「それじゃあ、3人ともこのベッドに向かって立って。履いてる物を全部下ろす。」
「「「はい・・・」」」
3人が返事をして素直にベッド前に向かっていく。
そして、多少ノロノロとしながらも、3人とも履いているものを下ろした。
「うん。そしたらベッドに手をつく。・・・うん、それでよし。
良い? そのままの体勢で聞いてね。
これから、まず靴べらで20回ずつ。
カウントはしなくていい。
声をあげてもいいけど、
手をベッドから離したり、片足でも床から浮かせたり、
膝を床についたりしたら、その時点でアウト。
それから、俺の質問にちゃんと答えられなかったり、
お返事できなかったらアウト。分かった?」
「「「はい・・・」」」
「よし。それじゃあ・・・」
そう言うと、3人の後ろで、スッと風丘が動いた気配がした。
風丘は、左端で姿勢を取った夜須斗の背中に手を添えた。
「1。」
静かな風丘のカウントの声が室内に響く。
そして、次に響いた音は、横の2人が耳をふさぎたくなるような音だった。
ビシィィィンッ
「っぁあ!」
瞬間、夜須斗のただついていただけの手が、目一杯シーツを握りしめた。
膝がくずおれかかったものの、何とか持ちこたえる。
風丘はそれを確認すると、隣の惣一に移った。
ビシィィィンッ
「ってぇぇぇぇっ!!」
惣一も同じように絶叫しながら、何とか耐える。
耐えるしか選択肢はないから。
次はつばめ。
ビシィィィンッ
「いたぁぁぁぃっ・・・ふぇぇ・・・」
既に泣いていたつばめは、
この痛みでまた泣き声を上げる。
それでも体勢は何とか保った。
一巡目が終わり、風丘はまた夜須斗の元に戻った。
「2。
ねぇ、吉野。
吉野は今回のことでいくつ、悪いことしたかなぁ?」
「え・・・」
ピトッと靴べらがあてられ、夜須斗が戸惑う。
すると、風丘が微笑んで続きを促した。
「良いよ。言って。」
「その・・・禁止物の花火持ち込んだこと、花火やったこと、
消灯時間守らなかったこと、水池・・・先生の書類、盗み見したこと・・・」
「うん。大体正解。」
ビシィィィィンッ
「ってぇぇっ・・・」
「他2人も大体同じだよね。書類の盗み見以外。
新堂。花火で叱られるのこれが初めて?」
「ち、違う・・・います・・・2回目です・・・」
「そうだね。」
ビシィィィィンッ
「ぎゃぁぁっ」
「誰がまた花火しようなんて提案したのかな? 太刀川。」
「ぼ・・・僕と・・・惣一・・・」
ビシィィィィンッ
「あぁぁぁんっ」
「そっか。まぁ、予想通りかな。
で、先生たちを出し抜く計画を立てたのは吉野だね?」
「・・・はい・・・」
「・・・3。
吉野。具体的な悪いことはちゃんと分かってるみたいだけど、
根本的なことが・・・そうだね、2つかな。答えられてないんだけど。
何だか分かる?」
風丘に問い掛けられるも、痛みで頭がいっぱいで冷静に考えられない。
「・・・・・・・・・・・・わか・・・りません・・・」
「そっかぁ・・・」
ビシィィィィンッ
「くうぅぅっ・・・」
「新堂は?」
「・・・わかりません・・・」
ビシィィィィンッ
「うぁぁぁぁっ」
「それは残念。太刀川は?」
「・・・ふぇぇっ・・・わかりません・・・」
ビシィィィィンッ
「ふぁぁぁぁんっ いたぃぃぃっ・・・っ・・・」
「太刀川?」
「あっ・・・ふぇっ・・・ごめっ・・・なさいっ・・・」
足をドンドン踏みならそうとして、
すんでの所で風丘に呼ばれて踏みとどまった。
が、本人はもうダメだと思ったのか、
泣きながら早くも「ごめんなさい」を口にした。
「クスッ・・・今のはセーフ。でも気をつけないとね?」
「ふぇっ・・・はい・・・」
風丘は微笑みながらそう言って、
ポンポンとつばめの背中をあやすように叩くと、
決まった動きのように、また夜須斗のもとに戻る。
「4。1つはさっき俺が言ったよ。吉野なら分かるはず。」
「え・・・と・・・」
そうは言われても、お尻に靴べらをあてられ、
この張り詰めた空気の中では分かるものも分からない。
そう言いたくても言えず、夜須斗は頭をフル回転させる。
すると、風丘が助け船をくれた。
「分からない? これでお仕置きされるのは何回目なんだっけ?」
この言葉で、やっと夜須斗はひらめいた。
「やっ・・・約束!
もうしないって前の花火の時の約束・・・破った・・・」
「正解。よくできました。」
絞り出した夜須斗の解答に風丘はニッコリ笑うと、
再び靴べらを振り下ろした。
ビッシィィィィンッ
「ったぁぁぁぁっ!!」
一際強くなった痛みに、夜須斗もたまらず今まで以上に声を上げた。
それでも、精神力で何とか体勢は崩さなかった。
「それで新堂。俺、前の時に何て言ったっけ?
花火をしちゃいけない理由。」
「へ・・・?」
「新堂には確実に言ったはずだよ。あの時、何で俺は怒ったの?」
「それは・・・えー・・・その・・・ちょっ・・・待っ・・・考えるっ・・・ますっ・・・」
「クスッ 落ち着いて。それじゃあ質問変えるよ。
今日、前の時みたいに花火が暴発したら、どうなったと思う?」
「ど・・・どうなるって・・・怪我とか・・・するか・・・あっ!」
風丘の質問への答えを口にして、ようやく惣一は気がついた。
「分かった?」
「火遊びは・・・危なくて・・・怪我とか、その・・・命に関わる・・・」
「そう。その通り!」
ビッシィィィィンッ
「っぎゃぁぁぁぁっ!!」
「惣一!」
「ついてないっ! いや、ついてない、ですっ」
くずおれかけた惣一を見て、隣のつばめが声を上げる。
惣一は、反射的に膝を伸ばし、必死でアピールした。
確かに、すんでの所で膝は床にはつかなかった。
あまりにも必死なその様子を見て、風丘はまた微笑んで言った。
「大丈夫。ちゃんと見てるよ。そのままね。
太刀川。しかも今回は、山の中だよね。
花火が暴発したら、どうなったと思う?」
「え・・・ど、どうなるって・・・」
「周りは木がいっぱいだったよね。
そんな中で花火が飛び散ったら?」
「も・・・燃え移って・・・火事に・・・」
「そう。そしたら、皆の命だけじゃないよ。
一緒に来てる他の皆も、俺たちも、全員の命が危なくなったかもしれない。」
ビッシィィィィンッ
「うぁぁぁんっ!!」
「大げさだって思うかもしれないけど。
でも、そうならないって保証はどこにもないよね。
命を粗末にする、命を危険に晒すようなことは絶対にしちゃダメ。
・・・5。
吉野、分かった?」
ビシィィィィンッ
「ったぁぁぁっ・・・は、はいっ・・・」
「新堂。」
ビシィィィィンッ
「いてぇぇぇぇっ!! はいぃ・・・」
「太刀川は?」
ビシィィィィンッ
「ふぁぁぁぁんっ!! はいぃぃっ」
「そしたら、言うことあるよね?
6。吉野?」
ビッシィィィンッ
「んぁぁぁっ・・・ぅくっ・・・ごめっ・・・なさぃっ・・・」
「新堂。」
ビシィィィィンッ
「いてぇぇぇぇっ! うぅ・・・ごっ・・・ごめんなさいっ」
「太刀川。」
ビシィィィィンッ
「ふぇぇぇぇっ! ひくっ・・・ぅくっ・・・ごめっ・・・ごめんなさぃぃっ」
「・・・よし。今のところみんなイイコだねー。
あと14回。もう質問はしないから、頑張って耐えるだけでいいよ。」
「「「はい・・・」」」
ただただ早く終わって欲しくて、3人は返事をした。
「うん。それじゃあいくよ。7・・・」
こうして、規則正しく、靴べらが3人のお尻に振り下ろされた。
本当に風丘は、夜須斗の前にカウントを言うだけで、何も喋らなかった。
3人は3人で、姿勢を崩したり抵抗すればその時点で終わりなので、必死だ。
声を上げることで痛みを発散させようとしたり、
シーツを、手が白くなるくらい力いっぱい握りしめたり・・・
そんなだから、いつもの減らず口も、抵抗することも全くなく、
ただ淡々とお仕置きは進んだ。
そして、最後の1発・・・
「20。」
ビッシィィィンッ
「うぁぁぁぁっ! っく・・・ふぇ・・・」
ビッシィィィンッ
「っぎゃぁぁぁっ! ぅぇっ・・・いってぇぇ・・・」
夜須斗、惣一の2人は涙ぐみながらも何とか耐えた。
そして、最後のつばめ。
ビッシィィィンッ
「あぁぁぁぁんっ!」
「「つばめ!」」
その瞬間、見守っていた夜須斗と惣一が焦って声を上げた。
一瞬、ほんの一瞬だが、
つばめが手をシーツから離して、お尻に回そうとしてしまった。
本人は無意識だったのだろう。
2人に名前を呼ばれて気がついて、その途端、パニックに陥っていた。
「ふぇっ・・・ふぁぁぁんっ・・・やだぁっ・・・かざおかぁっ・・・
ごめんなさい、ごめっ・・・お灸やだぁっ・・・やだぁぁぁっ」
はじかれたように大泣きするつばめ。
それを見て、風丘がかけた言葉は・・・
「落ち着いて。太刀川。大丈夫だから。・・・太刀川。」
という優しいものだったが、
恐怖がピークに達しているのか、つばめには届いていない。
「やだぁっ・・・やだぁっ・・・お灸こわいぃっ・・・」
さすがにこれには困ってしまったのか、
風丘は髪の毛を掻き上げて苦笑いした。
「あーあ。最後にもうちょっとお膝の上で泣いてもらおうと思ったのになぁ・・・
こんなに泣かれたら出来ないじゃない。
つばめ君、ほら、もう大丈夫。お仕置きおしまいっ
惣一君と夜須斗君も。体勢崩して良いよ。」
その言葉にようやくつばめは顔を上げる。
「ふぇ・・・おしまい・・・? お灸、しない・・・?」
「しないしない。だからもうそんなに泣かないの。」
「ふぇぇ・・・ふぁぁぁぁんっ こわかったぁぁぁっ!!」
今度は安心しての涙が止まらない。
風丘はもう苦笑しつつ受け止めるしかなかった。
「あーあー、もう・・・困ったなぁ・・・(苦笑)」
そんな中、残りの2人もへたり込むようにベッドにうつ伏せになった。
「お・・・終わった・・・」
「マジで死ぬ・・・無理・・・もう無理・・・ありえねー・・・」
そんな2人を見て風丘はクスッと笑うと、
つばめを同じようにベッドにうつ伏せに寝かしつけ、
3人のお尻に冷やしたタオルをのせた。
「うぁっ」
「ぎゃっ」
「ふぇっ」
たじろぐ3人を見て笑いながら、風丘はつばめの横に腰掛ける。
「それにしても、今日はほんとにイイコでお仕置き受けれたねー
びっくりしちゃったよ。」
「あんたがお灸なんて物騒なもん持ち出すからじゃん・・・
なんでんなもん持ってるわけ・・・」
夜須斗が恨めしそうに机に置かれた藻草を見ると、風丘はさらりと言った。
「あれは、初日の夜に別の買い出しで街まで行ったときについでに買ってきたんだよ。
お仕置き用に。」
「はぁっ!? なんで初日の夜に・・・」
「あんたまさか・・・俺らが花火やろうとしてること・・・」
「知ってたよ? 最初から。」
「「はぁぁぁぁっ!?」」
「えぇぇぇぇっ!?」
あまりにあっさり断言されて、3人は声を上げる。
「そりゃ分かるでしょ。あれだけ手荷物の中から火薬の臭いがしたら。
台紙とかついたままのパッケージごとだと隠しにくいから出したんだろうけど・・・
それが裏目に出たね。」
その言葉に、惣一はむくれて言う。
「持ち物検査の時点で分かってたんだったら・・・っ
その場で没収すれば良かったじゃねーかよっ」
「だって前に花火であんなにお仕置きされたのに、
それでも持ってくるなんて、よっぽどやりたいんだなって思ったから。
だから、やらせてあげたんだよ。
そういうわけで、森都はわざわざ言わなかったみたいだけど、
見回りの時間、夜須斗君がせっかくメモってたヤツ、関係なかったんだ。
今日の夜は最初から森都に見ててもらって、
花火も最初から最後まで森都に陰で監督してもらってたから。」
「なっ・・・」
「んなっ・・・」
「じゃ、じゃあお仕置きがこーんな厳しくなったの、風丘のせいじゃんっ」
「そんなことないよ? 没収でも、罪状そんなに変わらないじゃない。
花火を持ち込んでる時点で花火をやる気は満々なわけだし。
同じお仕置きで泣くことになるんだから、
だったらやらせてあげようっていう俺の温情。」
「わけわかんねー」
「ほんとだよ・・・」
「うんうん・・・」
「クスッ それにしても、お灸があんなに効くとは思わなかったねー。
あんなイイコでお仕置き受けられたの、初めてじゃない?」
クスクス笑う風丘に、3人はムスッとする。
「るさい・・・」
「ドS・・・」
「本気で怖かったんだからね・・・」
「これから毎回動いたらお灸、ってことにしようか。
そしたら俺すっごいお仕置き楽ちんだしっ」
「「「はぁぁっ!?」」」
「なーに? そもそもお仕置きされるようなことしなければ良いんでしょう?」
「「「っ・・・」」」
返す言葉無く、3人が言葉に詰まる。
すると風丘はそんな3人を見てプッと吹き出して撤回した。
「嘘嘘。今日はさすがに怒ってたからねー。
普段のイタズラのお仕置きくらいじゃお灸なんて言わないよ。
でも、またこーいう危ないオイタしたときは・・・ホントに使うからね?」
最後だけ、またスッと無表情になって言い放つ。
「「「っ・・・は・・・はいっ」」」
焦った3人は慌てて返事をした。
それを聞いて、風丘は笑顔で3人の頭を撫でる。
「ん! 3人ともイイコだねっ(ニコッ)」
ちなみに、これはタオルを取り替えに風丘がバンガローを出て行ったときの
3人の会話。
「最初のお灸とか出してきた時の風丘、あれガチギレだったんかな・・・」
「さぁ・・・あんなこと言ってるようじゃ、演技かもね。
でもさ、どっちにしろ・・・」
「怖かったよねぇ・・・ 心臓凍るかと思った・・・」
「あいつの無表情怖すぎんだよ、
しかも、無表情かと思ったら突然笑ったりしてさぁ・・・」
「何にせよ、花火・・・ってか火使うのはもう無しだな・・・」
「「同感・・・」」
風丘に翻弄されっぱなしで、火遊びもさすがに懲りた3人なのだった。