※注意!!

・これは風丘たちの中学時代の話です。

 風丘たちが叱られる側のため、通常バージョン(惣一たちの話)と違い、
 作中に登場する風丘たちの名前は

 セリフ以外は基本的に下の名前(「風丘」→「葉月」、「雲居」→「光矢」など)と
 なっておりますので、ご了承下さい。

・惣一たちとの話とは全く無関係に進みます。

・ここでは登場する先生がほぼ女性なので惣一たちの話とは違って

 カーはほぼ女性になるのでご了承下さい。






「はーくん~~っ(泣)」

「うわっ! また海保は・・・どうしたの?」


葉月がサボりやいたずらのグループで、

リーダーだということがばれてから数週間。(10話・光矢の回想参照)

今は6月の下旬。

グループのたまり場になっている屋上に、

海保が駆け込んできて葉月に飛びついたのだ。


「反省文・・・」

「え? ああ、花瓶のこと・・・」


今は梅雨まっただ中。

毎日のように、ざんざんぶりではないがしとしと雨が降っていて、
この一、二週間、たとう晴れても

しみこんだ雨水のせいでなかなかグラウンドが復活せず、
使えそうになると雨が降ってまたダメで・・・ということが繰り返され、

まったくと言って良いほど外に出れず、
昼休みに遊ぶことはおろか、

外体育や外の運動部などもろくにできていなかった。

もともと活発な海保は、

室内にしかいられないことに対してストレスがたまり、
我慢できなくなって、

教室で野球ボールを壁にぶつけて1人キャッチボールをしていた。


「おい、海保。あんま調子ノってやってると、なんか壊すで。」

「平気だよ~ ちょっと投げてるだけじゃない。」


光矢の忠告に耳も貸さず、海保はキャッチボールをやめなかった。

しかし、大概こういうときは何か起こるもので・・・・


ガッシャーン


「あーっ!!」


ボールの軌道がズレ、

教員用の机にあった花瓶にあたり、花瓶が割れてしまった。


「あーあ、やってもうたな。俺は知らんで。」

「ええーっ・・・・絶対怒られんじゃん・・・」

「せやから忠告しといたんやないか。」

「だってぇ・・・・・・・・やっぱり僕・・・逃げる!!」

「はぁ!? ちょ、おい! どーなっても知らんで!」


結局、放課後で光矢以外誰もいなかったこともあり、

海保は光矢の制止も聞かずに逃げるように帰ってしまったのだった。

けれど、海保がボールを持っていたのは光矢以外・・・

特に女子にも目撃されており、
その場をしのいだだけではどうにもならなかった。

翌朝、海保は生徒指導主任の金橋に呼び出しをくらい、

さんざんなお説教の末、反省文の原稿用紙を渡されたのだった。





「昼休みの終わりまでに出さなかったらお仕置きだって~(T_T)」

「昼休み・・・・って。今、昼休みじゃない。

あと30分で原稿用紙3枚も書けるの?」

「だからはーくんに助けてって言ったのっ」

「・・・・相変わらずですね、海保は。」

「せやからどーなっても知らんて言うたんや。」
「どうしてこの期に及ぶまで1行も書かないわけ?」


他はあきれ顔だ。


「だってぇ・・・思いつかなかったんだもん・・・でもお仕置きヤだし・・・」

「・・・・しょうがないね、口頭で伝えたのは前やったけど1時間以上かかったし。
貸して、代筆してあげるから。」

「ほんと!?」

「ただし、ばれないって保証はしないよ。

筆跡似せるのにだって限界あるし、どこかしら穴があるんだろうし。」

「やめとき、はーくん。きっとばれてろくなめに遭わんて。

はーくんまでお仕置きされんで?」

「結局どっちにしろ海保は叩かれるんだし、

何にもしないんだったら試した方が良くない?」


葉月は涼しい顔でどんどんと書き進める。

こうやって喋っている間も、鉛筆は全く止まらない。


「ほんま優しすぎるて、はーくんは・・・」

「そう?」

「お人好しって言われないの?」

「うーん・・・たまーに・・・」


そんな特に意味もない会話をしている間に、

驚異的なスピードで書き上げられる反省文。
同じような内容でも微妙にニュアンスを変え、

たった10分で原稿用紙三枚の一番最後の行まで書き終えてしまった。


「はい、これでOK。はやく金橋先生のとこ行ってきなよ。

何度も言うけど、保証はしないよ?」

「うん♪ ありがとっ☆」


海保は、るんるん顔で屋上を出て行った。


「ほんま、大丈夫かいな・・・ 絶対ばれんで、あれは。」


海保が出て行ってから、光矢があきれ顔で言う。


「ばれるね、完全に。ばれるに500円!」
「そんな賭け、誰も乗りませんよ。勝負、決まったも同然じゃないですか。」


魅雪も森都も自信ありげに言う。


「だよねぇ・・・・。 まぁ、その時はその時だよ。

困ってる海保を『自業自得』って言えなかった俺にも問題有るしねぇ。」


「貴方は海保に甘すぎるんですよ。」


森都の指摘に、

海保のあの顔には弱いんだよね・・・と、風丘も苦笑混じりにそう言った。


4人の予想が見事的中するのは、もう少し先の話・・・。










放課後の職員室。


海保から反省文を受け取った金橋は、不思議そうに首をかしげていた。


「・・・・・うーん・・・」

「どうかなさいましたか、金橋先生。」


背の高い若い男性教諭が話しかける。

社会科教師の、日比谷だ。
年が近いこともあり、比較的生徒と仲の良い教師の1人だった。


「反省文がね・・・」

「反省文・・・? ああ、海保のですか。

聞きましたよ、派手に割ったらしいですね。
でも、ちゃんと提出されたみたいじゃないですか。それですよね、反省文。」

「ええ、そうなんだけど・・・・なんかねぇ・・・」

「何か問題でも?」

「波江君にしては、提出が早すぎるような気がしてね・・・

いつもぎりぎり、オーバーしたりして泣きそうになりながらくるのに・・・。」


「・・・・提出早いと怪しまれるんですか(笑)。

でしたら、葉月あたりに一杯食わされたんじゃないですか?
あいつは計算高いし、頭切れるし、やっかいな奴ですからね。」

「まさか。

だってこの筆跡、どう見たって風丘君のあの整った字と同じとは思えないわ。

波江君の字よ。」


金橋は、まだ優等生であった頃の葉月のイメージが離れないらしい。


「そうですかねぇ・・・ 

あいつのことですし、筆跡まねるくらい朝飯前だったりするかもしれませんよ~
そーいう器用な奴、たまにいるじゃないですか。」

「でも・・・・あっ、そうだわ確か前に提出された反省文が・・・」


そう言うと、金橋はどこからともなく反省文を取り出してきた。


「これ、一週間前に大遅刻したときの反省文。

見て、筆跡そっくりでしょ。文体も同じだし・・・」

「ああ、確かに・・・ん? でも、それにしても前の奴の方が汚いですねぇ・・
消しゴム使いすぎで紙すり切れてところどころ鉛筆こすれて黒ずんでますし。」

「言われてみればそうねぇ・・・・・」

「まぁ、海保のことですから、

そんなに巧妙なもんは仕組んでないと思いますけどねぇ。」


日比谷は笑いながらそう言うと、職員室を出て行った。


「何なのかしら・・・・・文体も筆跡も同じなのに、

何か違和感が・・・・・・・・あら?
前のやつのほうは原稿用紙の使い方めちゃくちゃなのに・・・・

今回のは直ってる・・・というより、使い方が明らかに変わってるわ・・・
・・・・・・一週間足らずでこんなに変わるなんてあり得ないし・・・・

少し・・・かまかけてみようかしら。」


金橋はそう決意すると、職員室の放送を使ってこう呼び出した。


「1年の波江海保君と風丘葉月君。至急生徒指導室に来るように。」


それは部活中に流れ、

もちろん部活に参加していたこのことを知っている五人組の耳にも入った。


「そーら来た。」


テニス部で、サーブ練習をしていた葉月が、苦笑しながら光矢にそう言った。


「でもずいぶん早いなぁ。どっかから漏れたんやろか。」

「どこか、ミスがあったんじゃないかなぁ・・・

とりあえず、海保も呼んで行ってくるよ。部長に言っておいてくれる?」

「はーくん悪ないのになぁ・・・どんまい。」

「あはは・・・」


葉月はちょっと困った顔をしながらも、

笑って海保を呼びに陸上部へと向かっていった。




そして、生徒指導室。


金橋、机を挟んでその向かい側に葉月と海保が並んで座っていた。


「単刀直入に聞くわ。この波江君の反省文、風丘君が代筆したのかしら?」

「「・・・・・・・」」


葉月も海保も答えない。


「(80%は確信持ってる顔だよね・・・ どこで感づかれたんだろう・・・・)

どうして、そうなるんですか?」

葉月が態度を決めかねて、探るように金橋に尋ねる。


「原稿用紙の使い方よ。

以前に出された遅刻の反省文と今回の感想文。

原稿用紙の使い方がまるで違うの。
ああ、前回のは生徒指導室でわたしの監視の下に書いたから、

絶対波江君のよね。
特徴的なのは、まず段落の分け方。

前回の方が、やたらと段落替えが多いのよ。
それに、小さい音の字「っ」「ゃ」「ゅ」「ょ」とかの文字。

前回のはその字がマス目の一番下に来たとき、

次の行の一番上のマス目に書いているのに、
今回のはその上の字と同じマス目に一緒に書かれているのよ。

こういうのを、一週間足らずで書き方を変えるわけがないでしょう。

だから、違う子が書いたんじゃないかって思ったのよ。
特に、仲が良くて頭の切れる風丘君かもしれない、ってね。」

「・・・・・」


葉月は、心の底から「しまった」と思った。

海保は、反省文の枚数をクリアするため、

なんとか文字数を稼ごうと、やたらと段落を多くし、
マス目の一番上にくる小さい字を、

その前の行の一番下のマス目にまとめて書かずに上に持ってきていたのだ。
筆跡、文体はまねることが出来ても、その海保の癖まで把握していなかった。


「(これは、言い逃れできないなぁ・・・・。)」


だいたい、海保がギブアップ寸前だ。
目を少し潤ませて、何かを言おうと「あ・・・う・・・」などと口走っている。

そして・・・


「はーくん・・・ごめん・・・・」


ついに海保が白旗をあげた。 

葉月は、いいよ、と答えると、金橋に向かってこの一連の出来事を洗いざらい話した。


「・・・・そういうことだったの。

あなたたち、何を考えているの。こともあろうに反省文の代筆なんて!
反省文はその人の反省した心をあらわすものよ。

それを代筆なんてしたら全く意味が無いじゃないの!
ただ出せばいいってものじゃないのよ。」


金橋はひとしきり言い終わると、こう言った。


「あなた達みたいな悪い子は、良い子にしてあげなくてはね。」


この言葉。それは、大っ嫌いな「あれ」が始まる合図の言葉だった。

この言葉が出た瞬間、海保は手をぎゅっと握り、体を硬くした。
この言葉は、金橋がお仕置きをするときのお決まりのセリフだった。


「まず、波江君からね。

風丘君は、部屋を出て、ドアの前で正座してなさい。」


生徒指導室に入るドアは職員室にある。

つまり、金橋は先生がたくさんいる職員室で正座をしてろ、と言っているのだ。
人に見られて正座、というのはかなり恥ずかしい。


「・・・・はい。」


しかし、葉月は反論せずに、返事をすると部屋を出て行こうとした。
が、そのとき海保が声をあげた。


「なんでぇ!? 結局僕もはーくんもお仕置きされるんでしょ!? 

だったら一緒にやってよ! 僕、1人じゃやだぁ!!」

「うわっ・・・」


そう言うと、まるでだだをこねる幼稚園児のように、葉月の腕にしがみついた。


「な、なに言ってるの、波江君・・・」


金橋はあっけにとられている。


「もう・・・海保。先生が別々に、って言ってるんだからそうしなくちゃ。

それに、海保だって自分がお仕置きされてるとこなんて、

俺に見られたくないでしょ?」

「でもぉ・・・・。」

「わがまま言わないの。ねっ?」

「う・・・・。」

「まぁ・・・・・。」


まるで、子供と親のようなやりとりに、金橋は苦笑した。


「じゃあね。」


そう言うと、葉月は部屋を出て行った。

葉月は、部屋を出ると、素直にその場で正座をして、目を閉じた。
どうせ逃げても職員室の教師たちが証人になってすぐばれるし、

元々海保をおいて逃げる気なんてさらさらない。
それに、葉月が正座しているドアの真ん前は、地田の机なのだ。
今、地田はその机でガラにもなくデスクワークをしている。
実はそれは金橋が事前に頼んで念のためにつけた葉月の監視役だったのだが。
目を閉じたのは、せめて自分に向けられる視線を見ないようにするためだった。


「ほら、波江君早くここに手をついて!」


部屋の中から室内の声が聞こえる。

ということは叩く音もこの先海保の悲鳴も泣き声も聞こえるというわけで・・・。
葉月は、できれば手で耳をふさぎたかった。

だが、そんなことをすれば地田が

「正座してるとき、手は膝の上だろ!」

とかなんとかいってくるに決まってる。
この状況で、地田の機嫌まで損ねていいわけがない。

そう考えた葉月は、仕方なく、
そこから20分弱続いた海保の泣き声・悲鳴と叩く音、

そして金橋の叱責を聞き耐えた。


そしてふいに部屋から


「風丘君! いらっしゃい。」


と金橋の声がした。
葉月が正座をやめて立ち上がったとき、ドアが開いて・・・


「はーくんっっ~(T_T) ふわぁぁぁんっ」


目を真っ赤にした海保が葉月に飛びついてきた。


「海保! ちょ、ちょっと危ないって!」

「痛かったぁ~~~ ふぇぇぇぇん・・・」

「ああ、よしよし。よく頑張ったね。」


葉月は自分もこれから怒られるのに、

どうして慰め役をやってるのか自分でも分からなかったが、
いつものことか・・・。と思い直した。


「ふぇぇぇ・・・」

「波江! 泣きついてないでとっととここに、風丘が終わるまで正座してろ!

風丘は早くいけ!」


葉月から離れる気配のない海保を見て、地田が怒鳴った。
だが、海保は・・・


「やだぁ・・(>_<)」


と、よけいに葉月に泣きついて離れない。


「もう・・・・(よけいなこと言わないで欲しいなぁ・・・)」


葉月はちらっと地田を見ると、

ポケットからハンカチとポケットティッシュを取り出した。


「ほら、海保。涙これで拭いて。

すぐ戻ってくるよ。30分ぐらいでたぶん終わるから。
そしたら、俺と一緒に帰ろう?

だから、そろそろ俺から離れて、ここでちゃんと正座してて? ねっ?」


普通この説得の役割は自分じゃなく金橋や地田にあるんじゃないか、という

一抹の疑問を抱きながら、
葉月はなんとか海保を説き伏せようとした。


「うう・・・・分かったぁ・・・・ 早く・・・戻ってきてよ?(ノω・、)」

「うん。大丈夫だよ。」


海保もやっと折れ、素直に正座した。


そして、葉月は生徒指導室に入った。


「・・・失礼します。お待たせしました。」

「どうぞ・・・・・・ねぇ、あなた達、いつもあんな感じなの?」


金橋が不思議そうに聞く。


「ええ、まぁ・・・幼なじみで、

小学校時代から俺や光矢、森都が保護者みたいな感じですから。」


風丘が苦笑しながら答える。


「・・・そう。

・・・・・・さぁ、じゃあ波江君を1人で長く正座させてるわけにもいかないでしょ。
理由も分かっているんだし、

とっとと履いてるものを膝まで下げてここに手をつきなさい。」


持ってる指し棒でソファーに合わせた高さに作られたローテーブルを指した。


「・・・・・・・・はい。」


葉月にだってプライドがある。

先生の言われたとおりに、自分から制服のズボンと下着を下げて、
叩いてくださいと言わんばかりに机に手をついてお尻を突き出すなんて行為、
とても平常心でやれるものではなかった。
でも、金橋が言ったように海保のこともあるし、

ここで抵抗して無理矢理下ろされたり、
そのことで更に怒鳴られたりなんかしたらそれこそ今以上に惨めな気分になる。

そう自分に言い聞かせ、葉月は自分を奮い立たせて履いているものを下ろし、
机に手をついた。


「風丘君は波江君より素直ね。あの子は抵抗して大変だったわ・・・」


金橋はそう言いながら、

ピトピトと金属製で、小指ぐらいの太さの指し棒を裸になった葉月のお尻にあてる。


「あなたは波江君の巻き添えを食った、って状況だけれど、結局は同罪よ。

しっかり反省してもらわないとね。」


ピシィィンッ


「・・・・っつ!」


その言葉とともに、葉月のお尻に指し棒が振り下ろされた。

細い指し棒に打たれたお尻は、そこだけ線状にほのかに赤く、色づいた。


「反省文の代筆は、波江君から言ってきたの?」


ピシィンッ


「んんっ・・・いえ・・・どうにかしてくれとは言われましたけど・・・

代筆って提案をしたのは・・・・俺・・・」


ピシィィィンッ


「ぁっ・・・」

「言ったでしょ! 

反省文は、悪いことをした、っていう反省の弁を文章にしたもの。
それを代筆するなんて言語道断よ!」

「はい・・・・すみません・・・・」


ピシィィンッ


「いっつ・・・・」

「そんなことをしても波江君のためにはならないんじゃないのかしら?」

「・・・・はい・・・・」

「ならどうしてこんなことしたの!」


ピシィンッ


「んあっ・・・・・泣きそうな海保見て・・・どうにかしてあげようって思って・・・」

「その結論が『代筆』ですって? ふざけるのも大概になさい!」


ピシィィンッ


「いたぁっ・・・す・・・すみません・・・・」


全体がピンク色になってきたころ、さすがの葉月もはっきりとした声をあげはじめた。


「そんなに叩かれたかったのかしら?」

「そんなこと・・・思うわけないじゃないですか・・・」


わかりきったような質問に、葉月はぼやき口調で答えた。

とらえようによっては反抗的とも思えるこの態度を、金橋は見逃さなかった。


ピッシィィィンッ


「ったぁっ!」

「何なのかしら、その態度は? もっと欲しいのかしらね、お仕置きが。」

「っつ・・・いえ・・・もう・・・十分です・・・」


今度は慎重に答える葉月。

今のは涙を誘うような一撃とも言えるほどのものだったが、

プライドがあるため、ここで泣くわけにはいかない。そう思ってこらえた。


「あら、そうかしら? わたしにはまだまだ余裕、って風に見えるわよ?」


ピシィィンッ


「いぃぃっ・・・! それは・・・先生の気のせいじゃないですか・・・?」

「そうかしらねぇ・・・・? 

じゃあ、反省してるか確認しましょ。ごめんなさい、って言わなきゃだめよ。」

「(きた・・・・。)」


『ごめんなさい』は葉月もなかなか言えない言葉だった。
建前上、何かしてしまったときに教師たちに言う『すみません』や、
友達同士、何かミスったり忘れたりしたときに言う『ごめん』とは違う。
『ごめんなさい』、幼児が言うような言葉を、しかもお尻を叩かれながらという
最悪のシチュエーションの中で言うのは、至難の業だった。

プライドや羞恥心が邪魔をしてなかなか声にならない。
プライドをとるか、この痛みから早く解放されることをとるか・・・

葉月が心の中で葛藤している間も、
金橋の指し棒は容赦なく葉月のお尻に振り下ろされた。
そして、ちょうど二十発めが振り下ろされる、というときに・・・


「せ、先生・・・ごめん・・・なさい・・・

その・・・反省文の代筆なんて・・・してしまって・・・」


そう言った葉月の顔は、少なからず赤くなっていた。
金橋はそれを聞くと、


「もうこんなことは絶対しないように!」


ピッシィィィィィンッ


「いったぁぁっ・・・!」


今日最強のを、お尻と太ももの境目に打ち込んで、指し棒を置いた。


「いいわよ、もう。整えて、波江君と一緒に戻りなさい。」

「う・・・はい・・・」


葉月は、何とか泣かなかったことにホッとしていた。


「今日は反省文は勘弁してあげましょう。

次やったら、地田先生にもお願いしますからね。」

「っ・・・はい・・・・・・失礼・・しました・・・」


葉月は顔を引きつらせながら、部屋を出た。



部屋の外では、海保が今にもまた泣き出しそうな顔で正座していた。


「はーくんっ!!」

「お待たせ、海保。終わったよ。もういいって。」

「うんっ!・・・・・~~~~!!!!!!」


足が痺れている、ということを忘れて勢い良く立ち上がった海保は、

案の定立っていられずすっころんで尻もちをつき、
足の痛みとお尻の痛みで声にならない叫びをあげた。


「あーあ、気をつけなよ・・・」


葉月は少し呆れた顔をしながら、手をさしのべて海保を起こした。


「いったぁ・・・・(´_`。)

はーくんは大丈夫? 痛くない? 泣いてないけど・・・」

「痛くない・・・わけないじゃない。いったいよ~・・・」

「やっぱはーくんもなんだぁ~」


アハハ、と笑いながら、2人は職員室を後にした。