくないね。」
「だって、それはっ・・・」
珍しく反論しようとする洲矢に、
風丘は一瞬目を丸くして、その後また優しく微笑む。
「だって、なーに?
珍しいね、佐土原が言い訳しようとするなんて。何が原因?
夜須斗君、ケンカの原因っぽいこと言ってるのは聞いたけど、
それは直接聞いた方がいいって教えてくれなかったんだー」
風丘は洲矢の頭を優しく撫でる。
「何があったの?」
風丘の優しく促すような問い掛けに後押しされて、洲矢が口を開く。
「・・・ひーくんが・・・友達止めようって・・・」
「・・・」
「っ・・・」
風丘が一瞬、チラッと仁絵の表情を見ると、
仁絵は唇を噛んで目をそらす。
「近づくのやめろって・・・もう僕と話さないって・・・
学校一緒に行かなくなったし、話しかけても無視されるしっ・・・
ちゃんとした理由も教えてくれなくてっ・・・ふぇっ・・・ふぇぇぇっ・・・」
「あーあー、泣かない泣かない。」
思い出してしまったのか、泣き出す洲矢を抱き寄せて、
風丘はポンポンと頭を撫でてあやす。
張本人の仁絵は、バツが悪いのかそっぽを向いたまま黙っている。
「それはちょっと・・・いろいろ良くなかったねぇ」
「ふぇ?」
風丘がぼそっとつぶやいた一言が聞き取れず、洲矢が顔を上げる。
「ううん、何でもないよ。
確かに、突然そんなこと言われて、悲しかったよね。
意味分かんないし、説明不足だし。
その点に関しては100%柳宮寺が悪い。」
「っ・・・」
断言されて、仁絵は更に顔を背ける。
「でもね。だからって感情的になって、人の顔をぶっちゃうのは良くないかな。
行き場がない感情を発散するのに、『叩く』っていう選択肢を選んで欲しくない。」
「はい・・・ごめんなさい・・・」
「それは、お仕置きが終わった後に柳宮寺に言おっか。
あ、あと分かってると思うけど、
今回は結果オーライだったけどサボりも盗み聞きもほんとはイケナイことだからね?」
「ご、ごめんなさいっ」
人差し指を口にあて、ウインクしながら言う風丘。
洲矢は慌てて謝罪を口にする。
「ん。イイコ☆ じゃあ素直にお仕置き受けれるかな。」
「はい・・・」
「佐土原はイイコだし、10回でいいかな。はい、お膝おいで。」
風丘はパイプイスに腰掛けると、膝を叩いた。
洲矢は素直に膝の上に乗る。
風丘はそんな洲矢の頭を優しく撫でるが、
そんな優しさとは裏腹にあっさり洲矢の履いている物を下ろしてしまう。
「ちょっと我慢ね。いくよ~」
バシィンッ
「んんっ・・・」
バシィンッ バチィンッ バシィンッ バシィンッ
「んんっ・・・いたっ・・・うぅっ・・・」
決して強くはないが、
普段滅多にお仕置きされることのない洲矢には十分な痛みだ。
バシィィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィィィンッ
「ぅぁっ・・・ぁぁっ・・・いぃっ・・・いたぁぁぃっ」
最後は少し強めの平手。
服を戻して膝から下ろすと、風丘は洲矢に問い掛ける。
「さて、誰になんて言えばいいのかな? 分かるよね?」
洲矢は頷くと、ずっとそっぽを向き続けていた仁絵に近寄る。
「ひーくん・・・顔ぶっちゃってごめんね・・・ごめんなさい・・・」
「・・・」
真っ直ぐな洲矢の言葉。仁絵は聞こえているのだろうが洲矢の方を向こうとしない。
「ひーくん・・・」
「っ・・・」
また悲しそうな顔をする洲矢に、仁絵の瞳が一瞬泳ぐ。
そこを見逃さない風丘が、仁絵に問い掛ける。
「柳宮寺。何か言うことは?」
「・・・」
しかし、また黙りに戻ってしまう。
「・・・ハァ。もう・・こっちの子は・・・」
「っ・・・おいっ・・・」
結局黙りっぱなしの仁絵に、風丘はため息をつきつつ、近づいて腕をとる。
「何? ケンカ両成敗だよ。とりあえず、10発はここでするからね。」
「やめっ・・・離せっ・・・」
暴れる仁絵を者ともせず、風丘はあっという間に膝の上にセッティングする。
もちろん、下は全て下ろして。
「やめっ・・・」
バッシィィンッ
「っあ!」
暴れた罰、と洲矢よりも少し強め。
しかし、洲矢がいるこの空間では、仁絵も意地を張り続ける。
バッシィィンッ バシィンッ バシィンッ バチィィンッ
「くっ・・・ぅっ・・・うぅっ・・・」
「もう・・・相変わらず・・・」
バチィィンッ バシィンッ バシィンッ バシィンッ バシィィンッ
「ぅぁっ・・・くっ・・・っ・・・んんっ」
10発叩き終わり、風丘が問い掛ける。
「・・・何か言うことは?」
「・・・ねぇよ。」
「はぁ~~ もう・・・こうなるとは思ってたけどね。
意地っ張りも度が過ぎると後悔するよ?」
「・・・」
風丘はため息をついて、仁絵の制服を元に戻し、そのまま肩に担ぎ上げる。
「っおい! まさかテメーこのまま移動する気じゃねーだろーなっ!」
我に返った仁絵が抗議の声を上げるが、風丘は何所吹く風。
「するよ? 連れてってお部屋ついたらこのままお膝の上にのせたほうが楽だもん。
下手に逃がす心配ないし。」
「っざっけんな、こんなのっ・・・」
「心配しなくても、もう部活してる子しか残ってないし、
ここから俺の部屋までのルートは放課後は滅多に生徒通らないから。」
「そういう問題じゃあ・・・」
なおも文句を言おうとする仁絵は無視して、風丘は洲矢に話しかける。
「この意地っ張りさんは
ここでのお仕置きじゃ反省できなさそーだから俺の部屋連れてくね。
大丈夫。ちゃんと洲矢君に説明するって約束させるから。」
「は、はい・・・」
「うーん、でもちょっとかかっちゃうかも。
だから、今日は先に帰って・・・」
「ま、待ってます! 今日、ちゃんと話したいし・・・それに・・・」
洲矢は、心底心配そうな瞳を二人に向けて言う。
「さ、さすがに・・・最終下校までには終わるでしょう?」
現在時刻4時過ぎ。最終下校まではあと1時間半以上ある。
さすがに・・・と一応のつもりで聞いた洲矢だったが、
風丘の答えはその洲矢の予想を裏切り、仁絵を絶句させるものだった。
「うーん、どうかなぁ・・・」
「えっ・・・」
「なぁっ!?」
「でも、そうだなぁ・・・
じゃあ、最終下校になってもまだだったら、俺の車の中で待ってて。
車、分かる?」
「は、はい・・・」
風丘はズボンのポケットを探り、キーを取り出して投げ渡す。
「さて、じゃあ行くよ。」
「っ・・・」
こうして、心配さMAXになった洲矢を置いて、風丘と仁絵は部屋を後にした。
「離せっ・・・自分で歩くっ・・・」
廊下を移動中。なおも抵抗する仁絵に、風丘が答える。
「・・・ふーん。
じゃあ、お部屋着いたらお尻出して俺のお膝の上に乗るところまで自分で出来るんだ?」
「ばっ・・・てめぇ、何言ってっ・・・ここ廊下っ・・・」
風丘の言葉通り、幸い生徒の姿は見あたらないが、
それでもいつ誰が通るかもしれない廊下で
そんなことを平然と言う風丘に仁絵は焦る。
「それが出来ないならおとなしく運ばれてなさい。」
恥ずかしさを紛らわすように仁絵はなおも抵抗する。
「知らねぇよ、そんなの! 下ろせっつって・・・」
バシィィンッ
「!? てめぇっ ふざけんなっ!!」
風丘が肩に担いだ仁絵のお尻を叩いた。
制服の上からとはいえ、まだ部屋に着いてないうちに叩かれて、
羞恥から仁絵が更に暴れようとする・・・が。
「ふざけてるのはどっちだよ。」
「なっ・・・」
突然風丘の雰囲気が打って変わった。
その変化は仁絵にとって感じたくないもので、しかし感じ取ってしまった仁絵は固まる。
「さっきから聞いてれば『話すことはない』だの『離せ』だの『やめろ』だのばっかり。
意地っ張りも度が過ぎると後悔するって最初に言ってやったのに。」
風丘は静かにそう言うと、仁絵を肩から下ろした。
部屋までは、もうあと今いる廊下の突き当たり、まっすぐ進むだけの所まで来ていた。
下ろされたら、逃げてやろうという気がなかったわけでもない。
しかし、その思いは実行しようとする間もなく打ち砕かれた。
下ろされた仁絵の目に飛び込んできたのが・・・
いつもの笑顔はどこへやら、
見ただけで恐ろしさを感じるほど、絶対零度の冷たい瞳をした風丘の顔だったから。
「風丘っ・・・なんでっ・・・」
「なーに?
柳宮寺が散々下ろせ下ろせって言ったから下ろしてあげたのに、
そのびっくりした顔は。」
「だって・・・怒ってっ・・・」
風丘が間合いを詰めるように歩み寄ってくる。
仁絵はそれに追い詰められるように後ずさるしかできない。
「あぁ。怒ってたさ。洲矢君から事情を聞いてからずっとね。
でもあの場には洲矢君がいたし、洲矢君のお仕置きの理由はそれとは何にも関係ないし。
それで洲矢君まで怖がらせるのは違うだろ?」
「・・・」
いつもと違う風丘のオーラに飲まれて、仁絵は何も言えない。
風丘は畳みかけるように話してくる。
「柳宮寺は勘が良いから感じ取ってると思ってたけどな。
俺がどれだけ怒ってるか。俺をどれだけ怒らせるようなことをしたか。」
「っ・・・」
「それが何のことか。
分かってて知らないふりをしてるなら問題だし、
そもそも分かってないならそれももっと問題。
どちらにせよ・・・」
「っ!!」
仁絵の肩に何かが触れる。
それが風丘の部屋のドアだと気付いたときには
仁絵は風丘に手首をつかまれ、再度捕まっていた。
「今日は厳しくするから。覚悟しろ。」
そして仁絵は遂に部屋に入れられてしまった。