とある日の学活の授業。

「はーい、みんな! 学活始めるよーっ」

「なんでそんなにテンション高いんだよ・・・」


いつにもましてニコニコ笑顔の風丘に、

惣一が嫌そうな顔をする。
が、風丘は慣れたようにスルーし、話を続けた。


「今日はねっ きたる9月末に行われる、

中2最大のイベント、高原教室の

概要説明と班分けをしますっ☆」


風丘の声に、盛り上がるクラス一同。
いつもの5人組はというと、

先ほどの態度は一転、惣一やつばめもはしゃいでる。

洲矢もニコニコ。
仁絵と夜須斗は、ため息をつきつつめんどくさそうな反応。


「えーと。じゃあ、まず班分けねー。

5人班で、男子3人女子2人か、女子3人男子2人か。」


「チェッ やっぱ男女混合か・・・」


惣一がため息をつく。

男子だけが有りだったら、

いつもの5人で班になれたのに・・・と。


「はいはい文句言わない! 

じゃあとりあえず、

男子同士女子同士でグループ作ってみよっか。」


風丘の指示で、おのおのグループを作り始める。
惣一たち5人も、相談を始めた。


「どーする?」

「どーするって、別に・・・誰とでも良いし。」

「確かに・・・」

「よーし、じゃあここは平等に・・・グーパーで!」


つばめが宣言し、5人、せーのでグーパーを出す。
そこで決まったグループ分けは・・・


「わーっ、ひーくんと一緒だぁ☆」

「おぅ。」


仁絵と洲矢、


「これ、完全に俺お守り役の立場じゃない?」

「何だよそれっ」

「いーじゃんいーじゃん♪」


夜須斗、惣一、つばめのグループだった。



その後、

女子グループとの組み合わせが行われ、班が決定した。

そして、それが一段落すると、風丘が日程の説明を始める。


「えーと、初日はバスで山梨県のキャンプ場まで行って、

着いたらバンガローに入って、

夕飯に飯ごう炊さんでカレーを作ります。
で、夜は肝試し。

2日目は日中はオリエンテーリング、夕飯はバーベキュー。

夜にフォークダンスとスタンツ。これは後で説明するね。

それで3日目、バンガローの掃除をして帰りますっ
班で動くのは、夕食作りと、オリエンテーリングと、肝試し。
バンガローは当然だけど男女別だから、

今からその割り振りも決めてほしくて・・・
バンガローは1つに5人ねっ」


これは迷う余地なく、惣一たちが5人で固まる。
それを見て、風丘が苦笑。


「うわぁ・・・分かってたけど、そこ、不安しかないね(苦笑)」


「失礼なっ」
「そーだそーだ!」


惣一やつばめが膨れる。


「ごめんごめん。じゃあ、信じてるからね。

もし何かオイタしたら・・・分かってるでしょ?」


風丘はそう言って、人差し指で惣一の額をツンッと突く。


「っ・・・分かってるよっ」


「クスクスッ 

俺よりこわーい人が来ちゃうかもだから、気をつけないとね?」


「風丘より・・・」
「怖い人?」


それを聞いた夜須斗と洲矢が首をかしげる。


「こっちの話だよ。

・・・はーい、みんな、振り分け決まったー?」


人差し指を口に当ててそう言うと、

風丘は教卓の方に戻ってしまった。


「そんなやつ・・・いたか?」
「いないでしょ。」
「だよなぁ・・・」


惣一とつばめは首をかしげ、


「・・・」
「夜須斗、心当たりあんのかよ?」
「いや・・・」


夜須斗と仁絵も思案する中、


「・・・風丘先生、いつもはそんなに怖くないよね?」
「「「「・・・」」」」


ちょっと考えどころがずれている洲矢であった。




「はーい、それからキャンプファイヤーについてね。

フォークダンスは、これから学活の時間で練習があります。
曲は、オクラホマミキサーと、マイムマイムと、

コロブチカと、タタロチカと、ジェンカ。」


「多っ・・・」


「で、次にスタンツね。

これはまぁ・・・言っちゃえば、何でも有りの出し物。
曲を流す設備とマイクだけ
はこっちで用意できるから、

それ以外は各自で準備して、当日発表。

キャンプファイヤーをやる広場に、

簡易のステージがあるからそこで。
クラスで3グループ出さなきゃいけないんだけど・・・」


・・・ということで、2グループ、女子の組が出た。
となると、求められるのは男子グループ。


「よし、じゃあ、あと1グループは、男子から出そっか。」


こうなると、元来目立ちたがり屋の彼が黙っているはずがなく。


「しょーがねーなっ 俺らが出てやるよっ」


と、上から目線で惣一が手を挙げる。

が、聞き捨てならないのは・・・


「おい、惣一。俺『ら』って・・・」


「いつもの5人でなっ!」

「わーい♪」
「はぁ・・・」
「ゲッ・・・」
「クスクスッ・・・」


こうして、内容盛りだくさんになりそうな、

惣一たちの高原教室は動き出したのだった。





翌日から、毎日が大わらわだった。

(主にフォークダンスとスタンツ練習)



~フォークダンスの練習~


「フォークダンスとか、たっる・・・」

「右に同じ~」


だるそうに動く惣一やつばめたちに、

風丘があっさり爆弾投下。


「はーい、やる気無い子は

放課後俺とお部屋でマンツーマンで練習だからねっ☆」


「ゲッ・・・」

「うっわ・・・」


嫌々ながらも5人が真面目にやったのは言うまでもない。




~スタンツの練習~

「っしゃー! 何にすっかっ」


「ダンスがいーなっ 

フォークダンスみたいじゃなくて、かっこいいやつ!」


放課後。

集まった5人の中で、惣一とつばめがノリノリで切り出す。
夜須斗と仁絵は若干引き気味。


「ったく・・・勝手に決めないで欲しかったんだけど。」

「マジでやんの?」


「あぁ? やんだよ、5人で! もっとテンション上げろよっ」


「はぁ・・・しょうがないな・・・」


最初に折れたのは、付き合いの長い夜須斗だった。


「諦めた方が良いよ、仁絵。

こう言ったら聞かないから、こいつら。」

「はぁ? ったく・・・」


仕方なく、仁絵も輪に加わる。


そんな中、遠目で見ていた洲矢が恐る恐る口を開いた。


「あのー・・・」


「ん? 何だ洲矢。」


「僕トロくて運動音痴だから・・・難しいダンスは・・・」


うつむき加減にシュンとしてそう言う洲矢。


「あっ・・・でも、惣一たちがやりたいの、やっていいよっ 

俺出来なかったら、応援するしっ」


無理して言ってるのがバレバレな態度に、

惣一は笑って洲矢の元に歩み寄り、肩を組む。


「・・・なーに言ってんだよっ お前も一緒に決まってんだろっ」


「でっ、でも僕ダンスなんてっ・・・」


「出来る出来るっ ジャニーズ系とかの簡単なの選べばいいんだよっ
ダンスだけじゃなくて歌も入れればショボくないし盛り上がるしっ」


ノリノリのつばめも加わる。


「はぁ!? 歌までやんの!?」


まさかの展開に口を挟む夜須斗に、

つばめがびしっと人差し指を立てて言う。


「とーぜんっ 

だいたい夜須斗も仁絵も、

歌上手いんだから文句言わないっ」


「俺は何も言ってねーよ・・・っていうか洲矢。

お前別に運動音痴じゃねーじゃん。」


とばっちりを食らった仁絵が顔をしかめながら、

未だシュンとしている洲矢に話しかける。


「で、でも、僕体育の時間とかで

いつも惣一とかの足引っ張ってるし・・・」


今の体育で、惣一と洲矢はバスケで同じチームなのだ。
それを聞いて、仁絵はため息をつく。


「あのなぁ・・・あの野生児体力馬鹿2人と比べんな。」


「だっ、誰が野生児・・・」

「っていうか、僕入れないでよっ 

洲矢、惣一のことしか言って・・・「あいつらは、」


「別。洲矢だって平均的に見たら運動できる方だと思うぜ?」


「そ、そんなこと・・・」


「だいたい、高原教室のスタンツのダンスに

誰も完成度なんて求めてねーよ。
てきとーに楽しくやりゃいーんじゃね?」


「う・・・うんっ」


仁絵の言葉に納得したか、洲矢もやっと輪に加わる。

ここで、改めて惣一が宣言した。


「とにかくっ 丸く収まったとこでっ とっとと話進めるぞ!!」
「おーっ♪」


この後、高原教室前日まで、

何だかんだがっつり練習してしまった5人なのだった。






そして、ついに高原教室当日。

やはりイベントと言うことで、

周りは皆浮き足立ち、少なからずテンションがあがっていた。

特に、この2人も・・・


「ついに来たぜ!」
「わーい♪」


「朝っぱらからテンション高・・・」
「そーそー」

「クスクスッ」


盛り上がる惣一とつばめを遠目で見ながら、

夜須斗と仁絵があきれ顔。
洲矢は楽しそうに笑ってる。

そんな5人組に、

この場には似つかわしくない人物が話しかけた。


「そうですよ。

そんなにはしゃいでたら肝心のイベント前に疲れちゃいますよ?」


「その通り・・・ってはっ!? なんで霧山・・・」


声の主に驚いて振り返った夜須斗の目に飛び込んできたのは、

この学校で司書を務める、風丘の旧友の霧山の姿だった。


「わーっ 霧山先生だぁ♪」


「えぇ、おはようございます。(ニッコリ)」


霧山とは一番仲良しの洲矢が笑顔でやって来る。


「でも、なんで霧山先生がいるの?」


「俺が頼んだんだよ。正確には、ちょっと違うけど。」


そこでひょっこりと出てきたのが風丘だった。


「人手が足りなくて、

ほんとは光矢に補助を頼んでて、OK貰ってたんだけど、
なんか休めない学会が入っちゃったらしくて、
それで光矢が代わりに森都に頼んだからって・・・」


「へぇー、いいわけ? 図書館ほったらかしにして。」


それを聞いて、夜須斗が言う。


「まぁ、司書はもともと非常勤で、

毎日出勤しているわけでもありませんし、
上の高校には専任の司書の私以外にも

司書教諭の先生がいらっしゃいますから。
先週や翌週の休日をこちらへ動かしたりして調整すれば、

問題はありません。」


「でもそしたら休日出勤じゃん。

意外と気前いいんだね、雲居の代わりに・・・」


何気なく呟いた夜須斗の感想に、霧山はクスッと笑う。


「クスッ・・・見くびらないでください。

この私が無償で光矢の不手際の後始末をするとでも?」


「「「「「え・・・」」」」」


その瞬間、霧山をまとうオーラが変わった気がして、

心なしか5人が後ずさる。


「不手際って・・・学会だからしょうがないんじゃないの?」


「光矢、葉月には気まずくて言わなかったようですが・・・
学会を休めなかったのは、

日頃あの手この手で学会を休みすぎていたからですよ。」


「え? そうなの?」


「えぇ。ですから、私が代わりとして引率に加わる代わりに、

私の抱えている事務仕事を2,3お願いしてきました。」


「・・・2、3?」


「えぇ。学会の準備と学会自体の時間以外、

ざっと1日10時間程度パソコンに向かえば、

2日ほどで終わる2,3の事務仕事です。
対価として、妥当でしょう?(ニッコリ)」


「「「「「・・・」」」」」


「アハハ・・・」


「黒い・・・っ 黒いオーラが出てるよっ・・・」
「俺だからこいつ苦手・・・」


つばめと惣一がヒソヒソ話す。


「あ・・・じゃあ、風丘先生が言ってた、『俺よりこわーい人』って・・・」

「馬鹿、洲矢っ」


慌てて夜須斗が制止する・・・が、もう遅い。


「おや、葉月。そんなこと言ったんですか?」


穏やかに何気なく話を振る霧山。

それに対して、葉月も何気なく受け答える。


「あー・・・うん、言ったかな。ごめんごめん、冗談だよ。」

「クスクスッ まぁ、かまいませんけどね。」


2人とも表情が読めなさすぎて、

見ている方が気が気じゃない。


「この2人が幼なじみとか、怖すぎ・・・」


呆然とする夜須斗に、

先ほどから全く加われていなかった仁絵が問い掛ける。


「何、こいつ、風丘の幼なじみなの?」


「あぁ・・・」


「前にちょっと話に出たかも。

霧山森都先生。この学校の図書館司書で、

風丘先生の幼なじみなんだよ。」


それを聞いて、洲矢が紹介する。

すると、仁絵の元にその本人が近づいてきた。


「初めまして。君が柳宮寺仁絵君ですね? 

霧山森都です。よろしくお願いします。」


「ど、どうも・・・」


「葉月からお噂はかねがね伺ってますよ・・・」


「フン・・・どうせどうしようもねーとか、ろくでもねーとか・・・」


「『とっても可愛い』と。(ニッコリ)」


「なぁっ!? 風丘てめぇっ!」


あまりのことに、仁絵は顔を赤くして風丘に詰め寄る。


「アハハッ だってほんとのことじゃない。」


「何がだ! 

不良の中学生男子捕まえて

可愛いとかほざいてんじゃ・・・」


「はーい、みんな点呼とるよーっ!!」


なおも詰め寄る仁絵だが、スルッとかわされてしまう。
そして、なし崩し的に点呼が始まってしまった。


そんな賑やかな光景を見て、霧山は微笑む。


「クスッ 楽しい高原教室になりそうですね。」


こうして、ついに大騒ぎの高原教室が幕を開けたのだった。