ある場所に、「ファーブル王国」という王国がありました。
その国は「一夫多妻制」の認められている国で、
この国には『ハーレム』という王様に仕える綺麗な女性たちの集まりがありました。
王様はこの中から数人、気に入った女性を選ぶのです。
この国の今の王様は「ブルーム王」といい、
王といってもまだ22才の若さでした。
外見は肩にかかるか、かからないかぐらいの長さの髪で、鳶色の目。
若くても、王としての品格・威厳は十分に備わっていました。
そして、ハーレムの中の1人に、「フォーレ」という女性がいます。
女性といっても、ハーレムは王様より5歳以上年上の女性は入れない決まりですので、
フォーレはまだ弱冠16才でした。
フォーレはブルーム王にたいそう気に入られ、大切にされました。
ですが、それを気に入らない人たちがいます。
フォーレより年上の、フォーレより先にハーレムに入っていた女性たちです。
彼女たちは皆プライドが高く、
「我こそは王様の本命に」と考えている人たちばかりですし、
その上フォーレがハーレムの一員にしては身分の低い男爵家の出で、
自分たちよりも身分が低いにもかかわらず寵愛を受けている、
ということが気に食わないのです。
何かにつけて聞こえよがしにイヤミを言ったりわざと意地悪をしたり・・・
そんなことが続くものですから、
フォーレはすっかり気が滅入り、病気がちになっていきました。
そんなフォーレを心配してよけいにブルーム王はフォーレにつきっきりになり、
また悪口を言われ・・・と悪循環になっていたのです。
しかし、フォーレの体調がずっと優れないのにはもう一つ訳がありました。
フォーレは、大の薬嫌いだったのです。
ブルーム王が心配して、親友で、もともと王家直属の薬剤師、
ルディーをフォーレにつかせたのですが、
ルディーの座右の銘は「良薬口に苦し」。
その通り、ルディーが作る薬はとても効くのですが
それ以上に苦く、
ただの薬ですらいつもぎりぎりで飲んでいるフォーレにとって、
この薬を飲むことはかなり大変なことでした。
だからいつも、
ハーレムに所属する女性には必ず1人はついている世話係の女性が
出払っているのを見計らって、
薬を飲まずに捨てていて、ろくに飲んでいなかったのです。
お付きの女性は、フォーレはまだ身分が低いため数が少なく、
それだけ分担の仕事も増えて忙しいらしく
あまり部屋に長居することはありません。
それに、お付きですから「1人になりたい」と頼めば出て行ってくれます。
王様が見舞いに来るのもいつも事前に言われていたので
うまく1人になって、この計画は成功していたのです。
この日までは・・・・
「フォーレ様、お薬をお持ちいたしましたよ。」
いつものようにルディーが乳鉢に入った粉薬と薬包紙を持って部屋に来ました。
ルディーは王と同い年の22才。
腰に届くくらいの長髪を紐で結っていて、藍色の目。
物腰柔らかで優しげな雰囲気ですが、怒ると怖いのです。
「王様のためにも早く直して差し上げてくださいね。
ずっとあなたのことを心配なさっているので。 では、失礼します。」
そう言って、ルディーは薬を置くと、部屋を出て行きました。
「(粉じゃなくてシロップとか・・・
せめてゼリーに混ぜたり砂糖を混ぜ合わせてくれればいいのに・・・
でもそんなこと言えないわ・・・
ルディーは怒ったら怖いって噂だし・・)」
ルディーは王とフォーレを担当する以外は、
宮中で子供たちに薬を処方する仕事をしています。
薬の苦さは変わりなく、しかもちゃんと飲んでいないことが発覚すると、
どんなに身分の高い者の子供でも、
容赦なく「お仕置き」するというのです。
(この時代、「お仕置き」と呼ばれるお尻を叩く行為が、
処罰や躾けの一環として当たり前のように存在していました。)
「そんなの・・・恥ずかしすぎて耐えられない・・・でも・・・・」
フォーレは指に粉薬を少しつけて舐めてみました。
「うっ・・・」
しかし、やはり苦いのは相変わらずで、
ほんの少し舐めただけでも身震いします。
「やっぱりダメ・・・」
フォーレは渡された薬包紙に薬を包み、バルコニーに出ました。
フォーレの部屋は城の五階。
眺めの良いバルコニーに出ると、薬包紙を開き、
バルコニーにおいてある植木鉢の土に薬を混ぜ込むのです。
誰も植木鉢に生えている植物は見ても、
根本の土まで注意深くは見ませんから、
今までばれることはありませんでした。
しかし、フォーレはこの作業に夢中になっていて、
ブルーム王の突然の見舞いに気づかなかったのです。
「フォーレ、大丈夫かい?
・・・・・フォーレ? そこで何を・・・・」
「お、王様! わ、わたし・・・えっと・・・」
手には薬包紙が握られて土がついています。
植木鉢の土には白い粉のようなものがみえ、
フォーレのこの動揺・・・・どう見てもフォーレが何をしていたかは明白です。
「・・・とりあえず中に入ろう。手を洗って、それから話だ。」
「・・・・はい・・・。」
少し怒ったような声を出し、
王がバルコニーから中にはいるように促します。
フォーレはそれに従い、部屋に入りました。
部屋にある備え付けの真っ白い陶器製シンクで手を洗うと、
王が腰掛けているクイーンベッドに自分も座りました。
「さぁ、話してもらおうか。バルコニーなんかで何をしていたんだい?
ああ、先に言っておくけど、嘘をついたら後がひどいよ。」
そう言う王の目は笑っていません。
「あの・・・・薬を・・・・植木鉢に・・捨ててました・・・・」
「今日が初めて? それともいつもやってたのかい?」
「その・・・前から・・・・ずっと・・・」
「いつから?」
ブルーム王の追及の手はゆるまりません。
「ルディーが処方するようになってから・・・
だって彼の作る薬、苦いんですもの・・・だから・・・・」
うつむきがちなフォーレを見つめて、
ブルーム王はため息をつきます。
「ふぅ・・・つまり、ルディーが君の担当になってから、
ろくに飲んでなかったってわけか。
そりゃあ、体調も良くならないはずだ。
飲まなきゃ効かないんだから。
ルディーも言ってるだろう?
『良薬口に苦し』って。苦いのはしょうがないことなんだよ。」
「王様・・・お願いですから、ルディーに言わないでください。
ルディーに知れたら・・・・」
フォーレの必死の懇願に、ブルーム王も気づきます。
「ん? ああ、もしかしてお仕置きが怖いのかい?
まぁ・・・ルディーが小さな子たちをお仕置きするのは有名な話だからね。」
「はい。ですから・・・」
「でも・・・・薬を捨てるわ、お仕置きから逃げようとするわ、
本当の子供みたいだね。フォーレ。
ルディーからでなくとも、君は少しお仕置きを受ける必要があるんじゃないか?」
「えっ・・・・」
王の表情が一段と険しくなり、フォーレはひるみました。
そして、次の王の一言は、
フォーレを地獄へと突き落とすような言葉でした。
「フォーレ。わたしもかなり怒っているんだよ。
それに、忘れたかい? ハーレムの女性の躾けも、王の仕事だよ。
フォーレ、今日の君にはお仕置きが必要だ。おいで。」
そう言って、王は自分の膝を叩いて
フォーレにここへ来るようにうながします。
フォーレも、小さい頃は何回か「お仕置き」を受けたことがあります。
でも、ハーレムに入る・・・・つまり成人してから、
王からお仕置きを受けるなんて考えにも及びませんでした。
「お、王様・・・お許し下さい、
次からはちゃんと・・・ちゃんと飲みます。
体調も元に戻しますから・・・」
「ダメだよ。もうやってしまったことなんだから。
じゃあ、ルディーにやってもらうかい?」
「い、いえ! そんな・・・それだけは・・・・」
親しい王からだって嫌なのに、
ただの薬剤師のルディーにされるなんて、耐え難いことです。
「それじゃあ、おとなしくおいで。
わたしがこれ以上怒る前に、素直に来るのが賢明だよ。」
こう言われては、もう仕方ありません。
フォーレは泣きそうな顔になりながら王の近くまで行き、
促されて膝の上にのりました。
「それじゃあ、行くよ。」
フォーレの履いていたスカートをまくり上げて、下着をおろし、
王はそう宣告すると、一発目を振り下ろしました。
バシィィンッ
「っつっ・・・」
「全く・・・・何を考えているんだい、君は。」
バシィンッ
「ああっ」
「せっかく名高い薬剤師のルディーをつけたのに・・・」
バシィィンッ
「いっ・・・」
「薬は飲まなければ効かない・・・当たり前だろう?」
バッシィィンッ
「いたぁぁぃっ」
「フォーレ。わたしは君の体のことを案じているんだよ。
生まれつき体が弱いそうだしね。」
バシィィンッ
「あああっ! ・・・う・・・うぁ・・・・」
「だが、いくらわたしが案じても、
君自身が気をつけないと意味がないだろう?」
バシィィィンッ
「ああああん! も、申し訳ありません・・・・
これからは気をつけますから・・・お許し下さいっ・・・ふぇ・・・・」
厳しい王の平手打ちに、
ついにフォーレは泣き出してしまいました。
でも、これでは終わりません。
「反省したかい? フォーレ。」
バシィンッ
「ああっ は、はい・・・っ」
「じゃあ、最後にちゃんと謝ってご覧。
『ごめんなさい、もうしません』ってね。」
「・・・・・・・・・・・」
あまりの子供っぽいことに
フォーレは恥ずかしさで押し黙ってしまいました。
その様子を見かねた王が言いました。
「言えないのかい?
言えないのなら言えるまでお仕置きだよ。
ほら、もう一つ。」
バッシィィィンッ
「きゃぁぁっ! ふぇぇぇ・・・・わ、分かりました。
謝ります! 謝りますからぁ・・・
ごめんなさい・・・もうしませんっ・・薬、ちゃんと飲みます・・」
フォーレが必死に謝ると、
王はフォーレを抱き起こし、抱きしめました。
「あまり、心配をかけないでくれ・・・
君は、体が人より弱いんだから。
それでなくてもこんなにか細くて
消えてしまうんじゃないかと思うときだってあるのに・・・」
「・・・・・すみませんでした、王様・・・」
フォーレは、こんなに優しい王様に、
こんなに心配をかけてしまったことを心底後悔し、心から謝りました。
そんな時・・・
「・・・・おや、王様・・・・・それにフォーレ様。どうなさったんですか?」
「る、ルディー!!」
ルディーがやってきて、
事のてん末を全て王様によって暴露されてしまいました。
「・・・・・そうですか。それはそれは。
フォーレ様、少し悪さが過ぎたようで。」
「で、でも王様に怒られたのよ、その・・・・」
「お仕置きされたんでしょう。わたしが部屋に入ったときも、
まだ赤いお尻を出されていましたよ。」
「っ・・・・・・・・・・・」
あまりにもストレートな物言いに、フォーレが顔を赤らめてうつむきます。
「・・・仕方ありませんね、今回はわたしからは大目に見ましょう。
でも、これからこんなことがあれば、
いくら王様にお仕置きされても、わたしからもお仕置きしますからね。
・・・まぁ、でも乳鉢を置くだけで
ちゃんと飲んだのを確認しなかったわたしにも非があります。
これからは、飲み終わるまでちゃんとおそばについていることにしましょう。」
「・・・・・はーい。」
フォーレは渋々ながら返事をしました。
「ちゃんと薬を飲んで、早く元気になるんだよ。」
王はそんなフォーレを見ながら笑顔でそう言いました。