☆注意
☆
・この小説はスパ小説であることを軸にはしていない作品です
・今後スパ描写は登場予定ですが、登場人物たちの性格上、
必ずしも「正当な理由でのお仕置き」
「典型的なディシスパ(躾としてのスパ)」にならないことがありますので
そういった「お仕置き」に納得のいかない方はご了承ください
・私の様々な書きためていた(未発表も含め)拙作が全消えしたので
「それならいっそ」と書き出した作品になります。
従って、今は消してしまいましたが過去作品に登場したキャラと
似たような性格のキャラが多数登場します。
「はぁ・・・ノック・・・するんだよな・・・?」
豪勢すぎるいかにも重そうな扉を前に、制服姿の一人の女子がため息をついていた。
時は3日ほど遡る。
「レイ! あんた進級早々何したのよ!」
「な、なんだよユリ・・・ 私は何もしてないぞ?」
目を合わせて早々噛みついてくる親友にうろたえるのは、
園宮 麗翔(そのみや れいと)。
ここ聖空(せいくう)学園の生徒で、つい先日、4月をもって女子高等部3年に進級したばかりだ。
麗翔はその名前もさることながら、日本人には珍しい亜麻色の髪を短くボブカットにし、恐ろしく整った中性的な顔立ち、
普段からサバサバとした性格、男口調、
そして極めつきは聖空学園女子高等部の花形、演劇部で男役スター(いわゆる○塚トップスターのようなもの)を務める、
女子高等部で知らない者はいないくらいの同性にモテモテのイケメン女子である。
そんな彼女に容赦なく噛みついてきたのは
美鄕 百合乃(みさと ゆりの)。女子中等部1年からの麗翔の親友で、報道部に所属している。こちらは普通の一般女子生徒である。
「あんた・・・掲示板何も見てないの!? あんなに人集まってるのに!?」
「掲示板・・・?」
呆れる百合乃だが、麗翔は何もつかめない。きょとんとしている親友を見て、百合乃はため息をついて麗翔の腕をつかんだ。
「もう、いい。いくよっ」
「えっ、おい、ちょっと!」
有無を言わさず麗翔の腕をつかんで引っ張っていったのは、正門前の掲示板。
多数の女子が群がっていたが、麗翔が来たと分かった途端、
「麗翔様よ!」
と誰かの一声で、サッと人が避けて道を作る。
これ幸いと百合乃はそのまま突き進み、掲示板の前まで行くと、バンッと叩く。
「これを見なさい!」
「なっ・・・なんだよ・・・」
指し示された先には、こう書かれた張り紙があった。
『3年A組 園宮 麗翔
上記の者は 4/5 15時 に 大学部 学生自治会室に出頭のこと
聖空学園大学 学生自治会 』
「な、なんだこれ・・・?」
「何って、『四天王』からの呼び出しよ!」
「し、『四天王』・・・?」
「ま、まさかあんた知らないのっ!?」
相変わらずきょとん顔の麗翔に、目を丸くする百合乃。
すると、今まで黙っていた道を作った女子生徒たちが騒ぎ始めた。
「麗翔様! 四天王の皆様とお知り合いなのですかっ!?」
「どんな用件でお呼び出しされたのですか!?」
「えっ、いや、私は何も・・・」
「あーっ、もうっ ここじゃだめっ 来なさい、レイ!」
「あっ、ユリっ・・・」
麗翔は再び百合乃に腕を引かれ、連れてこられたのは部室棟の、百合乃の所属する報道部が割り当てられている一室。
「はぁ・・・あんた、その様子じゃ何も知らないみたいだから一から説明してあげる。」
「あ、あぁ・・・」
「この聖空学園が中等部・高等部は完全男女別、大学部だけ共学ってシステムなのは知ってるわよね?」
「あぁ。」
「それじゃあ、去年まで男子高等部のトップに君臨してた『四天王』の存在は?」
「いや、だから『四天王』っていうのが分からないって・・・」
「その人間離れした美貌とカリスマ性で中等部時代から頭角を現し、高等部に上がった途端生徒会執行部の座に3年間座り続け、
そして高等部在籍中に、大学部の学生たちによる自治組織、学生自治会の中枢に据えられることが決定していたトンデモな4人のことをそう呼ぶの。
そいつらからあんたに呼び出しがかかったってわけ。」
「ちょ、ちょっと待て。じゃあその『四天王』とやらは大学部なんだろ?
高等部の私とは何も関係ないじゃないか。」
聖空学園はエスカレーター制で、中等部と高等部は生徒会や部活が統合されていたりと関わりがあるが、
大学部はシステムが共学に変わってしまうこともあって、関わりはかなり薄い。
「だから『何やらかしたの』って聞いたの! 四天王はこの4人よ、見覚え無い?」
そう言って百合乃が4枚の写真を並べる。確かに、その4人は全員怖いくらいの美形揃いだ。
「えー・・・? うー・・・あー・・・あーーーーーーーっ!!」
写真を見て、首をひねる麗翔・・・が、突然何かを思い出したように声を上げた。
「・・・思い当たる節、あるの?」
「この前、部活に遅れそうで慌てて走ってたとき、通り道に人だかりが出来てて・・・」
「・・・あんたまさか・・・」
「人多すぎて端っこ通れそうになかったから、そこ突っ切って通ったんだ。その中心に・・・いた・・・かもしれない。」
「・・・完璧それね。それで目つけられたのよ。はぁ・・・やっかいなことになったわね・・・」
ため息をつく百合乃に、麗翔がむくれて言う。
「な、何でだよ、私ちゃんと『悪い、急いでるんだ、通してくれ』って言ったんだぞ!」
「それが問題なのよ。こいつらにとって自分たちのことを気にも留めず通り過ぎていく女子なんてあり得ないの。
女子は全員、自分たちを見ればときめいて、足を止めて、群がる。そういうもんだと思ってるの。私だって実物目にしたらただ見てるのが精一杯よ。
だからあんたがやった行動はあり得ないの、それで目つけられたの!」
「そ、そんな大げさな・・・」
「大げさじゃないわよ。しかもこいつら、表向きはネコかぶってキラキラしてるだけだけど、全員性格に難有りなの。
私が実物前じゃ言えないけど、こうして裏じゃ批判的にしてるのはそれが理由。報道部でいろいろ噂は入ってくるしね。」
「は、はぁ・・・」
「呼び出されちゃったもんはしょうがないわ。回避しようがないから、注意だけしてあげる。」
「え・・・」
何故か気合い十分の百合乃は、写真の一番左端、茶髪短髪で優しげに微笑んでいる男を指さす。
「これが星矢 涼聖(ほしや りょうせい)。会計担当。二つ名は『王子』。」
「王子? っていうか二つ名?」
「まぁ、主に報道部だけど、四天王の裏の顔を知ってる人たちが使ってる若干イヤミもこめた通称よ。
写真見ても分かるでしょ、普段はこうしてニコニコ王子様スマイル。でもその実イタズラ好きで性格ひん曲がってるって噂よ。」
「はぁ・・・」
「次。」
次はその右隣。色素の薄い、銀髪に近い少し長めの髪。パッチリとした瞳の男だ。
「これは蓮城 斗夏(れんじょう となつ)。書記担当。二つ名は『姫』。」
「ひ、姫ぇっ!?」
「このかわいい系の容姿からよ。でも中身は何でも自分の思い通りにならないと気が済まないただのワガママ。」
「は、はぁ・・・」
「で、次が特に気をつけるツートップよ。」
そうして二枚の写真を同時に出す。
「こっちの長めの髪で、ウェーブの掛かったちょっと青みのある黒髪に切れ長の瞳。
これが水凪 鈴羽(みなぎ すずは)。二つ名は『女王』の副会長。
黒髪短髪、いかにもデキる男って感じのこれが朝月 颯夜(あさづき そうや)。二つ名は『帝王』で、もちろん会長。」
「こ、今度は『女王』に『帝王』か・・・」
「帝王はそのまま。4人の中でもトップで居続けるカリスマ性と同時にとんでもない俺様。学園は自分を中心に回ってると言って憚らないわ。
女王は恐ろしいほどのプライドの高さと腹黒さ。全ての者を自分に跪かせ、刃向かう者は全て屈服させないと気が済まない。」
「そ、そうなのか・・・。」
百合乃のマシンガンのような説明に、麗翔は引き気味に相づちを打つ。
「とにかく、気をつけなさい。何されるか分かったもんじゃないわ。」
「あー、ありがとう、ユリ。でも私さ、ほら、こんな感じだし、女だと思われないから・・・」
「レイ! あんた、確かに口調とか性格とかはまぁあれだけど、容姿に関してはS級、いい加減自覚持ちなさいって言ってるでしょ!」
「はいはい、気をつけるよ・・・」
その後もヒートアップする百合乃をたしなめた1日だった。
・・・そして冒頭の場面。
呼び出しの日になったので、麗翔は学生自治会室とやらの前に来ていた。
自分たちの通う聖空学園が頭のおかしい金持ち学校ということは重々承知しているつもりだったが、
その金持ち色が大学部になると中高と比べて跳ね上がるということを、
今日嫌と言うほど実感させられている。
(何なんだよ、この馬鹿みたいな扉・・・)
だがしかし、このまま立ち尽くしていて時間を過ぎてしまったら、それこそ『遅刻だ』何だと責められるネタを増やしてしまう。
麗翔は意を決して、ドアを叩いた。
コンコンッ
「し、失礼しま~す・・・っ」
入った瞬間、目に飛び込んできたのは優雅に座る超絶美形たち。
「おや。誰だ、お前は。」
ジロッと目を向けてきたのは
(女王・・・か。確かに・・・)
その一声、顔つきからプライドの高さが伺える。
「あ、あの・・・呼び出しされた園宮麗翔ですけど・・・」
恐る恐る名乗る麗翔に、女王・・・鈴羽が吐き捨てるように言う。
「あぁ。あの失礼な女ね。せっかく忘れていたのに思い出したらまた不愉快になってきた。」
「う・・・(我慢、我慢っ・・・)」
「あのあとスズちゃん荒れに荒れて大変だったもんねー。」
「そうそう。颯夜まで不機嫌になったから自治会室の雰囲気最悪(笑)」
(姫に・・・王子・・・そして・・・)
「ほーらっ 颯夜。も一度この娘の顔見たくてあんな派手な呼び出しかましたんでしょ?
何か言ったら?」
執務机に座り、麗翔の位置から横顔しか見えない角度で座って書類に目を落としていた男が、涼聖に促されて正面を向く。
(っ・・・こいつが・・・帝王・・・)
美形である上にオーラがものすごい。瞳に射貫かれた瞬間、さしもの麗翔も怯んだ。
「よ、呼び出されて来ました。園宮麗翔ですけど、用件は?」
「鈴羽に言われて思い出したろう。あの時の俺たちに対する無礼な振る舞いを謝罪してもらおうと思ってな。」
不遜に言い放つ颯夜に、麗翔は我に返って反論した。
「はぁっ!? お言葉ですが、会長。あの時私は一言断ってから通りました。というか、
あんな道のど真ん中で通行妨害してる方が問題だと思います。
だから、私に謝罪を強要するのは不適切です!」
麗翔の毅然とした態度に、四天王は色めき立つ。
「おおっ」
「うわぁっ♪」
「へぇ・・・」
「ほぉ・・・どうしても謝罪する気はないと?」
「・・・ありません。」
「ここで謝れば俺たちがお前に良い思いをさせてやると言ったとしても、か。」
あまりの上から目線に、麗翔は取り繕うのを忘れて言い捨てた。
「・・・ない。悪いけど私、他の女子と違ってあんたたちに興味ないから。」
「ここで謝らなければ後々ひどい目に遭う・・・と忠告してやってもか。」
「くどいな、お前。ないって言ってるだろ!」
「ククッ そうか・・・ならば・・・仕方ないな。」
ニヤッと笑ってそう言うと、颯夜は立ち上がり、麗翔に近づく。
そしてその刹那。
「な、なんだよ・・・んっ・・・」
なんと麗翔に口づけをした。
しかし、この後の麗翔の反応は4人の予想とは異なるものだった。
パシィィンッ
「っ・・・」
麗翔は抱き寄せられる前に颯夜の体を引き離すと、目一杯の力で颯夜の頬を平手打ちした。
向き直った颯夜の目に飛び込んできたのは、ポロポロと涙を流す麗翔。
「お前・・・」
「っ・・・最低だっ・・・」
涙を流すままそう言って、麗翔は部屋を飛び出していってしまった。
残された4人。
「うっわ、何あの子強烈・・・いろいろすごすぎて頭ついてかないんだけど。」
「すっごいね、そーちゃんに負けなかった子なんてっ」
盛り上がる涼聖と斗夏を尻目に、鈴羽がクスクスと笑う。
「クスクスッ いいザマ。」
「黙れ鈴羽。」
「初めてでしょ。女に引っぱたかれるなんて。それに・・・キスで女がオチなかったのも、
嬉し涙じゃなくて嫌悪の涙なんか流されたのも。」
「うるさい鈴羽。」
「それで。どうするの。まさかこのままみすみす見逃すつもりじゃないんでしょ。」
「当然だ。」
叩かれた頬を撫でながら、怒りに満ちた笑顔を浮かべる颯夜。
「絶対に俺たちの『モノ』にしてやる・・・あの女・・・」
「何々、久々本気モード?(笑)」
「うっわー、そーちゃんこわーい♪」
「そうこなくちゃね。」
麗翔の波瀾万丈な日々が始まろうとしていた・・・。

・この小説はスパ小説であることを軸にはしていない作品です
・今後スパ描写は登場予定ですが、登場人物たちの性格上、
必ずしも「正当な理由でのお仕置き」
「典型的なディシスパ(躾としてのスパ)」にならないことがありますので
そういった「お仕置き」に納得のいかない方はご了承ください
・私の様々な書きためていた(未発表も含め)拙作が全消えしたので
「それならいっそ」と書き出した作品になります。
従って、今は消してしまいましたが過去作品に登場したキャラと
似たような性格のキャラが多数登場します。
「はぁ・・・ノック・・・するんだよな・・・?」
豪勢すぎるいかにも重そうな扉を前に、制服姿の一人の女子がため息をついていた。
時は3日ほど遡る。
「レイ! あんた進級早々何したのよ!」
「な、なんだよユリ・・・ 私は何もしてないぞ?」
目を合わせて早々噛みついてくる親友にうろたえるのは、
園宮 麗翔(そのみや れいと)。
ここ聖空(せいくう)学園の生徒で、つい先日、4月をもって女子高等部3年に進級したばかりだ。
麗翔はその名前もさることながら、日本人には珍しい亜麻色の髪を短くボブカットにし、恐ろしく整った中性的な顔立ち、
普段からサバサバとした性格、男口調、
そして極めつきは聖空学園女子高等部の花形、演劇部で男役スター(いわゆる○塚トップスターのようなもの)を務める、
女子高等部で知らない者はいないくらいの同性にモテモテのイケメン女子である。
そんな彼女に容赦なく噛みついてきたのは
美鄕 百合乃(みさと ゆりの)。女子中等部1年からの麗翔の親友で、報道部に所属している。こちらは普通の一般女子生徒である。
「あんた・・・掲示板何も見てないの!? あんなに人集まってるのに!?」
「掲示板・・・?」
呆れる百合乃だが、麗翔は何もつかめない。きょとんとしている親友を見て、百合乃はため息をついて麗翔の腕をつかんだ。
「もう、いい。いくよっ」
「えっ、おい、ちょっと!」
有無を言わさず麗翔の腕をつかんで引っ張っていったのは、正門前の掲示板。
多数の女子が群がっていたが、麗翔が来たと分かった途端、
「麗翔様よ!」
と誰かの一声で、サッと人が避けて道を作る。
これ幸いと百合乃はそのまま突き進み、掲示板の前まで行くと、バンッと叩く。
「これを見なさい!」
「なっ・・・なんだよ・・・」
指し示された先には、こう書かれた張り紙があった。
『3年A組 園宮 麗翔
上記の者は 4/5 15時 に 大学部 学生自治会室に出頭のこと
聖空学園大学 学生自治会 』
「な、なんだこれ・・・?」
「何って、『四天王』からの呼び出しよ!」
「し、『四天王』・・・?」
「ま、まさかあんた知らないのっ!?」
相変わらずきょとん顔の麗翔に、目を丸くする百合乃。
すると、今まで黙っていた道を作った女子生徒たちが騒ぎ始めた。
「麗翔様! 四天王の皆様とお知り合いなのですかっ!?」
「どんな用件でお呼び出しされたのですか!?」
「えっ、いや、私は何も・・・」
「あーっ、もうっ ここじゃだめっ 来なさい、レイ!」
「あっ、ユリっ・・・」
麗翔は再び百合乃に腕を引かれ、連れてこられたのは部室棟の、百合乃の所属する報道部が割り当てられている一室。
「はぁ・・・あんた、その様子じゃ何も知らないみたいだから一から説明してあげる。」
「あ、あぁ・・・」
「この聖空学園が中等部・高等部は完全男女別、大学部だけ共学ってシステムなのは知ってるわよね?」
「あぁ。」
「それじゃあ、去年まで男子高等部のトップに君臨してた『四天王』の存在は?」
「いや、だから『四天王』っていうのが分からないって・・・」
「その人間離れした美貌とカリスマ性で中等部時代から頭角を現し、高等部に上がった途端生徒会執行部の座に3年間座り続け、
そして高等部在籍中に、大学部の学生たちによる自治組織、学生自治会の中枢に据えられることが決定していたトンデモな4人のことをそう呼ぶの。
そいつらからあんたに呼び出しがかかったってわけ。」
「ちょ、ちょっと待て。じゃあその『四天王』とやらは大学部なんだろ?
高等部の私とは何も関係ないじゃないか。」
聖空学園はエスカレーター制で、中等部と高等部は生徒会や部活が統合されていたりと関わりがあるが、
大学部はシステムが共学に変わってしまうこともあって、関わりはかなり薄い。
「だから『何やらかしたの』って聞いたの! 四天王はこの4人よ、見覚え無い?」
そう言って百合乃が4枚の写真を並べる。確かに、その4人は全員怖いくらいの美形揃いだ。
「えー・・・? うー・・・あー・・・あーーーーーーーっ!!」
写真を見て、首をひねる麗翔・・・が、突然何かを思い出したように声を上げた。
「・・・思い当たる節、あるの?」
「この前、部活に遅れそうで慌てて走ってたとき、通り道に人だかりが出来てて・・・」
「・・・あんたまさか・・・」
「人多すぎて端っこ通れそうになかったから、そこ突っ切って通ったんだ。その中心に・・・いた・・・かもしれない。」
「・・・完璧それね。それで目つけられたのよ。はぁ・・・やっかいなことになったわね・・・」
ため息をつく百合乃に、麗翔がむくれて言う。
「な、何でだよ、私ちゃんと『悪い、急いでるんだ、通してくれ』って言ったんだぞ!」
「それが問題なのよ。こいつらにとって自分たちのことを気にも留めず通り過ぎていく女子なんてあり得ないの。
女子は全員、自分たちを見ればときめいて、足を止めて、群がる。そういうもんだと思ってるの。私だって実物目にしたらただ見てるのが精一杯よ。
だからあんたがやった行動はあり得ないの、それで目つけられたの!」
「そ、そんな大げさな・・・」
「大げさじゃないわよ。しかもこいつら、表向きはネコかぶってキラキラしてるだけだけど、全員性格に難有りなの。
私が実物前じゃ言えないけど、こうして裏じゃ批判的にしてるのはそれが理由。報道部でいろいろ噂は入ってくるしね。」
「は、はぁ・・・」
「呼び出されちゃったもんはしょうがないわ。回避しようがないから、注意だけしてあげる。」
「え・・・」
何故か気合い十分の百合乃は、写真の一番左端、茶髪短髪で優しげに微笑んでいる男を指さす。
「これが星矢 涼聖(ほしや りょうせい)。会計担当。二つ名は『王子』。」
「王子? っていうか二つ名?」
「まぁ、主に報道部だけど、四天王の裏の顔を知ってる人たちが使ってる若干イヤミもこめた通称よ。
写真見ても分かるでしょ、普段はこうしてニコニコ王子様スマイル。でもその実イタズラ好きで性格ひん曲がってるって噂よ。」
「はぁ・・・」
「次。」
次はその右隣。色素の薄い、銀髪に近い少し長めの髪。パッチリとした瞳の男だ。
「これは蓮城 斗夏(れんじょう となつ)。書記担当。二つ名は『姫』。」
「ひ、姫ぇっ!?」
「このかわいい系の容姿からよ。でも中身は何でも自分の思い通りにならないと気が済まないただのワガママ。」
「は、はぁ・・・」
「で、次が特に気をつけるツートップよ。」
そうして二枚の写真を同時に出す。
「こっちの長めの髪で、ウェーブの掛かったちょっと青みのある黒髪に切れ長の瞳。
これが水凪 鈴羽(みなぎ すずは)。二つ名は『女王』の副会長。
黒髪短髪、いかにもデキる男って感じのこれが朝月 颯夜(あさづき そうや)。二つ名は『帝王』で、もちろん会長。」
「こ、今度は『女王』に『帝王』か・・・」
「帝王はそのまま。4人の中でもトップで居続けるカリスマ性と同時にとんでもない俺様。学園は自分を中心に回ってると言って憚らないわ。
女王は恐ろしいほどのプライドの高さと腹黒さ。全ての者を自分に跪かせ、刃向かう者は全て屈服させないと気が済まない。」
「そ、そうなのか・・・。」
百合乃のマシンガンのような説明に、麗翔は引き気味に相づちを打つ。
「とにかく、気をつけなさい。何されるか分かったもんじゃないわ。」
「あー、ありがとう、ユリ。でも私さ、ほら、こんな感じだし、女だと思われないから・・・」
「レイ! あんた、確かに口調とか性格とかはまぁあれだけど、容姿に関してはS級、いい加減自覚持ちなさいって言ってるでしょ!」
「はいはい、気をつけるよ・・・」
その後もヒートアップする百合乃をたしなめた1日だった。
・・・そして冒頭の場面。
呼び出しの日になったので、麗翔は学生自治会室とやらの前に来ていた。
自分たちの通う聖空学園が頭のおかしい金持ち学校ということは重々承知しているつもりだったが、
その金持ち色が大学部になると中高と比べて跳ね上がるということを、
今日嫌と言うほど実感させられている。
(何なんだよ、この馬鹿みたいな扉・・・)
だがしかし、このまま立ち尽くしていて時間を過ぎてしまったら、それこそ『遅刻だ』何だと責められるネタを増やしてしまう。
麗翔は意を決して、ドアを叩いた。
コンコンッ
「し、失礼しま~す・・・っ」
入った瞬間、目に飛び込んできたのは優雅に座る超絶美形たち。
「おや。誰だ、お前は。」
ジロッと目を向けてきたのは
(女王・・・か。確かに・・・)
その一声、顔つきからプライドの高さが伺える。
「あ、あの・・・呼び出しされた園宮麗翔ですけど・・・」
恐る恐る名乗る麗翔に、女王・・・鈴羽が吐き捨てるように言う。
「あぁ。あの失礼な女ね。せっかく忘れていたのに思い出したらまた不愉快になってきた。」
「う・・・(我慢、我慢っ・・・)」
「あのあとスズちゃん荒れに荒れて大変だったもんねー。」
「そうそう。颯夜まで不機嫌になったから自治会室の雰囲気最悪(笑)」
(姫に・・・王子・・・そして・・・)
「ほーらっ 颯夜。も一度この娘の顔見たくてあんな派手な呼び出しかましたんでしょ?
何か言ったら?」
執務机に座り、麗翔の位置から横顔しか見えない角度で座って書類に目を落としていた男が、涼聖に促されて正面を向く。
(っ・・・こいつが・・・帝王・・・)
美形である上にオーラがものすごい。瞳に射貫かれた瞬間、さしもの麗翔も怯んだ。
「よ、呼び出されて来ました。園宮麗翔ですけど、用件は?」
「鈴羽に言われて思い出したろう。あの時の俺たちに対する無礼な振る舞いを謝罪してもらおうと思ってな。」
不遜に言い放つ颯夜に、麗翔は我に返って反論した。
「はぁっ!? お言葉ですが、会長。あの時私は一言断ってから通りました。というか、
あんな道のど真ん中で通行妨害してる方が問題だと思います。
だから、私に謝罪を強要するのは不適切です!」
麗翔の毅然とした態度に、四天王は色めき立つ。
「おおっ」
「うわぁっ♪」
「へぇ・・・」
「ほぉ・・・どうしても謝罪する気はないと?」
「・・・ありません。」
「ここで謝れば俺たちがお前に良い思いをさせてやると言ったとしても、か。」
あまりの上から目線に、麗翔は取り繕うのを忘れて言い捨てた。
「・・・ない。悪いけど私、他の女子と違ってあんたたちに興味ないから。」
「ここで謝らなければ後々ひどい目に遭う・・・と忠告してやってもか。」
「くどいな、お前。ないって言ってるだろ!」
「ククッ そうか・・・ならば・・・仕方ないな。」
ニヤッと笑ってそう言うと、颯夜は立ち上がり、麗翔に近づく。
そしてその刹那。
「な、なんだよ・・・んっ・・・」
なんと麗翔に口づけをした。
しかし、この後の麗翔の反応は4人の予想とは異なるものだった。
パシィィンッ
「っ・・・」
麗翔は抱き寄せられる前に颯夜の体を引き離すと、目一杯の力で颯夜の頬を平手打ちした。
向き直った颯夜の目に飛び込んできたのは、ポロポロと涙を流す麗翔。
「お前・・・」
「っ・・・最低だっ・・・」
涙を流すままそう言って、麗翔は部屋を飛び出していってしまった。
残された4人。
「うっわ、何あの子強烈・・・いろいろすごすぎて頭ついてかないんだけど。」
「すっごいね、そーちゃんに負けなかった子なんてっ」
盛り上がる涼聖と斗夏を尻目に、鈴羽がクスクスと笑う。
「クスクスッ いいザマ。」
「黙れ鈴羽。」
「初めてでしょ。女に引っぱたかれるなんて。それに・・・キスで女がオチなかったのも、
嬉し涙じゃなくて嫌悪の涙なんか流されたのも。」
「うるさい鈴羽。」
「それで。どうするの。まさかこのままみすみす見逃すつもりじゃないんでしょ。」
「当然だ。」
叩かれた頬を撫でながら、怒りに満ちた笑顔を浮かべる颯夜。
「絶対に俺たちの『モノ』にしてやる・・・あの女・・・」
「何々、久々本気モード?(笑)」
「うっわー、そーちゃんこわーい♪」
「そうこなくちゃね。」
麗翔の波瀾万丈な日々が始まろうとしていた・・・。