※先日、作品番号のズレが発覚したため、
番号を訂正しました。こちらの26話は新作になります。
「ひーくんっ 遊園地行こっ」
10月も半ばにさしかかった頃、洲矢が仁絵にニコニコ笑顔で話しかけた。
「・・・遊園地?」
「夜須斗の母さんが割引券大量にもらったんだとさっ」
怪訝そうな顔をする仁絵に、惣一も駆け寄ってくる。
「・・・嫌だって言っても連れてかれんだろ。」
「当然!!」
つばめが満面の笑みでずいっと近寄ってくる。
「はぁ・・・」
仁絵はやれやれと溜息をつくが、その表情は柔らかかった。
その週の土曜日。
約束通り、5人は遊園地に来ていた。
「うわぁぁぁっ すっごぉぉぉぃっ」
「ひっさびさだなぁ、遊園地とか!!」
「うんっ 僕初めてっ」
「はぁっ!? 洲矢、お前来たこと無いの!?」
目を輝かせる洲矢に、仁絵が驚きの声を上げる。
惣一がうなずく。
「それもあって、みんなで来ようってなったんだ。」
「よぉーしっ 最初はジェットコースター行っくぞぉっ☆」
「おぅっ」
「あっ、待って!!」
駆け出す惣一とつばめ、そしてそれを追いかける洲矢。
その3人の後に、
初っぱなのハイテンションに呆れ顔の夜須斗と仁絵がついて行く。
「ハハ・・・つーかなんで奇数で遊園地なんだよ・・・
俺誘わなきゃ4人だったろ」
素朴な疑問を口にする仁絵に、夜須斗がさも当然のように言う。
「何バカ言ってんの。5人で来ることに意味があるんでしょ。
だいたい、仁絵がいないと洲矢も悲しむよ。」
「はぁ?」
「相変わらず仲良いじゃん。高原教室後、更に仲深まったんじゃない?」
「あぁ・・・わけも分からず懐かれてるよ。」
「まんざらでもないんでしょ。」
ニヤリと笑う夜須斗に、仁絵はあきれ顔で返す。
「夜須斗、お前なぁ・・・」
「おい、お前ら早くしろよーっ!!」
「置いてくよーーーっ!!」
話し込んでなかなか進まない2人に
業を煮やした惣一とつばめが怒鳴ってきて、
2人の会話はここで途切れた。
そこからは怒濤のアトラクションラッシュだった。
ジェットコースター、急流下り、フリーフォール、バイキングといった絶叫系では、
終始惣一とつばめがハイテンション。
クールな2人はそのまま普通に乗っていたが、
意外だったのは洲矢が割とこういう系に強かったこと。
一通り絶叫系を回ると、観覧車、迷路、
お化け屋敷(これはもう仁絵と夜須斗以外大絶叫で収集つかず、
出てきた後に「もうお前ら二度と入るな!」と仁絵が疲れで叫んでいた。)、
メリーゴーラウンド、ゴーカート、コーヒーカップ、回転ブランコなど
遊園地の定番、メルヘンチックな穏やかな乗り物(一部を除く)も回り、
閉園時間の午後7時にはアトラクションを全制覇していた。
「あー!! 久しぶりに遊びまくったーーーっ」
「楽しかったねっ 洲矢がこんなにノリいいと思わなかった♪」
「すっごい楽しかった 皆初めて乗ったしっ」
「ハードだったな・・・」
「だな・・・」
そして、惣一が指揮を執る。
「っしゃぁっ 帰るかっ
このまま余韻に浸って街に繰り出そうぜーっ!
・・・っていってもいいけど・・・」
「今日はいいんじゃん? さすがに疲れたしっ」
「だな。よし、帰るぞー!」
「おーっ!」
こうして、5人は久々の5人での楽しい時間を満喫し、帰路についた。
途中、惣一・つばめと、仁絵・夜須斗・洲矢に分かれる。
惣一とつばめは、家がかなりのご近所なのだ。
「じゃあなっ」
「また月曜日ねっ」
「あぁ。」
「バイバーイ!」
「おう。」
そして、また途中で夜須斗が別の道に分かれた。
「じゃあ、お疲れ。」
「おう。」
「またねっ」
最後に仁絵と洲矢が分かれる。
「あ、ここで別々だね」
「あぁ・・・送んなくて平気か?」
「平気平気っ あと5分くらいだよ?
ひーくん、子供扱いしすぎっ」
むくれる洲矢に、仁絵が苦笑する。
「そうだな、悪ぃ。じゃ、またな。」
「うんっ バイバイ!!」
「送れば良かった」と仁絵が後悔することになるのは、
ここから数分後の話だった・・・。
~洲矢side~
仁絵と分かれて、角を2つほど曲がった時だった。
あと1つ、この細い路地を抜けて角を曲がれば自宅のある通り。
そんな時・・・
「おいお前・・・さっきまで女王様と一緒にいたやつだよなぁ?」
突然、背後から見知らぬ柄の悪い高校生くらいの不良たちが
ぞろぞろ出てきて、洲矢を取り囲んだ。
洲矢は怯えて後ずさる。
「!! な、何・・・? 知らないっ 『女王様』なんて人っ・・・」
「とぼけんじゃねぇっ!!
柳宮寺仁絵・・・女王様だ。さっきまで一緒に歩いてたろっ!」
「痛いっ!!」
1人の不良が洲矢の両手首を掴んで持ち上げ、
リーダー格らしき男が洲矢の髪の毛を掴み上げて顔を上に向けさせる。
「お前の面・・・どこかで見たことあると思ってたら、
前に女王様に大切にかばわれてたヤツだろ?」
この不良が言っているのは、もう1年近く前になる出来事。
仁絵が父親とケンカしたクリスマス騒動の時のことだ。
仁絵の名を不用意に呼んで絡まれた洲矢を、仁絵が助けたあの出来事。
おそらくこの不良たちはその時仁絵にぼこぼこにされた中にいたのだろう。
「あの時も、この前の女王様ご乱心の時も。
一方的にこちらをボコしてくれちゃってよぉ・・・」
「・・・っ」
「俺たちも黙ってやられっぱなしってわけにはいかねぇだろうが。
だからよぉ・・・女王様の大事な大事なオトモダチ。
てめぇには・・・女王様を釣る餌になってもらうぜ。」
「っ・・・やっ・・・はなしてっ! はなし・・・うぐっ」
叫ぼうとする洲矢の口の中に無理矢理ハンカチが詰め込まれ、
しかもその上から不良の1人の手で完全に口がふさがれる。
そして押さえられていた両手首はそのまま後ろ手に回され、拘束された。
荷物は取り上げられ、中身を漁られ、
リーダー格の男が洲矢の携帯を手にしてニヤリと笑う。
「連れてけ。」
洲矢はそのまま声も出せず、抵抗も出来ない状態で歩かされ、
自宅とは全く違う方向の路地に消えていった。
その後をリーダー格の男がニヤニヤと笑みを浮かべながら歩いていく。
そして数分後には、洲矢と不良たちがいた路地は、
人気がなく閑散として、何事もなかったかのように静けさを取り戻していたのだった。