その夜。
バンガローの中・・・ではなく、少し離れた河原に5人はいた。
時刻は夜の11時半を回ったところ。当然、とっくに消灯時間だ。
なぜ、ここに5人が集まったのかというと・・・
「っしゃ!! やるぜ花火~~~~っ!!」
「イェェェェイッ!!」
「ちょっと、騒ぎすぎるとバレんだけど。」
以前、散々な目にあった花火をリベンジしようと、
前々から話し合って、今日、実行したのだった。
スタンツが成功したテンションのままに、
惣一とつばめは浮き足立っている。
「でも、大丈夫なのかよ、んな堂々と抜け出して・・・」
前回の花火の失敗について、
話だけ聞いて混ぜられた仁絵は若干ついていけず、
今回も計画を立てた夜須斗に聞く。
「大丈夫。ちゃんとこれ。メモってきたから。」
そう言って、夜須斗は一枚のメモを見せた。
「んだよこれ・・・」
メモには、時刻と先生の名前が書かれている。
「先生たちの見回りの担当割り振りと時間。
初日、バタバタしてた時に、
どさくさに紛れて水池のファイルの中から原本見てメモったんだ。
初日夜、2日目夜、どっちもメモの時刻通りに、担当の先生たちが見回りしてた。
今日も、1回目は消灯時間の10時、
2回目は11時にちゃんと見回りが来たから、信憑性はあるでしょ。
で、今日は次の見回りは夜中の1時半。それまでに戻れば、問題ない。」
夜須斗が少し得意げに説明する。
「夜須斗、すごいね!」
洲矢は、素直に感心したようだ。
が、仁絵は少し呆れ気味。
「そーまでして花火がしたいのかよ・・・
っていうかそもそもよくこんな花火、持ち込めたよな・・・」
前回ほどでないとはいえ、5人で手分けして荷物に忍ばせた花火は、
5人で1時間半ほどやるには十分すぎる量だ。
「風丘は自分が荷物検査したくないから、
甘くなることはわかりきってたでしょ。」
「まぁ、それはそうだけど・・・」
「ったく!! ぐだぐだ言うなよ、仁絵!
花火、やらねーのかよっ」
「んなこと言ってねーだろ・・・」
「夜須斗もひーくんもやろっ」
先に混ざっていた洲矢が、夜須斗と仁絵に手持ち花火を差し出す。
「あぁ。」
「やるか。」
2人が受け取り、こうして5人は楽しく花火を満喫した。
1時間半はあっという間に過ぎ、時刻は間もなく1時。
締めの線香花火も、惣一が真剣に持っている1本でラストだ。
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・うっわ、落ちた!!」
「あーあ、惣一6回もやって1回もダメ~」
悔しがる惣一を、つばめが笑う。
夜須斗も苦笑しながら、
惣一の持っている儚く散った線香花火を取り上げる。
「ほら、惣一。そろそろ時間だから諦めな。片付けて・・・」
すると、5人の背後から突然声がした。
「そうですね。
ちゃんと片付けたら、私のバンガローに来てもらいましょうか。」
「「「「「!!!!!」」」」」
不意に聞こえたその声は、
5人を天国から地獄へ突き落とすものだった。
5人が一斉に声のした方へ振り返る。
その声の主は、木陰から懐中電灯を点けて現れた。霧山だった。
「葉月もお待ちかねです。(ニッコリ)」
「んでだよっ 見回りの時間、夜須斗がメモったのにっ」
霧山の姿を見て一瞬固まっていた惣一が、
我に返って悔しそうに噛みつく。
すると、霧山は微笑んで解説を始めた。
「あまり夜須斗君を責めないであげてくださいね。
彼はとてもいい線いってましたから。」
「・・・どういうこと。何で分かったわけ。」
夜須斗も、少し悔しさをにじませながら、上から目線の霧山を睨む。
「メモを盗むのではなく、書き取ったのは正解ですね。
そしてそれを、一番バタバタする、初日の到着直後にしたのもお見事。
ターゲットを、私や葉月ではなく、
こういう場に慣れておらず、
いかにもキャパシティが限界だったであろう水池先生にしたのも
素晴らしいチョイスでした。」
「・・・」
さらりとひどいことを言う霧山だが、誰も触れない。
「そう、方法、手順は完璧でした。失敗は何一つ無かった。
だからそう言う意味で『いい線いってる』と言ったんです。」
「何でバレたのか、説明になってないよ。
俺に失敗が無かったっていうなら・・・っ」
「えぇ。失敗はありませんでしたよ。
見回りは貴方のメモした通りに行われました。
『今日の2回目まで』は。」
「なっ・・・!?」
その言葉に、夜須斗が目を見開く。
「今日の見回り。最初の2回目までメモ通りの時刻に見回りが来れば、
『この情報は正しい』と判断すると思いました。
だから、2回目まではメモ通りの時刻に見回りを行い、
3回目。メモ上では1時半に行うことになっているはずですが、
それと2回目の間に、私と葉月が自主的に見回りを行ったんです。」
「でも、昨日までは全部この時刻通りだった・・・」
「おや、見回りの時間全て起きていたんですか。イケナイ子ですね。
えぇ。確かに、昨日までは全て時間通りに見回りをしていましたよ。
おそらく貴方たちは最終日の夜まで、
特に行動は起こさないだろうと私も葉月も踏んでいましたから。」
「何で・・・?」
「貴方たちはスタンツの練習にかなりの力を注いでいたそうじゃありませんか。
他に取り組まなければならないことがある状態で、
一応覚悟を決めて取り組まなければならない別のこと・・・
まぁ、言ってしまえば教師の目をかいくぐって
規則違反を実行することは無いと思いました。
ですから何かやらかすなら、スタンツ発表が終わった最終日の夜だと。」
「くっ・・・」
完敗だ、と夜須斗が下を向いて唇を噛む。
「まぁ、強いて言えば私と葉月の目をかいくぐろうとしたことが
そもそもの失敗ですね。
さぁ、説明も済んだところで皆さん、バンガローに戻りますよ。」
「そ、そうだよっ 僕たち、バンガローに戻って寝なくちゃ・・・」
「『私の』バンガローです。(ニッコリ)」
「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
つばめの必死の一言は一蹴され、5人はおとなしくついていくしかなかった。
「さぁ、どうぞ。」
霧山に促されて渋々バンガローに入ると、
中では風丘がイスに座って待っていた。
「クスッ やっぱり期待を裏切らないね、みんな。」
「っ・・・」
「しかも性懲りもなくまた花火?
まぁ・・・リベンジ、ってところだったのかな。」
風丘はスッと惣一に目を向ける。
見つめられた惣一は、ふてくされたようにそっぽを向いた。
「フンッ 悪いかよっ」
そんな惣一の態度に、風丘はフッと笑って言い放つ。
「別に。でも前のお仕置きで全然懲りてないことがよーく分かったよ、新堂。」
「うっ・・・」
「子どもだけで火遊びしちゃダメってあんなにきつーく言ったのにね?
太刀川。」
「しっ・・・
「知らない、なんて言うの? ものすごい大泣きしたって光矢から聞いたのに。」
「そっ・・・それはぁ・・・」
「吉野も。またこんなくだらないところで悪知恵使って。懲りないね。」
「・・・」
「もちろん、再犯じゃないとはいえ、佐土原と柳宮寺もね。
悪いことだって分からないはずないでしょう?」
「ごめんなさい・・・」
「っ・・・」
「べっ・・・別にいーだろっ 高原教室くらい、羽目外したってよぉっ」
惣一の悪態に、霧山が答える。
「えぇ。だからすぐ止めないで花火、最後までやらせてあげたじゃないですか。」
「え・・・」
「高原教室の思い出に、ね?」
風丘が笑ってウインクしながら言う。
「だったら、お仕置きもなくしてっ・・・」
「それはダーメ。」
「んだよっ 風丘の馬鹿!!!」
「ハイハイ。さぁ、それじゃあ始めようか。
前回あんなにお仕置きしたのに懲りなかった悪い子たちには、
とびっきりキツイお仕置きしてあげなくちゃね。」
「げぇっ・・・」
「うっ・・・」
「ん~~~っ」
途端に顔をゆがめる惣一、夜須斗、つばめ。
「新堂、吉野、太刀川が俺ね。俺のバンガローに移動するよ。おいで。」
が、これで焦るのは3人だけではなかった。
「ちょっ・・・待てよ」
仁絵が、焦ったように風丘を呼び止める。
が、風丘はとぼけたように受け流した。
「ん? 佐土原と柳宮寺も、もちろん免除じゃないよ。
森都にちゃーんとお仕置きされなさい。」
「だっ・・・だけど俺っ・・・」
仁絵も食い下がる。
だって、自分は・・・、そう言いたげな目で風丘を見るが、
風丘はニッコリ笑って、こう言うだけだった。
「大丈夫だよ。ねぇ、森都?」
「えぇ。承知しました。こちらは任せてください。」
なぜか分かり合っているような2人に、解せない仁絵ばかりが焦っている。
「なっ・・・おい!!」
「はいはい、3人は行くよ~」
そう言うと、まだ納得のいっていない仁絵をスルーして、
風丘は3人を追い立てて出て行ってしまった。