前回お話ししましたように、
王様であるブルーム王は、たいそうフォーレを大切にされています。
ハーレムの他の女性に全く興味を示さないどころか、
本分であるはずの政治にすらあまり興味を示さないのです。
それについては、他の貴族の方々、大臣職の方々も呆れているようでした。
しかし何せお相手は王様ですから、下手に口出しすることはできません。
そこで、国の金融機関を預かる金融大臣のベルジャンは、
ある人物に相談しました。
それは、王様より6歳年上で28才の、
この国で王様と対等に口を利ける唯一の存在と言っても過言ではない、
王のいとこで相談役のローブルでした。
ローブルは、昔から暴走しやすい猪突猛進な王様を、諫める役だったのです。
一応彼も王族で、身分はほぼ王様と同等ということもあり、
ブルーム王とローブルは小さい頃から何かと一緒にいることが多く、
ブルーム王が王として即位してからも、相談役として傍に置いていました。
ブルーム王はローブルをとても慕っていて、
ローブルの前では口調も崩してリラックスすることができるのでした。
しかし、ブルーム王にとって年上のローブルは最も頼りになる存在であると同時に、
唯一頭の上がらない存在でもあるのです。
「ローブル様、どうにかしてください!」
「なんだいベルジャン金融大臣。
ガラじゃないよ、そんな泣きそうな顔して部屋に駆け込んでくるなんて。」
「最近の王様の行動は、目に余ります!
今日もフォーレ様のお部屋に入り浸っておられるのですよ!?
目を通していただかなければならない書類はごまんとあるというのに!」
「あーあー、分かった分かった。そうがなりなさんなって。
噂には聞いてるよ、最近、フォーレ様とラブラブしすぎだってね。」
「ら、ラブラブって・・・・」
ローブルの唯一の欠点ともいえるのは、このノリの軽さでした。
王族とは思えないぐらいのこのノリの軽さが苦手な者も多く、
ローブルの周りには滅多に大臣職の者達は近づかないのです。
「で? 自分たちじゃブルームにはっきり言えないから、
俺にどうにかしろってんだろ? OK、OK。
最近、確かにちょっとやり過ぎっぽいからね。
あーあ、前に一度言ったのに・・・仕方ない。
俺からブルームにはきつーいお灸・・・じゃなかった、
『厳重』注意しとくよ。仕事くらいしっかりしろってね。」
「ほんとですか・・・?」
「なんだよその疑いの目・・・
いつも言ってるけどそう疑うなって。大丈夫。
100%、ちゃんと仕事させるから。保証する。」
「・・・・そうですか。お願いしますよ、ローブル様。」
ベルジャン大臣はまだ少し疑いを持ちながらも、部屋をあとにしました。
「さて・・・・じゃあ、困ったさんな王様の躾に参りますか。」
ローブルは伸びをすると執務室をあとにし、
ブルーム王がいるであろうフォーレの部屋に向かいました。
コンコンッ
「・・・・・はい。」
部屋からフォーレの透き通った高い綺麗な声で返事が返ってきました。
「フォーレ様、そちらに王様がいらっしゃいませんか?」
「え、あ、はい・・・・いらっしゃいますけど・・・」
フォーレがそう答えると、
ドアが開き、そこから王様が出てきました。
「どうしたんだい、ローブル。
めずらしいじゃないか、そっちから俺を探しにくるなんて。」
「フォーレ様の前でまで口調を崩すのはどうかと思いますが?」
「・・・今更だろう。そんなこと。」
「・・・まぁ、いいか。少し、用事があるんだよね。
ちょっとラブラブタイム終了してくれない?」
「え?」
「ちょっと来いって。
フォーレ様、少し、王様お借りしますね。」
「・・・・え、は、はい・・・・」
「お、おいちょっとローブル!」
ローブルは部屋を出た王の背中を押して、
王の寝室まで連れて行くと、そこに入りました。
「なんだい、ローブル。用事って。」
「ベルジャン金融大臣に言われたよ。
最近のブルームの態度。
フォーレ様のことばっかりで、仕事なんて全くしないって。」
「・・・・え?」
「だから、どうにかしてくれって。」
「ベルジャンが? ローブルに・・・?」
「あぁ。」
話を聞いて、ブルーム王はだんだん青ざめていきます。
「ほんと・・・?(汗)」
「なぁ、ブルーム。俺、前にも1回言わなかったっけ?
『女遊びも良いけど職務を疎かにするな』ってさ。」
ローブルがさっきの軽いノリから一転して険しい顔になり、
王も危機を感じたようで、目線がだんだん下がっていきます。
「ベルジャンだけじゃなくて、大臣職みんなが困ってるってよ。
あんだけたくさんある国の機関、
お前のわがままで全部ノロノロ運転なんだぜ?」
「そ、それは・・・・」
「昔から言ってきたよな。『2度目はない』って。
最近甘ったれてきてるみたいだし。久しぶりにお仕置き。」
ローブルの宣告に、ブルーム王は顔を引きつらせました。
実は、とうの昔、王がローブルと出会った10歳ぐらいの時から、
まだ即位して間もない17、8ぐらいの時までは、
国政をないがしろにした、王の権限を利用したわがままが過ぎる、と
大臣達にいちいちローブルに報告され、
その都度「お仕置き」を受けていました。
しかし、もう王は二十歳を超えているのです。
もちろん、嫌悪、ためらいの気持ちはあるようで、
「ちょ、ちょっと待ってくれ。俺は22なんだけど・・・・?」
と反論しました。
しかし、
「それがなんだよ。王であるのに国そっちのけで女にはしるなんて、
ただ好きなことしかやらないお子様と一緒だろ?」
と一蹴されてしまいます。
ローブルは部屋にあるローテーブルを指さして、
「ほら、早くここに手つけよ。とっとと終わらせたいだろ?
ああ、回数増やされたいならこのまま口答え続けても良いけど?」
と言って王を急かし、にやりと笑いました。
ブルーム王は、ここでこれ以上抵抗しても良いことはない、と
少年期の刷り込みで学習しているようで、
おとなしく従うことにしました。
ローブルの前では「王の権限」なんて全く通用しないのでした。
「よし、・・・・まぁ、二十歳超えてるってのは考慮してやるよ。
・・・これ使うけど、下着の上からな。」
そう言って、どこから取り出したのか、
かなりしなる竹の棒を目の前で軽く振りました。
ヒュッと空を切る音がします。
「どこが考慮してるんだ、
下着の上からだなんて言ったって脱がすんじゃないか。
それに笞だって・・・」
とたまらず王はまた反論しますが、
「何言ってんだ、じゃあ俺の膝の上で平手でお尻ペンペンされたいわけ?
昔みたいに?」
とローブルに言われると
「うっ・・・・」
と言葉に詰まります。
「本当なら今のも口答えにカウントするとこだけど?
まぁ、次からな。それじゃ、そろそろ行くか。」
ローブルはおもむろにブルーム王の着ていたスラックスを下ろすと、
竹の棒を持ち、一発目を振り下ろしました。
ピシィィィンッ
「くぁっ・・・・」
「なぁ、前にも言っただろうが。」
ピシィィィンッ
「うぁぁっ」
「お前は王なんだよ。
俺みたいな相談役とか、ルディーみたいな薬剤師とかでもない。
王だろ。」
ピシィィィンッ
「いぃぃっ!」
「王はその国の未来を預かってる。
国政だって治安維持だって、お前が動かねぇと進まねぇんだ。
そのこと分かってんのか?」
ピシィィィンッ
「くぅぅっ・・・わ、分かってるよ・・・それくらい・・・
耳にたこができるくらい聞かされてきたじゃんか・・・」
「なら、分かっててやってんだ? そりゃあタチが悪いねぇ。」
ピッシィィィィンッ
「いたぁぁぁぁっ」
今まで一定だったのがいきなり痛くなり、
王は耐えられず悲鳴をあげました。
ただでさえ、久しぶりすぎて痛みに慣れていないのです。
そこに強烈な一発が打ち込まれれば、
我慢しろという方が無理でした。
「・・・大臣達といると息がつまるんだっ
しょうがないだろ、昔から政治や議会なんてものに
興味などないんだからっ」
「・・・そんなの知ってる。
お前に政治覚えさせるのにこっちがどれだけ苦労したか。
でもなぁ、だからやらねぇんじゃほんとにお子様だろ?」
ピッシィィンッ
「っぅっっっ」
「いいか、これが最終勧告だ。
これでまた悪い噂聞こえてきたら問答無用で膝の上、
泣いて謝るまで許さないからな。」
ピッシィィィィンッ
「うぁぁぁっ! わ、分かった! 分かったから!」
「・・・よし、とりあえず終わり。」
やっと解放され、ブルーム王は崩れ落ちます。
「ったぁ・・・絶対みみず腫れになってるし・・・・」
「自業自得だよ。
まぁ、泣いてないんだしほら、早くフォーレ様のところに行ってやれ。
置いてけぼりだろ?
フォローしたあとは、ちゃんと仕事しろよ。
サボったぶん、たんまりあるらしいぜ?」
「・・・・・ほんと? はぁ・・・・・」
そんなやりとりでローブルに送り出されたブルーム王、
しばらくは政治もちゃんとするでしょう。「しばらく」は・・・