~風丘のお仕置き~
「はい、3人ともそこに気をつけっ」
風丘のバンガローに連れてこられた3人。
風丘は部屋の中のベッドに座ると、自分の目の前を指し示す。
3人はおとなしく風丘の目の前に立った。
逆らえそうにない雰囲気だった。
3人は、共通してあることを感じ取っていた。
「で? 何か言い訳は?・・・ないよねー、そっか。ないんだー」
「・・・っ・・・風丘っ・・・」
「何? 言い訳あるの?
まぁ、花火やるのに言い訳なんてないよね、
ごめん、聞いた俺が悪かった。」
「いや、そうなんだけど・・・そうじゃなくて・・・」
「なんでっ・・・」
3人が感じ取っていたこと。
それは・・・『風丘が予想以上に怒っている』こと。
霧山と、仁絵や洲矢と一緒にいた場ではそう感じなかったのだが、
3人と風丘だけになった途端、ひしひしと感じたのは怒りのオーラ。
普段のいい加減な雰囲気とは違う。
言葉の端々にトゲがあり、
ニコニコしながらも目は全く笑っておらず、
たまに無表情になるのが怖すぎる。
「どうせ新堂あたりが
『あの時のリベンジ』とか言って持ちかけたんだろうけど。
よりにもよってこんなの山の中で、夜中で、火遊び?
ふざけるのも大概にしてよね。」
「だ、だって・・・」
「前の時にあんなに甘いお仕置きだったからいけなかったんだよね?
新堂。」
「なっ・・・!! あれのどこが甘っ」
「だって、大事なこと忘れちゃってるみたいだもんね?
吉野や太刀川も。光矢は言葉足らずだから、伝わってなかったのかな。
でも、お仕置き厳しくしてもらったつもりなのに、
懲りてないみたいだね?」
「そっ、そんなことないよっ」
慌てる3人を尻目に、風丘は恐ろしいことを言い出した。
「フー・・・そんなに火遊びが好きなら、
お仕置きにも火、使おうか?」
「は? な、何言って・・・」
そう言うと、風丘は立ち上がり、
自分の荷物の中から、ゴソゴソと何かを探し当て、取り出した。
そして、手に取られている物を見て、サッと青ざめたのが1人。
「か、風丘・・・それは・・・ヤダ・・・」
「お、おい、夜須斗?」
突然狼狽えだした夜須斗を見て、惣一が驚いて、風丘を見る。
風丘は、微笑んで問いかけた。
「クスッ 珍しい。吉野がそんなに青ざめるなんて。
されたこと、あるの?」
「じいちゃんに昔・・・小学生の頃・・・手の甲に・・・」
「そう。新堂たちも名前くらい聞いたことあるでしょう。
これ。お灸だよ。」
そう言って風丘が手に持っている物を3人に見せる。
それは藻草の袋と線香だった。
「お、お灸って、草みたいなの置いて火をつける・・・」
「正解。言ったでしょう? 『お仕置きに火使う』って。
まぁ、医療用だし、健康のために使われるくらいだから全然熱くないけど、
お尻ペンペンした後のお尻にやったら、効くんじゃない?」
「「「!!!!????」」」
まさかの言葉に3人は絶句。
特に、経験のある夜須斗の狼狽えぶりは過去にないくらいだった。
「じょ、冗談でしょ、
俺、手の甲にされた時だって死ぬほど熱かったんだけど!
んなことされたら本気で死ぬっ・・・」
「言ったでしょ。医療用。死んだりしないよ。」
いつもクールな夜須斗の取り乱した様子に加え、
『お尻を叩かれて更にお灸をされる』『火を使う』というワードに、
経験が無くとも、無いからこそ恐怖が増大したのか、
つばめはすでに泣き出した。
「ヤダ・・・ヤダよぉっ そんなの怖いぃっ
風丘やめてぇっ そんなことしないでぇっ」
しかし、風丘は冷たく突き放す。
「俺や光矢が『もうしないで』って言ったことを、3人は無視したじゃない。
約束守らないで、
自分たちのお願いだけ聞いてもらおうなんて思ってるの?」
「ふぇっ・・・」
無表情な顔から放たれた、その声のあまりの冷たさに、
つばめは更に泣き出した。
「ふぇぇぇんっ」
「つばめ・・・風丘・・・ほんとに・・・それだけは・・・」
泣きついてきたつばめを見て、夜須斗も悲痛な声で風丘を見やるが、
風丘はただ首を振って一言言うだけ。
「ダーメ。」
「っ・・・」
この状況に、さすがの惣一も心が折れ、
いつもの勢いはなりをひそめていた。
「風丘ぁ・・・俺らが悪かったから・・・その・・・お灸とかいうのは・・・」
「ここで止めて、俺が甘やかすから、
新堂はお仕置きされたこと忘れちゃうんだよね?」
「っ・・・」
無表情から一転、笑顔でズバリ言われ、返す言葉が無い。
3人共何も言えなくなってしまい、
バンガローの中はつばめがたまに漏らす泣き声と鼻を啜る音が響く以外は、
沈黙に包まれる。
「・・・そんなにお灸が嫌なら、チャンスをあげる。」
沈黙を破ったのは、風丘だった。
「どっちにしろお尻ペンペンのお仕置きはするからね。
そのお仕置きを、俺の言うこと聞いて、最後までイイコで受けられたら、
お灸は無しにしてあげる。
でも途中で駄々捏ねたり反抗したり、悪い子だったら・・・
分かってるよね? それで良い?」
3人がコクコクと必死に首を縦に振る。
が、風丘は温情を見せたかと思うと束の間。
「ちゃんとお返事も出来ないの。
それじゃあ到底最後までイイコでなんていられないね。」
冷たく言われ、3人は焦って口を開く。
「「「は、はい!」」」
「お仕置き。俺が言った内容で良いの?」
「「「はい!」」」
「・・・今のはおまけだからね。」
3人は顔を見合わせてホッと胸をなで下ろすも、
一瞬たりとも気が抜けないことに、焦りと恐怖を感じたのだった。