一方、風丘は廊下で思案していた。


「はぁ・・・花月ちゃんは丸め込まれちゃうし・・・

このまま粘られたって困るし・・・

無理矢理突破もできなくはないけどねぇ・・・」


と、ちょうどその時、廊下の向こう側から声をかけられた。


「あれ? はーくんっ 何してるの? そんなとこで。」


スクールカウンセラーをしてる海保だった。


「海保・・・ それがねぇ・・・」


風丘は、苦笑混じりに事の次第を海保に話す。




「うわー、それ、惣一もつばめも命知らずだねぇ・・・」


海保が一部始終を聞いて、ポカンとする。


「アハハ・・・で、どーしよっかなーって、考えてたとこ。」


「ハイハイハイ!! 俺、ネゴシエーターやりたいっ」


風丘の言葉に、海保が、勢いよく手を挙げて叫ぶ。

風丘は目を丸くして聞き返す。


「何、海保。そんな難しい言葉どこで覚えたの?」


「むーっ・・・はーくん~~~」


風丘の言葉に、海保がむくれる。

風丘はそれを見てクスッと笑う。


「冗談だよ。

まぁ、ものは試しだからやってみてもらおうかな。」


「あー、はーくん信用してないな! 

大丈夫、ぜーったい開けさせてみせるからっ」


海保は張り切って、携帯電話を取り出し、電話をかける。

受け取ったら、スピーカーボタンを入れる。
つながった先は・・・


“・・・もしもし?”


「あ、惣一? えー、コホン。君たち!

バカなことはやめて出てきなさーい!」


「海保・・・(苦笑)」


“・・・切るぜ。”


「あー、違う違う、ごめん、言ってみたかっただけ・・・
そーじゃなくて! 

ほんとに出てこないと、大変なことになっちゃうってよ?」


“・・・だから何だよ。”


素っ気ない惣一の声に、海保はムッとする。


「うー・・・だいたいね、下校するには部屋出なくちゃいけないんだから、
いずれにしろ・・・でしょ?」


“・・・夜須斗が言ってた。

前に俺たちを夜学校にいさせて風丘が文句言われてたらしいって。
下校時刻まで粘れば、風丘はそっから尻叩く時間ねーだろ”


「夜須斗君ったらまた余計な入れ知恵を・・・」


惣一の言葉を聞いて、風丘はため息をつく。


「今日はそれで逃げられても、明日からどーすんの!
ただの追試サボりだけだったのにお仕置き大変になっちゃうよ?」


“それは・・・っ 後で考える!!”


痛いところをつかれて、惣一が声を荒立てる。

海保は少し満足そうな顔をして、


「後先考えない行動は良いことないぞー 

まぁ、とりあえず。そこで考えときなさい。」


というと、一度電話を切った。

風丘は不思議そうに尋ねる。


「あれ? もういいの? 海保。」


「うん、惣一たちの方はこれでOK.どーせもともと聞く耳持たないし。
本気で説得するのはこっちっ 

ってことで、はーくん、かづちゃんに電話かけて!」


「え・・・う、うん。」


風丘は花月の携帯にかけると、自分の携帯を海保に手渡した。


“・・・もしもし?”


「かづちゃん! 久しぶり~~~☆」


“海保さん!? どーしてお兄ちゃんの携帯に・・・”


ちなみに、先ほどと同様にこの会話も

スピーカーごしに惣一やつばめに聞こえている。


「細かいことはいーからいーからっ
でさ、かづちゃん、

惣一やつばめがお仕置きされちゃうのがかわいそうで鍵開けないんでしょ?」


“だ、だって・・・かわいそうで・・・”


「確かにね・・・

でもさ、今開けてあげないと、2人もっとかわいそうになっちゃうよ?」


“・・・え?”


「2人を今日お仕置きできなかったらね、

はーくん、お仕置きも2日分に増やしちゃうってさ。」


“ええっ!?”


スピーカーごしに聞いていた2人の目の色も、不安げになる。


「2日連続でお仕置きとかぜーったいかわいそうでしょ?
だったら、今開けてあげるのが優しさだって思わない?」


“そ、それは・・・”


「今、下校時刻まであと3時間弱。

今日その間ずーっと2人かくまってたら、
それ、かづちゃんが『明日と明後日2日連続でもーっと厳しいお仕置き受けなさい』って

言ってるのと同じになっちゃうよ?」


“っ・・・”


「2人のこと思うなら・・・ねっ。かづちゃん。」


そう言って、海保は携帯を切った。





そして、部屋の中で。


「・・・開けても良い?」


「うぇ~っ」
「しゃーねーだろ、諦めろ・・・」


つばめはまだ不服そうだが、

惣一も無理があることは結構分かっていたので、渋々諦める。


そして、花月はドアまで行くと、鍵を開けた。


カチャッ


「あの・・・」


「もーっ 花月ちゃん。」


ドアから顔を覗かせた花月が目にしたのは、ちょっと怒った顔をした兄だった。
そして、そのまま耳元で囁かれる。


「家に帰ったら、いっぱいお話・・・だからね。」


「っ・・・お兄ちゃん・・・」


そして、花月が弱い、必殺スマイル。


「逃げちゃダメだよ?」


「っ・・・はい・・・分かりました・・・」


諦めて、花月は返事をする。


「さて。そしてそこの困ったいたずらっ子たちは・・・」


「っ・・・」
「うぅ・・・」


言いながら、風丘は花月と入れ替わりで部屋に入り、ドアを閉める。


「そのままお仕置きタイム突入~☆」


2人にもう逃げ場はなかったのだった。