「なぁなぁ、風丘に一泡吹かすイタズラ思いついたんだけどっ」


2月10日の放課後、惣一が目を輝かせていつものメンバーに言った。


「何、何!?」


つばめが楽しそうにノってくる。・・・が、他の反応は冷ややかで。


「・・・俺はパス。」
「俺も。」
「うーん・・・僕も。」


「何だよっ 聞くだけ聞けよっ」


ムッと惣一が言うも、反応は変わらない。
夜須斗が、溜息をついて言った。


「聞くだけは聞いてあげるよ。でもノらない。最近そんな気分じゃないし。」

「右に同じ。」
「うん・・・」


仁絵と洲矢が同意する。


「・・・お前ら・・・ハロウィンの時の引き摺ってるな?」


「・・・いいから。話すんなら早く話して。

どーせバレンタインにかこつけてなんかやる気なんでしょ?」


「おっ、さすが夜須斗、察しがいいな!」


「・・・だろうと思った。」


惣一の単純さに夜須斗が溜息をつくも、本人は全く気にしていない。


「クラスの女子がそこら中で言ってたからさ。

風丘、絶対バレンタインの日、大量のチョコ貰うだろ?」


「まぁ・・・あいつ、女子人気高いからな。」


仁絵が同意する。


「だろ? だから、その大量のチョコの中に、

超大量カラシ入りトリュフチョコを紛れ込ませる!」


「うっわ、ベタ・・・」


聞いた途端、漏らした仁絵の感想に、惣一が噛みつく。


「んだよ、別にいーだろ! 学校じゃ食べねーだろーから、仁絵。
お前、家でめっちゃおもしれー風丘の顔拝めるかもしんねーぜっ

後で感想聞かせろよ! つーか、出来ればムービー撮れ!」


「ヤダね。だいたい、そんな簡単にいくのかよ・・・」


「でも、おもしろそーっ」

「だろ!? つばめもそー思うだろっ」


盛り上がっている2人を見て、夜須斗が口を開く。


「まぁ、あいつのことだから大量に貰っても破棄とかはしないと思うけど・・・」


「よしっ つばめ、じゃあ日曜日に俺んちで準備だっ」

「おーっ!」


「あ、ちょっと・・・・・・いいの?」


夜須斗のコメントを聞かず、飛び出して行ってしまった2人を見て、

洲矢が首をかしげて夜須斗に聞く。


「いいよ、どーせこのイタズラ、バレるの覚悟でやんなきゃ成り立たないし。」


「ずいぶん冷てぇーじゃん。」


「別に。仁絵が来る前から、俺らは普段は結構こんな感じだよ。

な、洲矢?」


「うん。いたずら、しょっちゅうやってるのは惣一君とつばめ君で、

僕とか夜須斗君はたまに乗るくらいだったから・・・」


「ふーん。」






バレンタインデー当日。


風丘は、朝から担任しているクラスの女子や、

はたまた受け持っている別クラスの女子まで、
たくさんの女子からチョコレートを貰っており、
昼休み、職員室を覗くと、

予想通り大量のチョコレートが机の上に積まれていた。


惣一とつばめは、

風丘や、風丘の周辺の机の先生たちがいない時を見計らって職員室に入ると、
遅れた提出物を出すフリをして、

こっそり、『例のチョコ』をチョコの山の中に滑り込ませた。


これでOK。
2人は目を合わせて笑い合うと、意気揚々と職員室を出て行った。






そして、その日の放課後。

掃除が終わり、

さぁ、屋上に行くか、と5人が集まっていたとき、

ふと風丘に呼び止められた。


「ねぇ、ちょっとこの資料とかノート運ぶの、手伝ってくれない?」


教卓の上に積まれた、

5時間目の総合の時間に使った資料やファイル、ノートの大量の山を指さして、

風丘が言った。

5人は断る理由もなく、渋々少しずつ分担して、5人で持つ。





「よいしょっ・・・はい、先生、これで終わりだよ。」


最後の洲矢が机に置き終わり、風丘にそう告げた。


「ありがとー♪ 助かったよー あ、惣一君。」


それじゃあ退散・・・となっていた惣一を、風丘が何気ない様子で呼び止める。


「せっかく、運んでくれたし。ちょっとお裾分け☆」


そう言って、おもむろに1つの箱を手に取り、中身を開け、

そこから1つ、チョコレートを取り出す。


「え・・・」


見た瞬間、惣一の顔が引きつる。


「大丈夫。これは生徒の女の子じゃなくて、知り合いに貰ったのだし、

いっぱい入ってるから、残りは俺が食べるよ。はい、あーん。」


「っ・・・」


口元にチョコを持ってこられ、どうしようもなくなった惣一は、嫌々口を開けた。
そして、口に入れて数秒後。


「っ・・・うぁぁぁぁぁぁっ」


叫び声を上げて、惣一が職員室を飛び出していき、

一番近くのトイレに駆け込んでいった。
呆然としている4人に、クスッと微笑んでいる風丘。


その騒ぎを見て、偶然職員室にいた雲居がやってきた。


「何してんねん、お前ら・・・」


首謀者は惣一とつばめだが、

惣一は飛び出していってしまったし、つばめは呆気にとられている。
仕方なく、概要だけは知っている夜須斗がかいつまんで説明した。


それを聞き終わった雲居は一言。


「アホやなぁ・・・そんなん、すぐバレんに決まっとるやないか。」


「でも・・・なんでこんなに早く? 

気づくの、持って帰って1つくらい食べてからだと思ってたんだけど。」


そして、食べてから

『こんなイタズラするの惣一たちくらいだろう』ということで、バレる・・・
そういう類のイタズラだと夜須斗は考えていた。
だから、風丘がこんなに早く、

自分が1つも食べないで見抜いてしまったのが不思議だった。


「え? だって、それは・・・」


「そんなん、はーくんがチョコくれた子の顔とどのチョコくれたか、

全部覚えてるからに決まってるやん。」


雲居が、あっさりそう言う。

が、仁絵が意味が分からない、という風に聞き返す。


「はぁ・・・? だって、ここにあるチョコ50個近く・・・」


「54個かな。このイタズラチョコも含めると。」


「え・・・」


「なんや、たかが50個ちょっと。

はーくん、学生時代100個以上もろて、

それでも覚えてたんやからこれくらい余裕や。」


「なんで雲居が自慢げなんだよ・・・っていうか、何、それ。ほんと?」


まさかのことに、夜須斗が目を丸くする。


「まぁ・・・恥ずかしがって直接じゃなくて、

カードとかも何にもなしで渡されたチョコ以外はね。
全部覚えてるよ。だって、お返ししなきゃいけないし。
だから、このチョコ見たとき、すぐに直接くれたのじゃないって分かった。
最初は恥ずかしがりの子かと思ったんだけど、
わざわざ山の奥の方に入れる必要なんてないし、なんか変だなって思って。
それで、カマかけてみたら分かりやすく新堂と太刀川の目が泳いだから。」


「っ・・・」


「夜須斗君たちは、知ってたみたいだけど参加はしてないね?」


目を向けられ、夜須斗、仁絵、洲矢の3人はコクコクと頷く。


「・・・まぁ、ほんとは止めて欲しいけど。そこまでは求めないことにするよ。
さて、太刀川。お部屋に行こうか?」


名前を呼ばれ、ハッとなったつばめは、慌てて逃げようと踵を返すが、
あっさり風丘に捕まり、肩に担ぎ上げられる。


「やだぁっ だいたい、食べてないんだからいーじゃんっ 未遂でしょぉっ」


「まぁ、確かにね。でも、くだらないイタズラを仕掛けたお仕置き。」


「やだぁーっ 離して~(>_<)」


バタバタと暴れるも、全く逃げることは出来ず、つばめは連行されていった。



残された3人と雲居は、その様子を見送りながら、立ち話。


「っていうか、あいつ、そんなにモテたの? 

まぁ、分からなくはないけど・・・」


夜須斗が雲居に尋ねる。


「おー、すごかったでぇ。
高校時代なんか、あまりにもすごすぎて、

妹の花月ちゃんの機嫌が悪ぅて悪ぅて・・・」


「雲居先生は?」


洲矢が雲居に質問する。


「俺? 俺ははーくんほどやなかったけど・・・

いつもつるんでるグループん中では3番目やったな。」


「3番って・・・1番は風丘だとして、2番は誰なの?」


「あー、もりりんや、もりりん。

あいつ、男に対しては超ドSやけど、女子供の扱いは上手いからなぁ・・・」


「・・・もりりんって誰?」


仁絵が、1人話についていけず、洲矢に尋ねる。


「司書の霧山先生。風丘先生と幼なじみなんだって。

あと、事務の氷村先生と、スクールカウンセラーの波江先生も仲良しで・・・」


こうして、ここでは平和な会話が繰り広げられていた。






一方、こちらは・・・




バシィィィンッ ベシィィンッ


「いったぁぁぁぃっ」「ってぇぇぇっ」


「全く・・・毎度毎度、くだらないイタズラが好きだねぇ。」


風丘はトイレに駆け込んだ惣一が出てくるのを待ち伏せし、
出てきたところをつばめと同じように担ぎ上げ、2人を部屋に連れて行った。


そして、部屋につくと2人にソファーの背もたれ側に立たせ、
座面に手をつかせてお尻を突き出すポーズをとらせて、お仕置き開始。
2人の並んだお尻は、すでにピンクに色づいてきている。


バシィィンッ ベシィィンッ

「いたぁぃっ」「うぁぁっ」


「っ・・・てめぇもっ・・・昔はイタズラばっかしてたんだろぉっ」


惣一が、痛みに顔をゆがめながら風丘にかみつく。

が、風丘はさらりと返答。


「俺は、新堂たちみたいに無意味にイタズラしなかったし、

すぐに捕まらなかったもん。」


冷静につっこめる人物がこの場にいれば、
『嘘をつくな』とか『論点そこじゃないだろ』というつっこみがされそうな言い分だが、

あいにくそんな状況ではない。


バシィィンッ バチィィンッ

「あぁぁんっ」「ぎゃぁぁっ」


「これに懲りたら、イタズラやめるか、少しは考えたイタズラすることだね。」


バシィィィンッ バチィィィィンッ

「いたぁぁぁぁぃっ」「よけいなお世話だぁぁぁっ」





こうしてこの後2人は、二人して30発ほど叩かれ、解放された。



が、赤くなったお尻を冷やしながら、もうすでに惣一の頭の中は、
『どうすれば風丘に一泡吹かせられるか』の考えでいっぱいだった。


惣一たちがイタズラに懲りることは、どうやら当分ないらしい・・・。